進化学会2015 参加日誌 その2 


大会初日 8月20日 その2


4時からは一般発表に参加.

一般発表

モンシロチョウ雌における交尾拒否行動の生理・分子メカニズム 佐々木謙


モンシロチョウの交尾済みメスは,一旦交尾した後によってくるオスに対して交尾を拒否する姿勢を示す.これは逆さになって尾を突き出すという特徴的な姿勢ですぐにわかる.そしてこの交尾姿勢はシロチョウ属に広くみられる性質になっている.ここでシロチョウ属の配偶相手の種識別には様々なシグナルが使われていることが知られているが,交尾拒否が共通しているのが興味を引かれる.

そこでこのメカニズムを調べると,まずこれは体液性の何らかの物質が関与している(体液成分を注入すると未交尾メスでもこの姿勢をとる)ことがわかり,さらにそれはセロトニン系であることもわかった.そしてRNAによる発現解析を行うと,確かに交尾メスと未交尾メスで異なる発現パターンになっていることがわかったというもの.


テントウムシにおけるメールキラー感染と生活史形質の関係 鈴木紀之


昆虫には細胞質共生微生物がよく見られ,それらはしばしばホストの性比歪曲を引き起こす.(何故それが生じるかを丁寧に解説した後,)これが昆虫側の対抗進化を引き起こすのかどうかを調べた.
もし性比歪曲者がオス殺しを行い,それが自分の生む卵の半数を殺すとするなら,(仮説1)メスは本来生むよりも多くの卵を生むだろう(仮説2)(殺されたオス卵が孵化したメスに食べられて栄養になるなら)栄養卵を減らすだろう.
そしてクリサキテントウとスピロプラズマで操作実験系を組み調べてみたところ,結果双方とも仮説が検証されたというもの.


質疑応答ではメス卵がより多く孵化成長することはテントウのメスとスピロプラズマ双方にとって共通利益になっているので,これが対抗進化なのか微生物のさらなる操作なのかは区別できないはずだとの鋭い指摘がなされていた.


父親と母親の性的対立と少子化:子育てのコスト・欲しい子どもの数・意思決定の優先権 森田理仁


一昨年の人間行動進化学会の発表とほぼ同じ内容の発表.(http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20131222参照)


望む子の数,決定権について性差がないことについての考察が追加.現在の日本社会は連続的な一夫一妻といっても男性が離婚後すぐに再婚して子をもうけることが難しくなっているので,夫婦で利害が一致しやすくなっている可能性があるというもの.
その意味からはそうでなかった時代との比較が望ましく,今後は1940年代後半から50年代と80年代以降の比較をしていきたい,また行った調査はすでに一子以上持っている人限定だし日本の都市地域一カ所だけのデータなので,調査を広げていきたいとのこと


カタツムリの陰茎内壁はなぜ進化率が高いのか 秋山佳央


カタツムリは同時雌雄同体生物で,交尾の際には陰茎内壁をめくれ挙げる.そしてその内壁のパターンには種間で差があり,これは種識別のためではないかと思われる.
これを調べるために沖縄列島の異所的分布と同所的分布が含まれる近縁のカタツムリ3種を調査.パターンの類似度,相互交尾実験での識別能力などについて報告された.


結果はそれほどクリアーではなく,なお予備的な段階という発表のような印象.場内からは様々な示唆が与えられていた.


利他性がリスクへの態度に与える影響の進化的マルチエージェントモデルによる分析 小松秀徳


リスク忌避やリスク許容傾向を血縁淘汰的に説明できないかという発表.


ポイントがよく理解できなかった.結局包括適応度期待値が最大化するような戦略が選ばれるということで何か問題があるのだろうか.


パイナップルコナカイガラムシの両性生殖系統と単為生殖系統の系統分類 ―何故オスは必要なのか?− 田端 純


有性生殖の2倍のコストの問題が,わかりやすく説明され,その後原産地では矮雄を持つ有性生殖種だが,世界中に拡散した地域では無性生殖だと思われていたパイナップルコナカイガラムシを調べたところ,石垣では無性生殖だったが,沖縄では有性生殖も行っていることを見つけたとの報告.


質疑応答で,それはパラサイト仮説で簡単に説明できるのではないのかとの指摘があり,まだきちんと調べていないが,沖縄で特に何かに寄生されているようには見えないと答えていた.


以上で大会初日は終了だ.