「Sex Allocation」 第11章 一般的な問題 その1

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


性比現象は自然淘汰の謎を解き明かすより応用範囲の広い道具として使える.ここではウエストは包括適応度理論家として包括適応度,淘汰のレベル,適応の拘束などの問題を解説し,さらに保全感染症医療などへの応用も視野に入れる.なかなか面白い章になりそうだ.


11.1 導入


性比は進化生物学,進化生態学の中で最も成功したエリアだとよく示唆される.ウエストは自分たちの論文をも含めて性比理論についての形容表現をいくつか引用している

  • ネオダーウィニアンパラダイムが全体として持つ力と正確さを最もよく証明する進化生物学の一分野(Hamilton 1996)
  • 適応研究の試金石(touchstone)(Frank 2002)
  • 進化生態学の王冠にはめ込まれた宝石(West and Herre 2002)

これまでの章はこれらの主張の正当性について評価することを可能にしている.ではこの性比理論は単にそこにある性比を説明することを越えてどんな応用があるのだろうか.ウエストは本章の3つの狙いをここで示している.

  1. 性比理論の成功をレビューする.
  2. 性比理論の有用性と重要性をより一般的に考察する.理論が成功しているということは,適応研究にとって有用であるはずなのだ.
  3. 将来の方向として本書全体で指摘してきた点の議論を補充する.


ここでウエストは性比リサーチにおける最高の成功例を以下のようにまとめている.

  • 協同繁殖種におけるLRE(第3章)
  • 社会性昆虫におけるLRC(第3章)
  • 近親交配,あるいはメス密度にかかるLMC(第4章)
  • クラッチサイズの多様性とLMC(第5章)
  • 寄生バチにおけるホストサイズとTW(トリヴァースウィラード効果)(第6章)
  • エビや魚における環境依存性決定(第6章)
  • エビや魚における性転換(第6,7章)
  • 血縁度の非対称性に応答した分離性比(第9章)
  • Xドライバーやオス殺しなどの性比歪曲者(第10章)


11.2 性比理論の成功


エストは性比理論の成功について以下のように整理している.

  • 性比理論の成功はいくつものレベルにおいて示されている.個体レベルでは何度も何度も予測通りの方向への性比の傾きが観測された.個体群レベルや個体群の中の個体の変異についても同様だ.多くの進化生物学の理論予測とその実証は定性的なものに止まるが,性比理論は多くの現象について定量的に予測され,定量的に検証されている.
  • より一般的なレベルでは,多くの種間比較リサーチやメタ分析が,理論の予測に対し,広い系統群において強く一貫したサポートを与えている.これらのリサーチでは,変異についての説明率が,通常進化生態のリサーチでの平均とされる4%を大きく上回っている.LMC,LRCでは34%,性転換の方向では35%,血縁度の非対称では21%,殺傷性孤独寄生バチのホストサイズでは19%,協同繁殖種では40〜66%だ.
  • 最後に性比理論の研究結果は,リサーチ全体を次のレベルに進め,理論予測と実証データのフィッティングの多様性の説明に向かわせることができる.いくつかの研究は,淘汰圧がより強いときにより大きな性比調整が生じることを示している.例えば魚類において成長シーズンが長い時,イチジクコバチにおいて環境変動が大きいとき,殺傷性寄生バチ(よりホストサイズが予測しやすい)と非殺傷性寄生バチの差,協同繁殖種でよりヘルパーが働くときなどだ.同様に,性比歪曲者のインパクトは抑制者の広がりと相関していることが示されている.たぶん最も驚くべきなのは,個体の選択についての誤謬をも説明できることだ.ケズネアカヤマアリでは一部のコロニーのワーカーは(特に交尾相手の王たちの炭水化物組成が似ているときに)女王の交尾頻度を誤って評価し,間違った性比を実現させているようだ.


この後具体的に理論の成功を説明していくことになる.ウエストとしてはあるいは最も読者に訴えたい部分なのかもしれない.