「Sex Allocation」 第3章 血縁者間の相互作用1:協力と競争 その4

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


LREの実証リサーチは,鳥,ハチに続いて最後に,哺乳類,コナカイガラムシの例が紹介されている.


3.3.3 齧歯類の個体群動態サイクル


ある種の小型齧歯類の性比の季節変化がLREで説明できるのではないかと示唆されている.
ランビンは,タウンセンドハタネズミの性比が春先に0.35程度とメスに傾いていることはLRE.LRCで説明できると主張した.(Lambin 1994)この種ではオスは分散するがメスは生まれたサイトにとどまる.メスの採餌レンジはオーバーラップし,血縁個体とオーバーラップしている方が生存率も繁殖率も上がる.個体密度が低い春先にはこの効果が高く,密度が増大するにつれてLRCが効いてくる.

エストはこのリサーチは示唆的だと評価した上でいくつかコメントしている.

  • LREの詳細,その季節変化が明示されていない
  • データはメスの性比調節はローカルな個体密度ではなくグローバルキューによっているようだが,なぜそうなっているのかについては説明がない.
  • このような場合に全体性比がどうなるかの理論はまだ示されていない.
  • LRCが効いているかどうかがはっきりしない.
  • 代替説明が排除されていない
  • メス同士で助け合うにもかかわらず分離性比の状況になっていない.
  • 性比調節の時点が示されていない.


3.3.4 オスライオン同士の協力


ライオンの性比の変異についてもLREで説明できるのではないかと示唆されている.
ライオンのオスのメスプライド乗っ取りそしてプライドの支配維持は,一腹兄弟および同プライドで同時期に産まれたオス同士(これをコホートと呼ぶ)で助け合った方がうまくいきやすい.これはLREを予想させる.(メスのプライド頭数はナワバリが最適化されるように分散が生じる結果によって決まるのでメスにはこの効果はない)母ライオンはコホートサイズが大きいときには性比をオスに傾ける方が有利になるだろう.

パーカーとピューシーは20プライドの長期間のデータでこの予測を検証した.彼等は次のように議論した.

  • 母ライオンは二つの方法でコホートサイズが大きくなることを予測できる.
  • まず,プライドがオスに乗っ取られた直後には子殺しなどによって多くのメスの出産が同期するのでコホートが大きくなりやすいだろう.実際に乗っ取り300日未満の出産の性比は0.57,それ以外の時期は0.48だった.
  • また母親は自分の一腹個数が大きいとコホートサイズも大きくなりやすいと予測できるだろう.実際に一腹子数が1,2頭の時より3,4頭の時の方が性比は高かった.

エストはまずこのデータには同一個体の観察が多く含まれているので注意すべきだと留保した上で,興味深い点をいくつかコメントしている.

  • オス同士の協力は血縁個体だけではないこと
  • 分離性比の兆候がないこと.


3.3.5 コナカイガラムシのLRE

コナカイガラムシもLREの可能性があるとされている生物の一つだ.ヴァーンデルとゴドフリーはPlanococcus citri の一次性比がメスに傾き,その傾き具合は,個体密度に影響を受け,さらに幼生時と成虫時で影響の方向が異なる(幼生時には密度が高いとよりメス比が低くなり,成虫時には逆になる)ことを示した.ヴァーンデルたちはこれらがメス成虫が固まることによる樹液の摂りやすさに関連するLREによるものだと主張している.
エストはしかし,なぜ成長ステージでそれが逆向きになるのかが不明だし,そもそもLMCなどの代替説明を排除できていないとコメントしている.そしてさらなるリサーチは,いくつかの異なる淘汰要因の存在,性比調節メカニズムの解明,父親由来ゲノム喪失メカニズムと性比調節に係る制約の関係などが明らかにできる可能性があるとしている.


以上がLREにかかる実証リサーチのあらましだ.なかなかクリアーな実証は少ないことがわかる.ウエストは続いてLRCの解説を行う.