「Why everyone (else) is a hypocrite」 第9章 その2 

Why Everyone (Else) Is a Hypocrite: Evolution and the Modular Mind

Why Everyone (Else) Is a Hypocrite: Evolution and the Modular Mind



第9章 道徳と矛盾(承前)


(他人へ規範を強制する意味での)道徳判断が複数のモジュールによるもので,意識の報道官モジュールには計算過程が伏せられていることを見た後で,クツバンは各論の議論を行っている.


<中絶>


まず最初はプロライフかプロチョイスかという議論だ.やはりこれが普通のアメリカ人にとっては最大のモラルイッシューなのだろう.


クツバンは2000年の大統領選挙にかかる共和党予備選の公開討論におけるエピソードに触れる.

マケインはブッシュに対して,あなたはプロライフで,レイプや近親相姦の場合も同じかとただした.
ブッシュは,最初にイエスと答え,あとで,でもレイプや近親相姦の場合には例外にしたいと答えた.


クツバンによるプロライフ側の矛盾

  • この解答自体の非一貫性はともかく,ここには矛盾がある.もし本当に「卵と精子は受精の瞬間に人となり,それ以降その命は奪われるべきものではない」と考えるならそういう胎児も守られるべきだ.
  • プロライフには誰を罰するかという問題もある.プロライフの人たちは医者を罰しようとし,女性の罪を問おうとはしない.しかし受精卵の破棄が殺人だというならこれは一貫しない.
  • 彼らは医者のインセンティブをなくしたいなどというが,殺人が罪である理由が犯罪者のインセンティブというのは全く理由としておかしなものだ.


同じくプロチョイス側の矛盾

  • 民主党は非一貫ではない.それは彼らがそもそも理由を説明していないからだ.
  • プロチョイスの人たちは通常プライバシーと(男女の)平等を理由にあげる.平等はナンセンスだ.そもそも男性にその様な自由はない.プライバシーも何を意味するかわからない.中絶の事実を知られたくないことと中絶の自由は別の問題だ.これは最高裁判例Roe vs Wadeが,州による中絶の犯罪化はデュープロセスなしに人権を剥奪できないと定めた修正14条に違反し,この場合の人権とはプライバシーだと言っていることに由来している.
  • 普通のプロチョイスの人たちは,「女性は,自分の身体やセクシャリティに対しては自由をもつべきだ」と考えているだろう.しかし,もしそれが本当の理由なら,売春やポルノや代理母は罰されるべきではないことになる.

さらにクツバンはプロライフ側の判断の過程が垣間見られる例をあげている.

メキシコで2008年に中絶が最高裁で問題になった.この時の裁判官は「受精卵は命であり,女性は最後まで苦しむべきだ」と述べた.
なぜ胎児を守る話ではなく女性の苦しみが問題になるのだろうか.これは,罪が胎児の命にかかるものではなく女性のセクシャリティにかかるものであることを示している.
これがレイプの例外を説明する.意図によらない性交によった場合には女性を非難できないと考えるのだろう.


クツバンは結局プロライフもプロチョイスも彼らがいう理由とは別の理由で判断し,説明は後付けで探しているのだとまとめている.
では本当の理由はなんだろうか.クツバンはそれには答えず次の問題にすすむ.



<ドラッグ>


アメリカではニコチンとアルコールとカフェイン以外のドラッグは禁止されている.これは広い支持を受けている.政治家たちは自分がいかにドラッグにタフかを競い合うのだ.
日本でも状況はほぼ同じだろう.マスメディアによる薬物で逮捕された芸能人へのバッシングでそれがわかる.



なぜ人はドラッグは悪だと思い,それを禁止したがるのだろう.問われると人々は「それが人々にとって有害だから」という理由を上がるだろう.クツバンは,しかしそうであるはずがないとたたみかける.


  1. もしそうならなぜニコチンとタバコを禁止しないのか.
  2. 人々はそれ以外にも有害で危険なことを山ほどやっているが,禁止しようとする人はあまりいない.(スキーの滑降などなど)
  3. ドラッグがどんなひどいことを引き起こすかよく知っているという言い方をする人もいるが,台所のナイフだってひどい状況を引き起こせる.
  4. そして有害が理由なら,合法化した方が害が減るなら合法化に賛成すべきだが,ほとんどの人はそう考えない.
  5. 問い詰められるとドラッグは悪だ,それは犯罪と暴力にまみれているというが、違法だから暴力と犯罪がまとわりつくのだ.それは禁酒法時代を考えればわかる.
  6. 次に人々が飛びつくのが「社会への害」だ.合法化すると人々がそれにふけり,社会が機能しなくなるというのだ.しかしアルコールを飲むからと言って社会が機能していないわけではない.人生にはハイになるよりもっといいインセンティブがあるのだ.

クツバンは,私は合法化すべきだと言っているのではないと断っている.人々が持ち出す理由が真実ではないと言っているのだ.
では真の理由は何なのか?どんなモジュールが絡んでいるのか.その機能は何か.
やはりクツバンはこれに答えず次にすすむ.