「『社会の決まり』はどのように決まるか」


本書は「フロンティア実験社会科学シリーズ」の一冊.このシリーズは,特定領域研究「実験社会科学」の研究成果をまとめたもので,これまでの政治学経営学,経済学,社会学,心理学などという学問の垣根を越え,社会が進化の産物であるヒトの行動や選択の積み重ねの結果形成されることを正面からとらえ,ヒトの特性の観察,実験によって社会を理解していこうという取り組みを紹介するものだそうだ.本書のその中で「社会規範」がどのように成立するのかを扱ったものということになる.


序章では問題状況が概説される.
最初にホッブスの議論とダンバーの社会脳仮説を振ってから,「社会規範がうまく機能し,維持されるために解かなければならない問題」とは何かを説明する.それは互いの行動をどう調整するかという「コーディネーション問題」と個々人の規範を守るインセンティブをどう設計するかという「秩序問題」ということになる.簡単にいうとコーディネーション問題とは個々人がどのように振る舞えば社会全体が効率化するのかということであり,秩序問題とは,個々人が利己的に行動することによって社会の効率化を実現不可能にしないためにどのようにインセンティブ構造を設計するかということだ.後者は進化的に見ると利他行動の進化の問題につながり,なかなか深いだろう.というわけで本書の大きなスコープは「秩序問題」にあることになる.


第1章は巌佐庸による「協力の進化」
最初は利他行動の進化理論編.血縁淘汰と直接互恵にさらりとふれた後で評判を通じた間接互恵性の問題を明晰に解説する.評判をどう決めるかというルールに関しては,大槻・巌佐2004による本人の評判もアセスする3次アセスメントにおける進化可能な評判規範のリーディングエイト,このうち本人の評判による区別をしない場合(2次のアセスメント)の評判規範としてのカンドリ規範とザグデン規範が紹介される.これが間接互恵性によって社会が機能するなら普遍性があると期待される評判規範に関する基礎理論ということになる.
ここからいくつかの発展を扱う.まず2次のアセスメント条件において処罰可能であればどうなるか.「悪い相手に対して単に裏切るのみで処罰しないと評判が下がる」という評判規範があれば,コストのかかる「悪い相手に処罰する」という行動が進化可能になる.多くのパラメータ領域で,上記のカンドリ評判規範のもとでの悪い相手には裏切る行動ルール,及びこの処罰可能になる規範のもとでの処罰行動ルールが両方とも進化可能だが,平均適応度は前者の方が高くなる*1
次にこのような相手の行動についてアセスして評判を決める(商人道)カンドリ規範と,ある所属集団の内部者か外部者かで評判を決める(武士道)カンドリ規範があるとどうなるか.このような系は基本的に頻度依存的に動態が定まる.カンドリ規範では規範の初期頻度に応じてどちらかの規範と協力,あるいは完全裏切りに進化する.ザグデン規範であればどちらかが勝つが完全裏切りにはならない.またザグデン規範の場合には商人道規範が勝つ領域が多くなる.巌佐はこれについて厳しい倫理が拮抗すると協力社会が崩壊しかねず,より緩いザグデン的規範,より開放的商人道的規範の方が集団全体には広まりやすいのだとして説明している.
次に昨年の「生態学と社会科学の接点」の担当章でも解説していた巌佐自身の手による湖水の水質改善モデルが取り上げられている.これは湖に流す汚水を減らそうとする人々の協力行動が,湖の水質,及び周りの人々の行動両方に影響を受けるとしたときの系の振る舞いについてのモデルになる.この両影響はそれぞれ正と負のフィードバックになるので系は初期条件やパラメータに依存して,周期変動,カオスなどの典型的な非線形力学系の挙動を示す.巌佐は系の状況を知らずに単に技術的改良を行っても必ずしも湖水の水質改善に結びつくとは限らないとコメントしている.
最後に個人が自由に誰かを処罰するのではなく,集団で処罰ルールを決める場合についての考察がある.典型的事例は社会的ジレンマへの処罰ルールで,これは共有地の悲劇に結びつきやすい.このような場合にどういう仕組みがうまく働くかを調べたオストロムによると累進的な処罰が効果的だとされている.単純なモデルを使うと(当然ながら)社会全体の効用を下げる行為に対する罰は常に大きい方がよいという結果になる.巌佐は,冤罪の可能性があり,行動パターンが利己的な効用の違いにどのぐらい敏感かについて多様性のある集団を前提にすると累進的処罰が最適になりうることを示している.

この後半の発展部分を読むと,規範の進化はなかなか条件にセンシティブで詳細が重要であることがよくわかる.


第2章は中丸麻由子ほかによる「集団における協力の進化と協力維持のためのルール」
誰が誰のために協力行動を行うのかについて整理すると,個人と集団に分けるとOne for OneからAll for Allまでの4パターンがあり得ることが'わかる.ここではAll for One(集団全体で誰か一人を助ける)構造の場合に何が生じるかが,頼母子講の分析として扱われている.
頼母子講は「受け取るだけで支払わない」という裏切り戦略を排除して存続できるかが問題になる.「途中で支払いを行わないものには講を支払わない」という受領権喪失ルールと評判による入会排除ルールがあれば存続できることがシミュレーションによって示されている.このあたりは中丸の前著「進化するシステム」で扱われたところだ.
では現実にもそうなっているのだろうか.著者たちはなお頼母子講が行われている佐渡島の二地区にヒアリング調査をかけている.ここは詳しく紹介されていてなかなか面白い.ある地区のものは誰が最初に講を受け取るかについては入札によっていて,これは金利入札と同じことで非常に合理的だ.また二重の頼母子講が組まれているケース(最初の講は金額が大きく事実上金融目的で,その後の講は最初の借入者からの返済金を皆で分けずに誰か一人が受け取ることにするといういわば楽しみのための講として機能しているようだ)もあって興味深い.
著者たちは,この結果を受けて,評判による入会判断はある,受領権喪失ルールについてはよくわからないが「ある会合で掛け金を支払わない参加者はその回で講を受け取る権利を失う」というものがあることだけ確認できたとしている.このあたりは聞き取り調査の限界ということでもあるだろう.詳細を読んだ私の感想では,このような地区では評判の効果が非常に大きく(悪い評判がたつと講以外の局面でも大きく不利益を受ける),意図的に不履行にすることは考えられもしないということではないかと思う.仮に意図的に不履行にすれば当然強制脱退処分となって(既払込分の返還は別にしても)将来的な講の受領権は喪失するだろう.これがあまりに当たり前であるので明示的な受領権喪失ルール自体がなく,そして上記のルールは意図的な不履行に関するものではなく一時的支払い遅延に対する罰則(そのまま踏み倒すことは想定されていない)と考えられるべきもののように思える.むしろ興味が持たれるのは,事業失敗や病気などによる不履行の場合の処理だ.講受領後のこのような状況は金融に関する本質的なリスクであり,親族保証人等への追及ののち参加者で負担,講受領前なら(事情やむなしと判断されれば)既払込金を返還して脱退を認めるということになっているのではないかと予想する.


第3章は高橋伸幸による「規範はどのように実効化されるのか」で,罰とゲームの連結を取り扱う.
最初は罰.罰による規範の実効化の問題は罰の実施自体が2次のジレンマであることだ.著者たちはこれに対する解決は4つ提案されていると整理し,順番に取り上げている.

  1. 構造的目標期待理論:これは山岸による議論で,進化心理学的に言い換えると1次の協力課題と2次の協力課題においては異なる判断モジュール(至近的心理メカニズム)が起動するというものだ.そして確かに人々の行動は罰ステージで異なることが報告されている.しかしこれはなぜそのような2次のモジュールがあるのかを説明できていない.
  2. 2次罰のコストは小さいのであまり問題にならない:これはヒトは罰の効果を過大に見積もるので少数の非合理的な罰実行者がいれば協力が維持できると主張する議論だ.しかし,小さいとしてもなおジレンマは残っているので解決にはなっていない.
  3. アクセルロッドのメタ規範:簡単にいえば3次の罰を導入すればいいというもの.しかしこのシミュレーションでは2次の行動と3次の行動が連動するという前提になっている.(そうでなければ3次の罰自体がジレンマになって解決されない)しかしもしそんな前提が許されるならそもそも1次と2次の連動でもいいはずだし,なぜそのようなメカニズム的な制限があるのかを説明できない.
  4. 強い互恵性:ギンタスやボウルズやボイドたちはグループ淘汰を持ち出して罰が進化すると主張した.しかしグループ淘汰でこのような形質が進化するなら利他的行動なら何でも進化できてしまう.ここで著者たちは明言を避けているが,ギンタスたちは口ではマルチレベル淘汰を持ち出すがその議論の実体はまさにナイーブグループ淘汰そのもので単なる理論的誤謬と考えるべきものだろう.著者たちは最後に狩猟採集民のデータから見ると,そこで問題になる適応度上の脅威となる暴力は個人的なものが主体でありグループ間の戦争ではなさそうだと付け加えている.

これまでこの問題がうまく解決されていないことを見た後,次に著者たちは罰のようなコストのかからない規範の実効化のメカニズムを提示する.
まず青木による比較制度分析手法による灌漑システムの分析を取り上げる.灌漑システムの運営に協力するかどうかは一つの社会的ジレンマだ.青木はしかし灌漑システムへの協力は,その社会の中のほかのすべての交換協力システム(社会的交換ゲーム)のなかに埋め込まれていると指摘する.青木はそこからゲーム理論的な分析を行って,灌漑ゲームで非協力を行う人には別の社会的交換ゲームにおいて非協力を返すという戦略が進化でき(これは灌漑ゲームにおける罰として機能するので)全員が灌漑システム及びその他の社会的交換ゲームにおいて協力するという均衡が生じうることを導き出す.これは規範の実効性は,複数のゲームをどう連結させるかという制度デザインによって可能になることを意味している.
これは実際の社会の状況を考えると説得的な議論のように思われる.先ほどの頼母子講でも講の支払いを行わないならその参加者は信用を失いそのほかすべての社会的局面で大いなる不利益を受けるだろうし,だからこそ(狭い社会では)ほとんどだれも意図的に支払い不履行はしないのだ.
このゲーム連結による協力の維持は実験室でも確認されている.著者たちは狩猟採集民での様々な観察事例,人が評判を非常に気にすること,目の効果が見られることなどもゲーム連結による協力維持と解釈可能だと指摘している.
著者たちはこのようなゲーム連結は意図的な制度デザインではなく何らかの行動原則の副産物として実効化されたのではないかと推測し,またではなぜ直接の罰を与える行為が実験では観察されるか*2が今後残された謎だとまとめている.

社会の中での評判の与える影響を考えると「ゲーム連結による制度デザイン」というのは面白い視点のように思われる.ただ直接的な罰と排他的であるわけではないから,双方のメカニズムが働いたと考えてよいのではないかという感想だ.


第4章は真島理恵による間接互恵状況での人間行動
本性の著者である真島の著書「利他行動を支える仕組み」の主な内容とその後の進展をまとめたもので,本書の構成的には第1章で扱われた間接互恵性の理論をふまえて,実際にヒトはどういう行動をとるかということがテーマになる章だ.真島は第1章で概説された巌佐・大槻の理論フレームと微妙に異なる理論フレームを採用しているため,最初に独自の用語を用いた理論解説がある.しかし1冊の本としての編集上この構成はどうだっただろうか.ここでは第1章の理論とのつながりを用語をそろえて解説すべきであったように思われる.
私なりに整理しておくと真島のフレームでは2次の評判ルールを扱っているが,認識エラーを重視し,また評判は集団全体で一致せずに各個人で異なるという前提をおいている.この結果巌佐の言うカンドリ規範とザグデン規範のほか,よい評判相手に協力する以外はすべて悪い評判にするという「厳格規範」も間接互恵性を成立させるルールとなると主張している.
続いて本題の実証研究が説明される.用いるのは純粋に少額を相手に与えるかどうかを選択するというギビング・ゲームで,相手の情報としては評判ラベルを用いるのではなく相手の前回行動.その先の相手の前回行動(2次情報),さらにその先の相手の前回行動(3次情報*3)を画面上で示すという形で実験を行っている.
その上でランダムに選ばれた相手と必ずゲームを行うランダムマッチ条件と,いくつかの相手の中から誰かを選んで与えるかあるいは誰にも与えないかを選ぶ選択的プレイ条件で実験する.その結果ランダムマッチ条件では被験者は1次の情報のみにしたがって前回与えた相手に与え,前回与えなかった相手には与えないという行動パターンを示し(2次以上の情報は無視する),選択的プレイ条件では前回与えた相手に与えた相手を選択して与える(2次の情報を利用している)という行動パターンを示した.
要するにランダムマッチ条件では,被験者は理論編で示した間接互恵成立条件を満たした行動パターンをとっていないということになる.真島はこれについて,ランダムマッチ条件では悪い評判の相手に与えた人を罰するのには抵抗があり,選択条件ではとにかく過去をさかのぼってすべて与えるような人だけと関わっている人に与えることが(認知的にも楽で)いいことをしている人に報いることができると感じたのではないかと主張し,間接互恵においては選択的プレイ状況が重要ではないかと主張している.
間接互恵において選択的プレイ状況が重要だったというのはそうかもしれないが,この実験の解釈には疑問もある.ここでは良い悪いのラベル情報を提示せずに,「相手の前回の行動,ぞの相手の前回の行動,さらにその相手の前回の行動」を提示することになっている.これは人が相手の善悪について通常の判断をする状況とはかなりかけ離れた人工的な状況で,要するにこのような情報ではこの相手が「良い人」か「悪い人」か判断できないと感じたのではないだろうか.だからランダムマッチ条件では2次情報を無視して1次情報のみに頼り,選択プレイ条件では「間違いない条件」だけ探し求めたとも解釈できる.実際の進化環境ではかなりはっきりした評判ラベルがすでに手元にあることが多かった(ある意味前章にあるゲーム連結状況とも解釈できるだろう)のではないだろうか.いずれにせよ間接互恵成立は罰も含めてなかなか詳細条件に敏感だということだろう.


第5章は豊川航による「人間と動物の集団意思決定」
まずこれまで動物でリサーチされている集団意思決定の仕組みが解説される.シグナル伝達による創発現象と,閾値反応によるものだ.
ミツバチの餌場探索がシグナル伝達創発の例だ.シグナルの大きさに対して個体反応が線形であれば,ミツバチは好適な餌場にうまくスイッチすることができる.これがシグナルの累乗に反応するような非線形反応になる(アリの蟻道形成などで見られる*4)といったん決まった行動がなかなか変えられない.(本書では「対称性の破れ」と表現している)
もう一つリサーチされているのは閾値反応だ.アリのコロニー移動の営巣地選択などで見られる.「ある行動を行おうとする個体密度が何らかの閾値を越えると群全体がそれに行動をあわせる」という反応パターンがあると比較的短期間で群れ全体の行動をそろえることができる.これはシグナルによらない同調で閾値のある非線形反応だとも解釈できる.
次のテーマはヒトにおける意思決定だ.よく見られる多数決は過半数閾値とする閾値型の決定と考えることができる.もっとも人間社会の意思決定には「公正」という要素が考慮されるので単純ではない.
ここから集合知をいかに得るかという問題が扱われている.集団の個々の判断が「独立で同一な確率分布」を持つなら多数決によって決定の正確性のレベルをあげることができる.重要なのは独立の判断で,そうでないと付和雷同なまずい決定にしかならない.これは自らコストをかけて探索や考察しようとしない「フリーライダー」の問題ととらえることもできる.理論的にはフリーライダーがあると文化伝達は適応度上昇には役立たないはずだが,実際には文化伝達や社会学習がきわめて普遍的に観察される.ここでは豊川自身の「探索と収穫のジレンマのある条件下ではフリーライダーの存在があっても集合知が発生しうる」というリサーチを紹介し,なおこの問題は完全に解決していないと結んでいる.
集合知の問題はフリーライダー問題の一つだというわけだ.そういうフレームで文化伝達を考察するのはなかなか面白い.


第6章は亀田達也と金惠璘による集団の生産性とただ乗り問題
これまで秩序問題は「社会的ジレンマ」として扱われ,集団全体の利得は集団内の協力数に対して線形に増加するモデルが使われてきた.本章ではこれをゆるめるとどうなるかが考察される.
これまでの囚人ジレンマゲームなどを用いた標準的なモデルではどの個人も協力しないことが最善になり,集団の中で1人だけ協力することは難しい.しかしたとえば捕食者からの警戒行動を考えると,最初の1個体の協力による集団の利得は大きく,その後の追加協力者1人当たりの限界利得は逓減していくことが考えられる.亀田たちは実際にはこのような状況は多いのではないかと主張している.このようなモデルでは,最初の1人の協力によるその協力者自身についての限界利益がコストを上回り,協力者が増えるにつれてその追加協力参加者にとっての限界利益が逓減し,どこかでコストより低くなるとすれば,いわば負の頻度依存的な状況となり,集団全体では一定割合の個体が協力し,一定割合の個体が裏切る形が平衡になる.
では実際にヒト集団において,一定割合が協力し一定割合が裏切るという現象は観察されるのだろうか.亀田たちの実験によると6人の内1人でも協力すれば十分高い利益が得られる(それ以上の協力にはあまり大きな価値がない)というという「狩人チーム」実験を行ったところ,ナッシュ均衡は各自が1/6の確率で協力するという戦略だが,実際には3〜4人が協力するという形が安定的に現れ,そしてその実験を繰り返すと協力戦略者と裏切り戦略者に分かれるという役割固定化が見られた.さらに興味深いことにチームを組み替えて協力者同士,裏切り者同士を組み合わせてもやはり役割が分化していく.
これは長谷川英祐が報告しているシワクシケアリのワーカーの中の役割分化現象に似ており,周囲の戦略頻度にあわせた閾値反応型の制御が生じていると思われるが,アリのような血縁集団であるコロニーの生産効率にかかる淘汰のような仕組みのない状況で生じているところが異なる.亀田たちは,ヒトの集団協力状況の多くは限界利益逓減型の頻度依存状況で生じ,「市民意識」や「規範」による戦略選択よりも,「現在の状況下で自分の協力が有利になるかどうか」という戦略的な選択が重要であることを示唆しているのであり,制度デザインが重要であることを含意しているとコメントしている.

亀田たちの議論は複雑だが,平たく言うと「ヒトはインセンティブに反応する」のであり,だからこそ「制度デザインが重要だ」ということになるだろう.ただ詳細は大変興味深い.なぜナッシュ均衡より多い3〜4人が協力するようになるのだろうか.当初はリスク回避からということかもしれないが,役割がある程度固定化した後は(インセンティブ重視なら)そこで協力から裏切りに転じる方が有利で,最終的に1〜2人の協力に落ち着きそうな気もするがそうならないのが面白い.また固定化が生じる仕組みも興味深い.常に協力してしまう個体は不利になりそうだが,そのような行動傾向がなぜ淘汰されてしまわないのだろうか.あるいはそれは評判形成に効いているからかもしれない.そこまで考えるとこの状況だけでは秩序問題は解決できていないのではないかという気もするところだ.


本書はヒトの利害対立の中の協力問題(秩序問題)について様々な面からの考察が並び,その多くは工夫された面白い実験によって考察が深められている.利他行動,評判,社会規範,制度デザインなどの分野に興味のある人には大変興味深い本と言えるだろう.


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*1:パラメータによっては処罰のコストが高くて誰にとっても望ましくない協力が進化することもある

*2:実験のデザインが被験者に罰を誘発させているのではないかという疑問を呈している

*3:第1章では3次情報を自分の評判としており,ここでは意味が異なる

*4:実際にはフェロモンには揮発性があるので十分な期間経過すると変更可能になる