日本進化学会2012 参加日誌 その3 


さて日本進化学会二日目,もちろんこの日も快晴で暑い一日である.二日目は午前中にプレナリーの国際シンポジウム,午後ポスターセッションのあと総会,日本進化学会賞授賞式,および受賞講演という日程である.


大会二日目 8月22日


最初のシンポジウムは分子系統学についてのもの.


国際プレナリーシンポジウム: “Phylogenetics”


On the benefits and difficulties of obtaining 'complete' phylogenetic trees, with examples from plants Michael Donoghue


導入はダーウィンのノートの有名な系統樹(の原型)から始まり,ヘッケルの系統樹,ツインマーマンとヘニングの分岐学と進み,そして1980年以降の分子系統樹の話になる.かつて近縁と思われていた分類群が実は遠い関係で,形態の類似は収斂だった印象的な例が紹介され(植物学者らしく睡蓮と蓮が取り上げられていた),さらに様々な系統樹が次々と投影される.
そして本題はガマズミ属170種の系統樹,系統地理の理解.そして系統樹に組み入れる種数を増やすにつれて,より正確な系統樹に近づき,理解が変わってきたことを発表者自身の研究の歴史と衰えぬ熱意とともに見事にプレゼンしていた.
この中で,葉の形(ぎざぎざ模様があるかないか)と分布の緯度の話があり,面白かった.緯度が高く寒い分布域の樹木ほど葉のぎざぎざが増える.そしてより詳しい系統樹で見るとそれは分布が寒い地域の広がると何度も独立に進化していることがわかる.そしてどのような適応なのかについての有力な仮説は,寒い地域では芽が小さい方が有利であり,ちょうど折りたたんだ折り紙を切ったように,開いたときにぎざぎざになる形の方がコンパクトな芽になれるというものだそうだ.そして独立して進化した系統ではそれぞれ折りたたみ方が異なりぎざぎざのパターンも微妙に異なっている.
また葉の中にアリやダニを住まわせて利益を得るための適応(葉の中に穴や窪みがあり,葉柄に蜜線を持つ)については逆に進化回数は少なくクレードでまとまっているそうだ.
最後にできるだけ種数を増やした系統樹を作りたいので,学会で国外に出るとまず採集を考え,ここまで170種中140ぐらいまで来たこと,ここからは希少種が増えて難しくなるががんばりたいと抱負を語って締めていた,
系統地理,進化生態が絡み合った面白い講演だった.



Hot spots in the coevolution of life and Earth S Blair Hedges


系統樹(Tree of Life)はトポロジーだが,進化時計を枝の長さにきちんと対応させるとTime Treeとなる.
これを調べると大きなHot Spotは過去5回あっただろうという講演.

  1. 38億年前:外宇宙からのインパクト(小惑星の衝突)
  2. 25億年前:陸上のバクテリアのホットスポット,背景は全球凍結
  3. 5億年前:カンブリア爆発の直前に酸素濃度の上昇,陸上への植物の進出
  4. 1億年前:大陸の大分割,鳥類や哺乳類が分岐
  5. 現在:人類の影響による大量絶滅


最初の3つは面白い.分子データから非常に古い時代のことが推測できるということがわかる.しかしあとの2つはやや疑問(というか詳細なデータがよくわからず).大陸分割よりは白亜紀末の隕石衝突とその後の放散の方が影響が大きいのではと言う疑問なしとせず.また現在は大量絶滅進行中というのはよくわかるのだが,何故それをホットスポットと数えるのかについてもよくわからなかった.



New methods and tools for the next generation phylogenetics Sudhir Kumar


講演者が開発した新しい系統推定手法についてのかなり専門的な講演.結構革新的らしいが,さすがに当方に前提知識がなくよくわからず.



Perspectives on evolutionary biology based on phylogeny 長谷部光泰


分子系統樹の意義についての講演
最初のポイントは,分子系統樹が形態とは別のデータから系統樹を示すので,形態についてもう一度相同関係を考えることにつながるというもの.例としてはグネツム類と針葉樹の体制が説明された.
次は(特に植物について)ゲノムネットワークとして進化を考えるというもの.動物はHoxによって発生の相同関係がある程度わかるが,植物はそう簡単ではない.まず85%程度の発生の遺伝子を共有しているが,丁寧に遺伝子重複や重複後の機能の転換を見ておくことが必要になる.また残りの15%の遺伝子は作用のネットワークの中で考えていくことで理解できるというもの.このように植物と動物が異なっているので,植物においては倍数体の進化が容易になるのだろうと付け加えていた.
最後は複雑な形質について.ここでは花粉管の伸長とめしべ側の受容がどうなっているかを調べると,同じ遺伝子からの分岐だったことがわかったこと.また操作により遺伝子の祖先形質を調べることができることなどが説明されていた.



Characteristics of mitogenomic data for vertebrate phylogenetics 熊澤慶伯


ミトコンドリアのデータを使って系統推定する際の問題点をヘビの位置づけを例に説明.遺伝子ごとに進化速度が異なるような場合には遺伝子ごとに系統樹を作ってそこから最尤推定する方が良いというような内容だった.


専門的な内容で英語による講演なのでわからない部分もあったが,この分野で最近どのようなことが話題になっているかの感触が得られて面白いプレナリーだった.


これは大学から駅方向を見た風景だ.