「Sex Allocation」 第11章 一般的な問題 その16

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


そして最後に残された問題は種間の多様性だ.


11.4.4 種間多様性


性比分野での最大の課題の一つは性比調整が生じている場合における実現性比の種間の多様性の説明だ.これは全く異なる性比調整が見られる系統間の比較(膜翅目昆虫と脊椎動物など)においても,ある系統群の中のパターンの説明(霊長目など)においても当てはまる.ウエストはいくつかの例をあげている.

  • 霊長目の中に一貫したパターンが見いだせないのは淘汰の多様性に起因するのか,それともそもそも性比調整がないからなのか
  • 偶蹄目の性比調整:例えばヤマシマウマの性比調整はオリジナルのTW仮説とは逆方向に傾いているが,それは母の地位の継承の要因とオスの性淘汰圧が弱いことで説明できるのか

性決定方式は環境依存型性比調整の大きさにとって重要な問題だと長らく考えられてきた.しかし最近のリサーチはこれを支持しない.むしろ適応度の上昇度合いや環境の予測確実性などの淘汰圧の大きさの方が重要であるようだ.
また近時はメタ分析に焦点が当てられている.しかしメタ分析は詳細な個別種のリサーチや理論予測と組み合わせて考察されるべきだ.ここでは社会性昆虫の分離性比問題に大きなポテンシャルがあるだろう.なぜなら血縁度の非対称は離散的な値をとるので淘汰圧の大きさをうまく見定めることができるからだ.

このエリアは,性比理論において,理論が観察に追いついていない稀なところだ.ほとんどの理論は閾値的な階段状の性比調節を予想する.しかし実際に観察されるのはなだらかな傾きなのだ.この結果このエリアではほとんどの議論はバーバルなものに止まっている.

また環境の予測確実性が最適性比に与える影響,LRCとLMCとLREの相対的な重要性についてもわれわれはフォーマルな理論を持っていない.環境依存の性比調整について,性比が環境の予測確実性および性比調整の適応度影響などの要因とどう共変動するかのモデル構築が望まれる.これをドライブする適応度影響などについての実証的なリサーチも望まれる.


本書全体を通じてウエストは分離性比について非常に詳しく語っているが,それはこれがこのエリアで最後に残った理論的な未解決問題にあたるということが大きいのだろう.なぜ性比は階段状にならないのか.興味深いところだ.



以上で本書は終了だ.いかにも専門的な総説書らしく結論もまとめもなくあっさりと終わっている.しかし重厚な総説で,これをまとめるのに必要な労力を考えるとつくづく大変な本だと思わざるを得ない.ゆっくり読んできたが,私としても大変勉強になった.


<完>