「ヒトはなぜ笑うのか」


ヒトはなぜ笑うのか

ヒトはなぜ笑うのか

以前私がレビューしたMatthew M. Hurley,Daniel C. Dennett,Reginald B. Adams Jr.による「Inside Jokes: Using Humor to Reverse-Engineer the Mind」が「ヒトはなぜ笑うのか」という邦題で邦訳された.
邦訳書は560ページを越える大著になっていて,Kindleで原書を楽しく読んだ私としてはこんなにボリュームがあったのかと今更ながら驚いている.
本書はまさに「ヒトはなぜ笑うのか,それにはどんな適応価があるのか」について認知科学者と科学哲学者と心理学者が進化心理学的な考察を綿密に行ったもので大変面白い本だ.邦訳書の巻頭には著者たちによる「日本語版への序文」が収められていて,原書刊行以降まだこのトピックについて大きな進展はないこと,批判には「データを見せろ派」からのものと「EP懐疑論者」からのものがあったこと,それについての著者たちの考えなどが述べられている.
また本書の魅力の1つはふんだんにアメリカンジョークが紹介されているところだ.ジョークの中には英語でしか成立しないダジャレが前提になっているのもの*1もあって,ジョークを面白く訳すだけでも大変なのに,これらを邦訳書としてどう入れ込むかについて訳者の苦労は並々ならぬものがあったと思われる.


原書

Inside Jokes: Using Humor to Reverse-Engineer the Mind (The MIT Press)

Inside Jokes: Using Humor to Reverse-Engineer the Mind (The MIT Press)

原書に関する私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20120104,読書ノートはhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20110907から.

*1:戦車と水槽のTankジョークや「俺はほつれた結び目さ」というロープジョークなどはめちゃくちゃ面白いがうまく訳すのは不可能だろう.本書ではこのようなジョークの一部は日本語の別のジョークに入れ替える工夫でしのいでいるようだ.