
The Better Angels of Our Nature: Why Violence Has Declined
- 作者: Steven Pinker
- 出版社/メーカー: Viking
- 発売日: 2011/10/04
- メディア: ハードカバー
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なぜ第三次世界大戦は生じなかったのか,あるいは「長い平和」はなぜ生じたのか.ピンカーは核の平和を否定し,統計的には民主制の進展と相関することを説明した.ではこの相関の背景には何があるのだろうか?
<長い平和はリベラルの平和か>
まずピンカーは古典的リベラリズム(政治的自由主義と経済的自由主義)が平和を推進したという「リベラル平和理論」を検討する.
この平和理論は以下の主張を行う.
- 交易はポジティブサムを通じて互恵的な協力を生み,歴史は協力のサークルの輪の拡大として理解できる.
- 近年,輸送技術,通信技術が発展し,貿易協定,国際金融,現代経済への信頼から経済のグローバル化が進展している.
- 過去の歴史では18世紀に大国競争から脱落したオランダ,20世紀後半にはドイツ,日本が武力を背景にせず交易により発展した.逆に1930年代のブロック経済では国際関係は緊張した.今日の米国と中国の友好的な関係は交易あってこそだ.
- 分かり易くいうと「マクドナルドの店がある国同志は戦争をしない」のだ
反対論には以下のような主張がある.
- 古代や中世ではこれは当てはまっていない.船や道路は戦争にも使える
- 軍を持って交易を強制した事例もある:阿片戦争
- 大国同士の戦争の場合,両国間には通常交易関係がある
- WWIの前の英独の交易量は史上最大規模だった.
- リーダーは経済的繁栄より優先順位を持つ目標(ユートピアイデオロギー,歴史的正義など)を持つことがある
擁護論の反論
では統計的にはどうなっているのか
- GDP対比の交易量と戦争の相関は明らかで,民主制,力の差,成長率などのコントロールしても,交易が多い国は戦争しにくいという結果が得られる.
- またさらに分析すると,その効果は金融や技術の発展程度に依存するという結果になる.
- 特に面白いのは相手国との貿易量だけではなく,全体の交易水準も有効であるということだ.これは世界経済へのオープンネスが効いていることを示しているのだろう.
- 外国からの投資の受け入れ,契約の自由,金融の自由なども入れ込んだ「経済的なオープンネス」をとると民主制よりもロバストな結果になる.片方の国のみがオープンであっても戦争をしにくいという結果が得られる
以上の結果を見て一部の政治学者は「資本主義の平和」理論を唱えている.彼等は政治的自由より経済的自由の方が平和には効くのだと主張する.彼等はカントの説明は全て資本主義に当てはまるのだと説く.
- 自発的な合意を尊重する倫理は,国家間の間の倫理として自然に拡張されるだろう
- 自由市場の透明性,わかりやすさは相互理解につながるだろう(チキンゲームになりやすいホッブス的なブラフの世界が少ないはずだ)
- ステークホルダーである資本家は交易を破壊する戦争に反対するはずだ.
さすがにピンカーはこの「資本主義の平和」は異説 Heresy として扱っていて(兵器商人を思い浮かべる左派はこれを聞いて開いた口がふさがらないだろうととコメントしている),資本主義であって民主制でない中国の今後もみなければならないだろうとこの主張の正否を留保している.
しかし結論としては「リベラルの平和」はソリッドだとコメントしている.