Language, Cognition, and Human Nature 第2論文 「心的視覚イメージ方略についての計算理論」 その2

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2. 背景:視覚イメージについてのアレイ理論


ピンカーによると視覚記憶と物理的な画像をリンクさせる議論はプラトンにさかのぼる.これを文字通りに読むと馬鹿げた結論に行き着いてしまうが*1,メタファーの賢明な解釈は現代の計算心理学と整合的なものになるとしている.そのひとつがこれから解説するアレイ理論になる.
ピンカーによるアレイ理論の概要は以下の通り.

  • 視覚やそのイメージの基礎構造は2次元のセルの配列(アレイ)による.
  • 目的物や光景は,目的物や光景と同形のセルのパターンによって描写される.
  • セルにはラベル付けされ階層的になった視細胞や長期記憶からの情報(明るさ,色,テクスチャー,エッジの存在,その向きなど)が書き込まれる.
  • この情報は定期的に書き換えがないと急速に消失する.
  • パターンマッチはこのセルのパターンに移動回転拡大縮小などの操作を行うことによって行われる.


ピンカーは視覚システムがアレイ理論に従っていることを支持する証拠を以下のように整理する.

  • 理論は視覚に用いられる配列は単一であると予想する.実際に(左半球にある)特定脳部位が視覚イメージの表出と操作に関わっている.
  • アレイ理論はイメージのサイズ,形状,位置,方向を単一の配列で扱うと予想する.対立仮説はそれぞれ別々に扱うとする.異なるイメージが同一物体かどうかを判別させる実験によると,被験者はイメージを回転させて一致できたときにすべての項目の一致を知覚する.これはイメージの方向の非マッチが,ほかの特質のマッチ判断について干渉していることを示しており,アレイ理論を支持している.
  • マッチ判断に事前の手がかりを与える場合に,サイズ,方向,位置などの手がかりを個別に与えてもほとんど効果はない.事前の手がかりが実際の刺激とそのまま重ね合わせできるように与えられるときにもっとも効果が大きくなる.
  • 被験者はパターンを見るときにイメージを利用していると報告する.

3. アレイ理論の問題点


しかしアレイ理論は完全に受け入れられているわけではない.批判はいくつかあるが,ピンカーはここで「アレイ理論は3次元物体の情報表出についてうまくいかない」という批判を取り上げて吟味するとする.

確かに2次元の配列(アレイ)で3次元のイメージを処理するには問題がある.ピンカーは以下のように整理している.

  • 前後の奥行のある回転をさせるメンタルローテーションが,正面の平面上において回転をさせるメンタルローテーションとほぼ同じ正確性と角度の関係を持つことが可能な二次元アレイをもちいたモデルを構築しにくい.これには3つ理由がある.
  1. 3次元物体の2次元投影像は曖昧性,多義性を持つ.
  2. 回転の角度とともに困難性が増すモデルを平面上の回転について構築するのは簡単だが,奥行きのある回転はこれが難しい.
  3. 奥行きのある回転ではそれまで見えていない面が途中から現れる,この情報は当初2次元アレイにないものになる.
  • 視点や位置に対する視覚的知覚の安定性があるモデルを2次元アレイでうまく構築するのが難しい.

このような困難性に対処するための拡張理論もいろいろ提唱されているそうだ.ピンカーはそれらを紹介して批判し,最後にごく辞の理論を提示したいと予告している.

*1:この馬鹿げた議論の詳細は説明されていない.頭の中の小人の議論に行くつくということだろうか