「天上の鳥 アマツバメ」

天上の鳥 アマツバメ―オックスフォード大学博物館の塔にて

天上の鳥 アマツバメ―オックスフォード大学博物館の塔にて

原題は「Swifts in a Tower」(1973).オクスフォード大学博物館のとある塔に営巣したアマツバメたちの観察が本書の中心である.日本ではアマツバメは人家のそばに来ることはまれで,高原や渓谷で上空を舞っているのを見かけるのが普通だが,ヨーロッパアマツバメはまさに人家に営巣する(日本でいえばちょうどツバメやスズメのような)鳥であるそうだ.
最初にかなり高い塔の屋根裏にこもって暗いところから延々と観察する状況が描かれていて,鳥に対する興味と愛を感じさせる.世界中のアマツバメ類の分類と分布に関する記述もあるが,基本は,オクスフォードで観察されるアマツバメ類の様々な行動,生活史戦略の記述とそれがどのような適応だと考えられるのかという問題を扱っている.そういう意味では35年以上前の本であり扱っているトピックに時代を感じることもあるが,基本的な問題意識に大きな違和感はない.


実際に考察されているのは以下のようなトピックである.

  • 巣穴を巡る戦い:所有者が非対称に強いこと,所有者がいるかどうかを確かめる信号,いることを知らせる信号(残念ながらゲーム理論的考察までにはいたっていない)
  • 配偶システム:求愛行動の動物行動学的な興味が中心,システムとしては基本的に前年と同じペアが営巣する.(ここもさすがにEPCの問題には触れていない)
  • 交尾:本当に空中でなされるのかが問題にされている.バードウォッチャー的な問題意識で面白い.ラックはアマツバメは飛行能力が高く,狭い巣の中より空中の方が交尾が容易なのだろうとしている.
  • 営巣行動:世界中のアマツバメ類の営巣方式が比較されている.ここでは巣の形の系統的な変化が問題意識としてあるようだ.
  • 産卵スケジュール,産卵数,ヒナの成長:産卵数と天候の関係が適応的な解釈とともに示されている.
  • 巣立ち:巣立ち前のヒナの運動の適応的意義が考察されている.
  • 採食:基本は昆虫食,このためエサの量と天候に大きな相関がある,近縁のヨタカ類との時間差ニッチ分割も考察されている.
  • 飛翔:様々な飛翔スタイルにどのようなトレードオフがあるのか,アマツバメは特に高速で飛ぶことに適応していると議論している.
  • ヨーロッパアマツバメの夜も飛び続ける行動の適応的意義:よいねぐらがない場合には非常に高い位置で飛び続ける方が有利であると考えられる.
  • 渡り:過去冬期に見られないのは冬眠するからだという議論もあったようだ.推定ルート,越冬地(アフリカ)が紹介されている.
  • 嵐を迂回する行動:これは当時議論になったらしく天気図や観測例を出して詳細に議論している
  • 亜種の分類:これは当時の分類学的な興味がうかがえる.当時の背景から考えてラックは生物学的種概念をとっていると思われるが,実際には亜種についてかなり粘着的な議論をしていて面白い.
  • ヒナ,若鳥の生存率,死亡率:ここで最終的に,ダーウィン的な淘汰圧の強さを示唆し,地域差,近縁種との比較も行い,一腹産卵数の適応的意義が統合的にまとめられて強調されている.


アマツバメという特定の鳥類の生活史全般が詳しく語られていてなかなか面白い本に仕上がっている.適応的意義という問題意識が通奏的にあるので現在でも十分楽しめる.さらに現代的解釈を行う上での材料としても面白いように思う.



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原書

Swifts in a Tower

Swifts in a Tower