「Spent」第6章 適応度の見せびらかし その3

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior


買い物をして何かを見せびらかすというディスプレーについて信号理論を当てはめて見せた後,ミラーは誇示的消費について突っ込んだ議論を始めている.


「人々が買い物をするのは本当に見せびらかすためなのか?」
ミラーによるとマルクス主義者,マーケター,労働者階級の原理主義者(?),そして離婚した女性達などはこれに対してYESと考える.そして資本主義者,経済学者,上流階級の原理主義者,もうすぐ離婚する男達は,「これはあまりにも皮肉な見方であり,ほとんどの消費は,自分たちが楽しいとか,家族の安全という効用を考えて行われているのだ」と考えるのだという.原理主義者のところはよく意味がわからないが,最後の離婚云々のくだりは現実的かどうかの性差が示唆されているようでなかなか面白い.


ミラーはこの議論については心理学実験が示唆を与えてくれるという.そしてブラダス・グリスケヴィシウスとジョン・タイバーの4つの実験を紹介している.

実験1
大学生に異性の写真を見せて,「異性意識」グループにはデートを想像してもらい.「対照」グループには天気のことを考えてもらう.その後,数千ドルあったら,贅沢品(時計,ヨーロッパ旅行,車)を買うか貯金するか.何時間か時間があったら福祉ボランティアをするかどうかを聞く.贅沢品質問に対して,男性は異性意識グループの方が贅沢品を買うと答えたが,女性には両グループの差はなかった.ボランティア質問では,女性の異性意識グループはボランティアをより行うと答えた.男性に差はなかった.
これは誇示的消費,誇示的チャリティが異性とのデートを意識したディスプレーとなることを示している.

実験2
上記の同じセットで,「誇示的贅沢品を買うか,それとも見えない贅沢品(高級トイレ,キッチン,掃除機器)を買うか」,「誇示的ボランティアをするか,それともあまり目立たないが社会にとって良いことをするか」を尋ねた.
結果は実験1と同じだった.異性意識グループの男性はより誇示的贅沢品を買うと答え(女性には影響なし),異性意識グループの女性はより誇示的ボランティアをすると答えた(男性には影響なし).
つまり異性とのデートにかかることを想像すると単に消費やボランティアをしたくなるのではなく,それを誇示したくなることがわかった.

この両実験にかかる性差は結構驚きだ.男性は自分の質を宣伝するのに贅沢品を使い,女性は利他的傾向をディスプレーするということだが,それは男性が女性に求めるものと女性が男性に求めるものの差を示しているのだろう.バスたちのアンケート調査とは微妙に違っているようで興味深い.

実験3
同じセットで,誇示的贅沢品と,誇示的だがもっと慈善的な消費(慈善チャリティでの高額落札)のどちらを選ぶか,誇示的チャリティと英雄的行為(火災現場で救助にあたる)のどちらを選ぶかを聞いた.
異性意識グループの男女は両方ともより慈善的な消費を選んだ.異性意識グループの男性はより英雄的行為を選んだが,女性には影響がなかった.
また特に短期的な配偶戦略を想像した男性はより誇示的慈善的消費や英雄的行為を選択した.これらは特に短期的な配偶戦略上の男性にとって有用なディスプレーらしい.

実験4
同じセットで,貧しい人向けのチャリティとセレブ(映画スター)がらみのチャリティとさらに地位もあるチャリティ(ホワイトハウスがらみ)のなかから選ぶ.
異性意識グループは男女とも,よりセレブがらみを選んだ.ただし男性の異性意識グループだけがより地位もあるチャリティを選んだ.この効果は特に短期的配偶戦略を想像した男性に強かった.

短期的配偶戦略時の男性がより派手なディスプレーをしたがるというのは納得的な結果だろう.より地位的なディスプレーをしたがるというのも納得的だ.



さらにミラーはジル・サンディとブラダス・グリスケヴィシウスの最近の実験,マーゴ・ウィルソンとマーチン・デイリーの実験も紹介している.ウィルソンとデイリーの実験は時間割引率の変化を測定するものでなかなかエレガントだ.(魅力的な異性の写真を見せられた後で実際に割引率が上がる)
いずれにせよ全部合わせた結果は明瞭だ.要するに配偶のことを考える男女はディスプレーしようとするのだ.そしてそれは特にのぼせ上がった男性において顕著に表れる.


ミラーは本章をこう結論づけて終えている.

これらの実験は私の主張を裏付けている.
多くの人の消費行動や慈善活動は,コストのかかる信号としての側面を持っているのだ.これらは精妙に調整されている.これらが興奮の結果の偶然の産物だとは思えない.これらは進化適応たるヒトのディスプレーにかかる心理を表しているのだ.