「Spent」第9章 6つの中心(ビッグ5と一般知性) その3

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior


ミラーは,ヒトの性格,行動特性に見られる一般知性とビッグ5を概説した後で,そのようなフレームワークがなぜ信頼できるものであると考えられているのかを説明している.
ビッグ5は誰かが一方的に提唱したのではなく,何十年もかけて経験的に認められてきたものだということを強調し,1936年からの研究史を語っている.特に1990年代以降に,それが生涯安定していること,遺伝率が50%程度であること,多くの文化でも同じであること,安定した性差などが認められてきたということだ.


ミラーは,人々が実際に他人について知りたがるのはおおむね一般知性とビッグ5に関することだし,それは公園にイヌを連れて行っても質問されるのは同じようなことだとコメントしている.ミラーは,自分はボーダーコリーを飼っているが,公園で別のボーダーコリーを見ると「きっと賢くて気立てが良いイヌで,飼い主もそうだろう」と考えるといっている.愛犬自慢をしているようでちょっとほほえましい.
考えてみれば,日本で血液型性格判定がこれほどポピュラーなのは,この話が宴会などでとても盛り上がるからで,それはこの話題をきっかけに他人のパーソナリティ特性を議論できるからなのだろう.


では人々はこの6要素についてどのような好みを示すのか.


まず一般知性については基本的に高い方が好まれる.自分の社会的なネットワークのすべてがIQ160の人ばかりという状況を望むわけではないだろうが,友人でも同僚でも80よりは120の人を好むのだ.つまりGには強い方向性がある.低い方を望むのはその人を利用して利益を得ようとするような場合に限られる.


しかしビッグ5についての選好はもっと多様的だ.
基本的に人は自分と同じような人を好むのだ.そして自分への自己評価は他人からの判定に良く一致している.ミラーは開放性の高い人同士は先進的な科学や文化のことを話題にできるし,低い人同士は,「最近の都市文化が伝統や宗教をいかに破壊しているか」を話題にできるとコメントしている.オタク文化Twitterハッシュタグにもこの手の状況があるのかもしれない.


また特定の条件下では特定の方向に選好が働くことがある.ミラーがあげる例は,「マイクロチップカンパニーは製造ラインには誠実性の高い人を求めるだろうが,創造的な広告を打とうとしているならマーケティング部門には開放的で外向的な人を求めるだろう.」「短期的な配偶戦略時には誠実性が低い相手(衝動的な人)を求めるが,長期的な配偶戦略時には逆だ」というものだ.後者はいかにも進化心理的だ.要するにそれぞれの特徴には友人として,配偶者として同僚として,良い点も悪い点もあるということだ.外向的な友人は楽しいが配偶者を誘惑するかもしれない.調和性の高い同僚は通常時には良いが,ストライキを打とうとするときには頼りにならない.
(ミラーはこの節の最後にビッグ5の判定質問票としてラムステインとジョンが2007年に発表したBFI-10を乗せている)


これらの特性は生涯安定したものだが,一時的なものは「感情」とか「ムード」と呼ばれる.ミラーは以下のように解説している.

表面的なパーソナリティがシフトすることは感情と呼ばれる.調和性を下げる必要があるときには「怒り」を見せる.配偶者を得るために開放性が高まった状態は「愛情を感じている」ということになる.これらは文化の上で関心を持たれてきた.目的が達成されると感情は消え,元に戻る.
それほどドラマティックでないシフトは「ムード」と呼ばれる.感情より長く続くがそれほど強烈ではない.
だからパーソナリティとムードと感情は連続している.
私達は他人とその場限りの関係を持つときには,パーソナリティよりそのときの感情を気にする.そして長い関係を持つときにはパーソナリティの方をより重視するのだ.そして人生において重要なのは長期的関係であり,私達は相手のパーソネリティに重大な関心を持つのだ.