「Why everyone (else) is a hypocrite」 第10章 その2 

Why Everyone (Else) Is a Hypocrite: Evolution and the Modular Mind

Why Everyone (Else) Is a Hypocrite: Evolution and the Modular Mind



第10章 鳥のためのモラリティ


クツバンの説明はいよいよ本書の題でもある偽善に向かう.


<なぜ(私以外は)誰もが偽善者なのか>


これはここまで説明してきたモジュラリティを考えれば容易に理解できるというのがクツバンの説明だ.
自分の適応度を上げるために他人の行動を制限しようというモラルモジュールは,同じく自分の適応度を上げるために自分の行動を推進する(ルールを破ろうとする)モジュールとは別のモジュールだと考えればいいのだ.
競争状況だということを考えると,競争相手の足を引っ張り,自分は得をしようとするのは当たり前だ.では何故他人にルールを強制し自分は従わないという行動は(つまり偽善)は非難されるのか.


ここでモラルの本質のひとつには「他者が従うなら自分も従うことに同意する」つまり公正の感覚がある.なぜなら他者が従うことに無関心で自分だけ従うのは明らかに不利であり進化できないはずだからだ.このような不利を避けるために,認知的にはこの公平性が破られているかどうかに敏感になる.
そして偽善はこの公平性を崩す.だから非難される.


そしてモラルモジュールはひとつだけではない.数々のモラルモジュールがあると考えるべきだ.するとヒトは特定の状況に応じて特定のモラルを支持し,そのモラル間の矛盾は無視するようになるだろう.だから道徳原則間が矛盾しているような偽善も生まれる.
そしてこれを許すとそのヒトは有利になるので,これを見破り非難するモジュールも進化するだろう.


さらに最後の謎「何故自分の偽善には気づきにくいのか」もモジュールで理解できる.
基本的にモジュール間の矛盾には気づかない方が有利だ.他人に見破られ,非難されるリスクだけが問題になる.だから他人に気づかれるリスクがあるときだけ自分の非一貫に気づけば十分なのだ.


ここまでモジュールの理解が進んだところで,この一気にたたみかけるクツバンの説明は大変説得的だ.むしろ偽善であることは当然で,それに無知であることは戦略的に有利だ.だから私達はそれに積極的には気づかないようになっているのだ.


クツバンは最後に政治家がより偽善的に見える理由も挙げている.

  • モラル的な質問をされることが多い
  • 様々な行動を迫られ,誘惑もある


このクツバンの説明に加えて,おそらく多くの人が多くの行動を見ているので,より気づかれやすいということもあるだろう.本来はもっと自分の非一貫に気づいた方が有利なのだがそのような感知モジュールがないのだ.これも一種の現代環境に対する認知能力の非適応という現象かもしれない.
様々な過去の言動の記録が残り,検索しやすくなっている現代においては,この自己の非一貫感知モジュールがないということは政治家に限らずいろいろな悲喜劇を巻き起こすことになるのだろう.

ともあれこれでクツバンのモジュールの説明は終了だ.最後にエピローグが残っている.