「Spent」第14章 調和性 その2

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior


調和性ディスプレー.
では誰もが調和性があるというディスプレーをしようとするのだろうか.ミラーはそうではないとしている.これは誠実性と同じで,若い男性の配偶戦略としては,条件次第で調和性がないディスプレーの方が有利になり得るのだという.

まず最初に女性に地位の高さや男らしさを印象づけ,あるいはライヴァルに引き下がるようにさせるには低い調和性ディスプレーがいい.例:リスクを取る,暴力的で断定的,サイコパスとの境界に近い
しかし一旦関係ができれば,長期的な配偶者としての価値を強調するには高い調和性の方がいいのだ.例:女性に対してロマンティックに思慮深く,子供や動物にやさしく,環境に関心を持つ.
これが若い男性の好む音楽が激しいパンクからロマンティックなバラードまである理由だ.


なかなか複雑だ.一般的な傾向としては若いときにより攻撃的に,年を取ってくるとより調和的にディプレーするということになる.そしてマーケターはここに合わせて商品を企画する.

若者はハーレーのファットボーイやBoss Hoss BHC-3(8.2リッターV8エンジンで502馬力)に乗りたがり,Caringsingles.comには見向きもせずにMySpaceの迷路のなかをさまようのだ.
これは自動車の選択によく現れる.車は性的能力と征服のイメージで売り込まれる.極端なのは1990年代のSUVと2000年代のマッスルカーだ.名前にも現れている.Armada, Ascender, Commander, Endeavor, Expedition, Explorer, Hummer, Pathfinder, Torrent, Trailblazer, Tribute, Wrangler

ハマーという名前はそういうイメージだったのだ.日本ではSUVはそもそもそれほど攻撃的なイメージではないだろうし,名前もムラーノとかハリアーであまり攻撃的な含意はないようだ.(ムラーノベネチアングラスで有名なイタリアの島の名前,ハリアーは鳥の名前(チュウヒ),ただしタカの一種だから精悍なイメージはあるだろう)攻撃性をディスプレーしたい日本の若者が乗る車はアメリカとはちょっと違うということだろうか.
マッスルカーは巨大エンジンを積んだハイパフォーマンスなスポーツ車のようだ.日本でいえば日産のGT-R,ホンダNSXあたりのイメージだろうか,こちらも日本ではもう少し大人よりのイメージがあるような気がする.


ミラーはこの攻撃性のディスプレーと調和性のディスプレーは状況に応じてスイッチすべきもので,混ぜるとうまくいかないのだとしている.だからSUVはハイブリッドにしても売れないだろうと予言している.確かに環境を気にするなら,そもそもSUVなんかに乗ること自体矛盾しているということになる.

もっともハイブリッドスポーツカーのCR-Zは日本では人気のようだからそのあたりもちょっと異なるということかもしれない.合わせて考えるとおそらく日本ではアメリカほど男性の「低い調和性」のディスプレーは女性に受けないのだろう.アメリカでは男性はとにかくタフでなければならないという強迫観念が(特に南部では)あるようだから(そうでないとゲイだと思われるということもあるのかもしれないが),そのあたりがデフォルトのディスプレー戦略に影響を与えているのだろう.


ミラーは最後にこのような攻撃性ディスプレーをする男性も20年たてば丸くなるのだといっている.

20年たてば,この男達も大半は落ち着き,妻や子供が調和性の方が好きなのを知り,カムリハイブリッドに乗るようになる.そして「従順な夫のための,性的な意味のない感謝の気持ちを表すガイド」などという本を読んだりするのだ.

これは日本でいうと昔ランエボインプレッサに乗っていたお父さんも20年たって丸くなり,プリウスに乗るようになるという感じだろうか.この面白そうなガイドに該当する日本のお父さん向けの本はあるだろうか.ちょっと探してみたが見つけられなかった.