Sex Allocation (Monographs in Population Biology)
- 作者: Stuart West
- 出版社/メーカー: Princeton University Press
- 発売日: 2009/10/18
- メディア: Kindle版
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TW効果があるときの個体群全体性比について.ウエストは,「単純ケースでは安い性に傾くことが予想されるが,実際には複雑化要因が多い」ことを解説した後,単純ケースの別の前提について取り上げる.
7.2.2 個体群の投資/アロケーション比率
単純な性比に比べ,個体群全体の性投資比を予測するのは難しい.ウエストはまず個体群の性投資比の定義として「個体群レベルでの(オスメス双方生産のためのリソース対比での)オス生産のためのリソース比」とおいて議論を進める.
ウエストはここでESDに関しては日照時間や気温がキーになっているとそもそも性投資比という概念自体が意味をなさなくなると書いている.この意味はよくわからない.「個体群の平均的な環境条件において結果的にどちらに使われるか」という定義では何か問題があるのだろうか.
とはいえ,「ピンポイントでの予測は難しいとしても種間や個体群間のばらつきにどのような傾向が出るかは予測できる」とウエストは指摘している.
- フランクは孤独性のハチ類について性投資のメス/オス比率が体サイズのメス/オス比率と正に相関すると予想した(Frank 1995)
- このサイズのメス/オス比率の個体群間のばらつきは,リソースのばらつきか,あるいはサイズに対する適応度関数の性差によりもたらされるとフランクは考えた.
- 相関についてフランクは以下のように説明した.メスの方が体サイズが大きくなるとより繁殖価が高くなり,よりリソースの多い個体群はよりメスに投資するとする.この場合大きな体サイズになることの相対的有利性がメスよりもオスで上昇すると,メス生産への閾値は下がるだろう.個体群全体はよりメスに投資するためにメス/オス投資比率は上昇し,(オス内で比較的大きなオスの個体が,メス内で比較的小さなメスの個体に入れ替わるが後者の方の影響が小さいため)メス/オス体サイズ比率も上昇する.
- フランクはこれを数理モデルに組みあげた.この相関はいくつかのハチ類で観察されている.
ウエストは社会性のアリ類などではワーカーとクイーンのコンフリクトにより影響されるために性投資比の予測は難しいこと,この実証リサーチは乾燥質量で性投資比を測定しているので測定エラーのリスクがあること,単に大きなメスがいるだけでこの相関は生じうるので非常に微妙な統計上の検定の問題もあることを付言している.最後のコメントはいかにも渋いものだ.
なおこのフランクの相関が生じることの説明はわかりにくい.閾値変更の場合の相関は説明されているが,リソースの豊凶による個体群間のメス/オス投資比率がばらつく場合になぜメス/オス体サイズ比と相関するのだろうか.詳細はオリジナルのリサーチと数理モデル自体を見るほかなさそうだ.
7.2.3 性転換
ウエストはここで性転換種の性投資比について少し詳しく取り扱う,それは,性転換種には7.2.1で取り上げたような複雑性要因があまり効かず,さらにウエスト自身がいくつか実証に関わっているからということのようだ.
ウエストはまず以下を指摘している.
- 性転換方向は齢を重ねるにつれてより適応度が大きくなる性に転換するという方向になる.
- 死亡率と静的な年齢構成前提から質(齢やサイズ)の分布が決定される
- クラッチサイズの複雑性は考慮する必要がない
そしてそこから導かれる「性転換種の個体群全体の(繁殖期にある個体の)性投資」について以下が予測できるとする.
- 性投資比は「最初の性」(成熟時の性)に傾く.
- 一部個体のみ性転換する部分転換種の方が性投資比の偏りは小さい.
- 「最初の性」がメスである種の方が性投資比の偏りは大きい.
なぜこのように予測できるのか.ウエストは以下のように説明している.
<性投資比が最初の性に偏ること>
- 性投資比が「最初の性」に偏ることについては,基本的に7.2.1.1で説明した「安い性」に偏るのと同じ説明が妥当する.(ウエストはここをかなり丁寧に言い換えて説明している)
- アルソップとウエストはこの予測の検証を多様な121種の性転換生物で試みた.結果は,予測通り,最初の性に偏った性投資比が観測され,先メス生物では先オス生物より(種を一つのデータポイントとして系統を考慮して検定し)有意に大きく偏っていた.(Allsop and West 2004)さらにこの結果は116種の魚類を用いたリサーチでも確認された,(Molloy et al. 2007)
- 先メス生物のオスは,先オス生物のオスよりも精巣が小さい傾向にあった.これは先メス生物では最も大きなオスがハレム型の配偶を行うことが多く,この場合には精子競争の必要が小さく,(性投資比を計測する基礎になる)精巣への投資がそれほど大きくなくても良いからだと考えられる.
<部分転換種の方が偏りが小さいこと>
- 先メス生物種に,一部小さいままオスになる個体(若オス個体と呼ぶ)が存在する場合を考えよう.これは若オス個体が通常の転換オス個体より適応度が小さい状態において生じうる.するとWmの平均は若オス個体が生じない場合より小さくなる.NmWm=NfWfが成り立っている中でWfに比べてWmがさがるとNm/Nfは上昇する,すなわち性投資比のメスへの偏りは小さくなるのだ.先オス生物でも同様の議論が成り立つ.
- アルソップとウエストは先メス生物についてこの予測が支持されることを見いだした.*1
- しかし先オス生物ではこのような傾向は認められなかった.アルソップたちはいくつかの説明を試みている.「多要因の影響に左右されて統計的に有意になりにくくなっている」「先オス生物には生物学的な実態として予測の前提に合わない部分がある(オスの死亡率が大幅に高い,リソースの制限が極端に大きい,オスは小さくでモビリティがある方が有利になるなど)」「何らかのサンプリングバイアスがある」
最後の点はなかなか面白い.2番目の説明は,「先オス生物にはオスが極端に小さいものが含まれていて,その性投資比には別の考察が必要になる」ということなのだろう.
<先メス生物の方が性投資比の偏りが大きいこと>
- 無脊椎動物と魚類ではメスの繁殖能力はサイズの3乗に比例する形で増加することが多い.この場合性転換方向はオスのサイズに対する適応度増加曲線の形状で決まる.これはサイズ上昇に対するオスの適応度は,先メス生物では(メスのサイズ3乗比例より)急速に上昇し,先オス生物ではあまり上昇しないことを意味する.
- 転換点での適応度を1.0と置く.先オス生物ではWmは1.0かそれよりやや低くなり,Wfは1.0より(サイズ3乗比例に従って)大きくなる.先メス生物ではWfは(サイズ3乗比例に従って)それなりに1.0より低く,Wmは(サイズ3乗比例以上に)かなり1.0より大きくなる.このため先メス生物の方がWmとWfの違いが大きくなりやすく,NmWm=NfWfが成り立っている中で性投資比の偏りがより大きくなりやすいことが予測される.(これについてはわかりやすい図が示されている)
- アルソップとウエストはこれに対する(完全ではないが)支持証拠を見いだした.*2
この部分は理論的になかなか面白い.自身が検証を行ったことでウエストの説明にも力が入っていてかつ大変丁寧だ.