「Spent」第14章 調和性 その3

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior


少し間が空いてしまったが連載再開.


調和性ディスプレー.

第14章でミラーは,この調和性についての配偶にかかるディスプレー戦略は,男性にとってなかなか複雑で,調和性の低さを強調すべき局面と調和性の高さを強調すべき局面が異なるという議論を行った.


そしてこれに関連したリサーチを紹介している.
男性の調和性のディスプレーが,そのときの配偶戦略(長期か短期か)により可変であるなら,(短期的な)配偶局面にかかるプライミングしたときに見せるディスプレー戦略には性差があるはずだ.(男性のほうが,より低い調和性;一致性の低いディスプレーをよりしやすいだろう)
ミラーはこれを調べたグリスヴィシウスのリサーチを紹介している.
なおこのリサーチはここで読める.http://www.carlsonschool.umn.edu/assets/118355.pdf(ちゃんとミラー自身も共著者になっている.)


被験者に,配偶プライミング(ロマンティックな小説を読ませる)恐怖プライミング(恐怖小説を読ませる)中立プライミング(友人と楽しく過ごすような小説を読ませる)を仕込んだ後,それぞれのグループで集まって,ある特定のアーティストのイメージについて評価させ,評点がどれだけ一致しているかを調べた.

  • 配偶プライミングされた男性は,アーティストに対する周りの評点が高いときには特になんらかの傾向は見せないが,周りの評点が低いときには低い一致性を見せて高い得点をつけた.(これは低い調和性のディスプレーであると同時に開放性ディスプレーでもある.)
  • 配偶プライミングされた女性は,アーティストに対する周りの評点が低いときには特になんらかの傾向は見せないが,周りの評点が高いときには高い一致性を見せて周りの高い得点に合わせた.
  • これに対して恐怖プライミングされた場合には男女とも高い一致性を見せた.


さらにリサーチを進めたグリスヴィシウスは,この一致性ディスプレーの傾向は,評点が事実なのか主観的な判断なのかで違いを見せることを見つけた.

  • 配偶プライミングされた男性はどちらの製品を購入するか(ベンツかBMWか)の主観的判断で特に低い一致性を示す.しかし客観的事実を聞かれた場合(ニューヨークとサンフランでどちらが生活コストが高いか)には強い一致性を見せる.つまり配偶プライミングされた男性は,趣味嗜好において目立ちたいが,間違いを犯すことは避けたいのだ.
  • 配偶プライミングされた女性は,趣味嗜好において人と一致したい傾向を示し,客観的知識についての一致性は中立だった.


ミラーはこのリサーチの結果をこうまとめている

要するに男性は女性に印象づけたいときに人と変わっていることを示したがる.そして心の狭い人間だと思われないように,お馬鹿な事実の間違いをしないように気をつけながらそうするのだ.
女性は男性とは少し異なり,特に何らかのポジティブで開放的な反応において調和性の高さを示そうとするのだ.


なかなか微妙な結果で興味深い.異性を意識しているときに,男性は基本的に目立ちたがる(これは低い調和性かつ開放性を表す).しかしそれは自分が間違うリスクがあるので気をつけなければならない(自分がお馬鹿だということで目立ってはいけない).女性は,目立つより他人と合わせる優しい性格(つまり利他性)を印象づけようとするということのようだ.


ミラーは,ここでこれまでのマーケターの理論を批判している.マーケターはよく「人は皆一致性を示したがる」とか,「女性はより一致性を示したがる」とか.「人は趣味嗜好についての方が事実についてより一致性を示す」とかという一般化したフレームを持ち出すが,このように考えるのは物事を単純化しすぎているというわけだ.ヒトは文脈により非常に複雑にディスプレーを変えるのだ.