
- 作者: ダグラス・アダムス,マーク・カーワディン,リチャード・ドーキンス,安原和見
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2011/07/23
- メディア: 単行本
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本書は英国のユーモアSF作家のダグラス・アダムズの手による抱腹絶倒の旅行記で,動物学者マーク・カーワディンとともに世界中の絶滅危惧種を訪ね歩いた様子が描かれている.この紀行自体は1980年代後半になされていて,原書の「Last Chance to See」は1990年の出版.英米ではかなり有名な本だったようだが,20年以上たっての初の邦訳となる.アダムズ自身は2001年に49歳の若さで急逝しており,冒頭には原書の2009年版に収められたリチャード・ドーキンス*1の序文が載せられている.
訪ねられている絶滅危惧種はマダガスカルのアイアイ,インドネシアのコモドドラゴン,ザイール(当時:現在はコンゴ)のマウンテンゴリラ,キタシロサイ,ニュージーランドのカカポ,中国のヨウスコウカワイルカ,ロドリゲス島のロドリゲスオオコウモリ,およびモーリシャスの固有種の鳥たちということになる.(実はこの紀行ではあとブラジルのマナティ,チリのフェルナンデスオットセイも訪ねていて,本と同時に企画されたBBCのラジオ番組ではこれらも取り上げられているのだが,アダムズの遅筆のため本には収録できなかったようだ.)
アダムズはいかにも英国風のとぼけたユーモア全開で旅行記を綴っている.
マダガスカルの現地統治のでたらめぶり,当時のザイールの小役人の腐敗ぶりとそれに英国式に対応するアダムズたちのやりとりは本当におかしい.早口でしゃべるオーストラリアの生物毒の専門家やモーリシャスの鳥類の保全関係者の独断ぶりもユーモアたっぷりだ.人跡未踏の秘島に乗り込む決意で小さな船をチャーターしコモド島に渡ったところ,そこには毎日フェリーで大量にアメリカ人観光客が運び込まれていてコモドドラゴンの餌付けショウまであった顛末や,マウンテンゴリラの住む雲霧林への旅では実に用意周到なドイツ人の若者と同行して英国魂がわき出る描写(彼等がドイツ人であるのはまったく偏見に基づいているようでライターとして我慢できないからという理由でラトヴィア人だったことにするなどと書かれている),南京で水中録音するためのマイクカバーとしてコンドームを入手しようとするドタバタ劇などはまさに抱腹絶倒だ.ニュージーランドで出会ったいかにもスコットランド人の孤高のカカポトレイラーの様子や,躍動と混乱とカワイルカ保護の熱意が渦を巻く当時の中国の風景も素晴らしくよく書けている.
それらの混沌とドタバタぶりが派手に繰り広げられれば繰り広げられるほど,背景の通奏低音のような人間の都合で容赦なく数を減らされた動物たちの哀愁が,よりやりきれなさを増して迫ってくる.挿入されている写真はアダムズとカーワディン自身の手によるもので,そのいかにも素人臭い写真がまたこの本のペーソスによくフィットしている.
この本に書かれている状況は20年前のもので,その後の状況変化というものは当然にある.本書の工夫としてはカーワディンに確認しつつそれぞれの動物の現況が解説されている.カカポは保全努力が実を結びつつあるし,ゴリラやコモドドラゴンはほぼ同じような状況にあるようだ.しかし残念ながらキタシロサイはさらに絶滅の縁にあり,ヨウスコウカワイルカは絶滅してしまった.(本書では中国の保全努力が最も力が入っているように描かれているだけに特に残念に感じられる)原書は当時英米でかなり話題になった本で,保全に対する大衆の認識を高めた本としても評価されているようだ.
本書は基本的には爆笑旅行記としてとてもよく書けている.(少なくとも私は今までみすず書房の本でこんなに笑える本を読んだことはない)全体としては,世界中を渡り歩くユーモアSF作家とやや人嫌いの動物学者の弥次喜多道中として大笑いしながら読みつつ,ところどころで絶滅についていろいろ考えさせてくれるちょっと趣の変わった本だと言えるだろう.
関連メディア
原書
2009年版からドーキンスの序文が載せられている.

- 作者: Douglas Adams
- 出版社/メーカー: Harmony
- 発売日: 1991/02/13
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- 作者: Douglas Adams,Mark Carwardine
- 出版社/メーカー: Arrow
- 発売日: 2009/11/02
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- MEDIUM: MAC CD-ROM
- ISBN: 1559406100
- LANGUAGE: English
- PUBLISHER: Voyager Publications
この「Last Chance to See」は上述のようにBBCのラジオ番組として放送され,本になり,さらに1992年にWindows3.1とMac(OS7.1)のCD-ROMが出されている.当時はインターネットが普及する直前で,CD-ROMはこれからのマルティメディア時代の先駆けとして大変な脚光を浴びていた頃だ.このCD-ROMでは本には掲載されなかった写真が何百枚も追加されていて,それらを流しながら,背景では何とダグラス・アダムズ本人が原書を情感たっぷりに朗読してくれ,リンクをクリックするとカーワディン自身による動物学的解説が聴けるという趣向になっている.
私はあまり内容もよく知らないまま当時このCD-ROM(Mac版)をアメリカで入手していて,本書の邦訳はその意味でも感慨深い.本書を読みながらどうしてももう一度このCD-ROMを視聴したくなり,Tigerのときに購入してLeopardにアップして現在引退していたG4のMac miniを引っ張り出して,Tigerをもう一度クリーンインストールし,延々とアップデートを繰り返し,クラッシック環境*2をさらにインストール,(ここでCD-ROM内にあるリーダーアプリの解凍方法でつまづいて散々苦労したあげくに)半日以上かけてようやくまた見られるようにした.
訳本を読んで大意がわかっているところでこのCD-ROMを久々に見てみると,アダムズの英国風アクセントでの早口の朗読は本当におかしい.視聴しながら何度も吹き出してしまう.追加の写真も味のあるものばかりで(タンザニア空港の乗り換えカウンターの売り子のお姉さんの写真とかも,本文と合わせてみると本当におかしい)嬉しい限りだ.(現在では再発売は難しいのだろう.今amazon.comのusedのコーナーを見ると200ドル近いプレミアがついている)
なおこの「Last Chance to See」については2009年にBBCの手により,アダムズの友人のスティーブン・フライとカーワディンによってその後どうなったかの続編がTVシリーズとして作られているそうだ.私はまだ見ていないが,機会があれば是非見てみたいものだ.
ダグラス・アダムズの本
本書では,アダムズ自身は自分の本ではこの本がもっとも気に入っていたと書かれているが,一般的にはアダムズはSF作家として認知されており,銀河ヒッチハイクガイドシリーズで有名だ.これは最近訳し直されて全部文庫版で入手できる.

- 作者: ダグラス・アダムス,安原和見
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2005/09/03
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- 作者: ダグラス・アダムス,安原和見
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
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- 作者: ダグラス・アダムス,安原和見
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
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- 作者: ダグラス・アダムス,安原和見
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
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- 作者: ダグラス・アダムス
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2006/08/05
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