「Spent」第12章 開放性 その4

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior




ミラーは,開放性ディスプレーがまず統合失調症耐性のディスプレーであり,そのコストは主に狂気に陥るリスクであると説明した.しかし開放性ディスプレーのリスク(あるいはハンディキャップコスト)はほかにもあるとミラーは言い,これ以外の開放性ディスプレーにかかるコストをあげている.

  • 社会的地位や性的魅力や,安全を脅かすややこしい状況に巻き込まれるリスク(例:Gwarのコンサートで偽血液をぶっかけられ,警察に殺人犯と疑われる.サンフランシスコのハイウェイの下で違法にロボット実験をして爆発に巻き込まれる.進化心理学者になって社会的なオストラシズムを受ける.(なかなか笑えない自虐ネタか,アメリカでは本当に「がちがちの保守反動」みたいな誤解をされてオストラシズムを受けるリスクがあるのだろうか))
  • 薬物中毒
  • 極端に危険な趣味に走る(例:K2登山,ヘリスキー)(ここでは開放性が低い人たちの趣味としてエクストリームアイロンが紹介されている.しかしネットにある動画http://www.youtube.com/watch?v=7MV7-tMrbiMなどを見る限りでは結構開放性が高い人向きのような気もするところだ)
  • 危険な旅行
  • おかしな性的嗜好(例:リアルドールに入れ込んで現実のガールフレンドから引かれる)


これらの開放性ディスプレーをしたがる消費者は企業利益の源泉になるとミラーは指摘している.彼等はだまされやすいのだ.もっとも顕著な例は代替療法だと指摘して様々な最近の代替療法を紹介している.

  • 耳への鍼療法
  • バッハフラワー(雑草の花のエッセンス)
  • 腸内洗浄療法(大量の温水で浣腸する)
  • イルカ療法(イルカへのエナジー移転による感情的な療法)
  • Gerson療法(フルーツジュースを大量に飲む)

ミラーはこれらはホメオパシーや漢方やヒーリンググッズと同じなのだといっている.漢方も同じカテゴリーに入れるのはちょっとどうかという気もするが,西洋医学から見れば単なる代替療法の1つということかもしれない.


開放性の高い人たちはマーケターから見れば利益の源泉で,アーリーアドプターでファッションフォロワーだ.自分の開放性をディスプレーするために新奇なものを買う.彼等の行動こそが流行を作るのだ.
マーケターはこの人たち向けに「計画的な忘却」という戦略を開発する.ちょっとした技術改良をモダンでプログレシブな地位の象徴として売りまくったのだ.

「計画的な忘却」は1930年代から1970年代までのマーケティングの王道だった.メーカーは毎年アヴァンギャルドな新商品を持ち込んだのだ.これらは特に機能ではなくデザインにフォーカスしていた.有用性の観点ではなく,欲望の観点から「計画的な忘却」は構築されていた.
これらはすべての産業デザインに瞬く間に広がった.自動車,家,服,家具.ビジネス界は,実用性や信頼性を誠実性のインディケーターとして売り込むより,新奇さを開放性のインディケーターとして売り込む方がずっと儲かることをすぐに学習したのだ.


要するに自分がミーム感染耐性が高いことをディスプレーしようとする人たちのニーズをうまく取り込んでマーケティングは栄えてきたというわけだ.


なお逆に開放度の低い人たちには新しい商品を売り込むのは難しいとミラーは指摘している.この人たちは新しいものが嫌いでユニフォーム,スーツ,ゴルフウェアが大好きだということになる.
ゴルフウェアがださいのは洋の東西を問わないということらしい.ゴルフ好きの人はクラブやボールの新商品は次々と買い込んでいるようだからこれはちょっと不思議だ.