「恐竜再生」

恐竜再生

恐竜再生


本書は著名な恐竜学者ジャック・ホーナーによる一般向けの恐竜本である.ホーナーが書き下ろしたものではなく,ホーナーの構想と話を元にサイエンスライターのジェームズ・ゴーガンが本に仕立てたものらしい.というわけで恐竜についての厳密な議論があるというわけではなく,エヴォデヴォを利用した恐竜再生を目指している現在のプロジェクトを縦軸に,様々な恐竜研究にまつわる話が楽しく語られている.


エヴォデヴォの話がちょっと振られたあと,本書は(ホーナーのフィールドである)モンタナ州のヘルクリークというところがどんな場所かという描写から始まる.アメリカの西部の思いっきり田舎の描写*1はなかなか面白い.そこから恐竜についての初歩の解説がある.説明は分岐図を元にした分岐分析的なもので,さらに絶滅を巡るアルバレス仮説の経緯などにも触れられている.そこで止まらずにその後の北米大陸の生物相についても説明があるところはなかなかサービス精神のある楽しい作りだ.その後で最新の発掘成果についても解説がある.


そこから最近の恐竜研究の潮流が物語として語られる.単に化石の形態を調べるだけでなく,その中の構造,そして分子的な分析という流れだ.ここはホーナーの元で修業したメアリー・シュワイツアーの物語として語られる.骨の組織の構造を調べようとして作った顕微鏡写真スライドに赤血球らしきものが写っていることから,化石には生体分子が残っている可能性がわかってきたのだ.DNAは難しそうだが,コラーゲンなどのタンパク質は残っているようだ.であれば直接恐竜の分子データが得られることになる.系統樹の復元にかかる情報源としてなかなか面白そうだ.


次に鳥類と恐竜類の関係についての話題が来る.過去の様々な議論や証拠が並べられ,鳥類の恐竜起源は疑い得ないものだとまとめられている.鳥類の祖先が恐竜だったという話を振ったあとエヴォデヴォについて簡単に説明がある*2.エヴォデヴォについてグールドの「個体発生と系統発生」から始めるところが古生物学者らしい.そしてHox遺伝子のあとは鳥の羽毛の発生過程が解説されている.
こうして鳥類の祖先と発生を説明した後にホーナーの目下のプロジェクト「恐竜再生」が語られる.これはジュラシックパーク*3のような試み(つまり直接遺伝子をいじることにより恐竜を生みだす試み)ではなく,発生過程のスイッチを,化学物質を操作することによりオンオフし,達成しようというものだ.具体的にはニワトリの発生過程で尾が短くなり消滅する部分をストップさせれば尾のあるニワトリになり,さらに前肢や歯の発生のスイッチも入れ替えることにより絶滅した獣脚類恐竜に似た姿の生物を作り出そうというものだ.ホーナーはこれについて熱っぽく語っていてなかなか楽しい.もっとも数千万年前に変化した部分なので,スイッチをいじってもこれまで不要だった各種の遺伝子が壊れてしまっていてうまくその後が進まないのではないかという気もするところだ.


本書はこれまでの恐竜本がいわゆる「新しい恐竜観」についての解説に焦点が当たっていることが多いのに対して,最近のリサーチとしてその先を説明しようとしているところが最大の読みどころだろう.「再生」については私としてはやや懐疑的だが,その挑戦する意気やよしというところだろうか.肩の凝らない読みやすい本であり恐竜ファンには楽しい一冊だと思う.



関連書籍


原書

How to Build a Dinosaur: Extinction Doesn't Have to Be Forever

How to Build a Dinosaur: Extinction Doesn't Have to Be Forever

*1:釣りが唯一の観光資源の小さな街にカルトが入り込んだりする話が語られている

*2:ここで鳥類の恐竜起源説に対する頑強な反対意見の最後のよりどころ前肢の指の相同問題も議論されている.基本的に最新の発生学的知見によれば,発生スイッチの入り方の問題として解決できるという主張がなされている.

*3:ホーナーはこの映画のアドバイザーもつとめており,物語に登場するアラン・グラント博士のモデルだとも言われている.