Language, Cognition, and Human Nature 第2論文 「心的視覚イメージ方略についての計算理論」 その4

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深さ方向のメンタルローテーションを説明しようとした初期の2次元アレイモデルの拡張はうまくいかなかった.ピンカーは自らが練り上げた本命を取り上げる.ここからがこの論文の本論になる.

5.新しい理論:デュアルアドレスアレイ

  • これまで取り上げた拡張の最大の問題点は,視覚認知の2重性について最節約的に扱えないというところにある.地平線に続く鉄道線路は,視野内では1点に交わるように見え,視覚認知としては平行だと感じるのだ.それぞれの心的なセットはそれぞれ認知とイメージ形成に役割を持っている.これから説明する理論はこの2重性を説明できるようにしようとしたものだ.
  • (前回最後に説明した)2.5次元アレイでは深さ情報は(明度情報,色情報などと一緒に)そのセルに格納される.そこでは1つのセルとして扱われていたものを,このデュアルモデルでは(深さ方向の)セルのストリングと考える.すると見えているものはその何番目かのセルにあり,それが知覚できるということになる.その深さのマップ情報はカメラの焦点目盛りのような非線形のものであってもよい(というより非線形なものに違いないとピンカーは考えている).さらにこのストリングの1つのセルのみが満たされている(見えているのは1つのセルのみ)と考えることができる.
  • 隣り合うストリングが同じ深さを持っているならこのアレイは2.5次元アレイと3次元アレイの中間のようなものだ.(これを2.75次元アレイと呼びたい誘惑があるが,それは我慢する)
  • このアレイ配列はトポグラフィー的に3次元空間にマップされる.その意味では3次元モデルに似ているが,しかしこのマップは深さ方向に非線形で不均一だ.さらに見えている面のみがマップされ,セルのアドレスは視点中心になる.このため視点中心のディスプレイになる.
  • 実際にヒトが視野の中でどこかの点を注目するときにはこのような調整システムによっている.焦点となっているものと同じ方向にあるものに(深さが異なっていても)気づきやすいのだ.
  • ここまでのところ,このモデルは2.5次元モデルとあまり異なってはいない.しかしここから,アレイのそれぞれのセルに2番目のアドレスを与える.それは3次元の均一で等方的で線形の物理世界の認知の座標システムを反映するものだ.それは以下のようなスキームを持つ(ピンカーはここで角度と深さによる座標(視点座標)から2次元の線形座標(物理座標)への変換テーブルを示している)
  • ここで最後の仮定がある.物理座標アドレスはコンピュータメモリのような「ベース+インデックス」フォーマットを持ち,物理座標システムはどのセルを起点にすることもできるものであるということだ.
  • どのようなメンタルアレイでもその機能はアドレスと座標のシステムに大きく影響される.そして2つの座標アドレスを持ち,片方は視点座標,片方は物理座標とすることで,全く新しいシステムを持つことなく両方のイメージを扱うことができるのだ.
  • マーと西村は,多様な視覚と推論過程から考えると視点座標と物理座標の相互変換が必要だと主張している.ここで説明したモデルはその変換が単純な仕組みで可能であるとするものだ.この後この詳細について説明しよう.


確かに深さをマクロから無限大のピントリングのように感じて,アレイとして見えている点のみを扱うのはよくわかる.ただ変換テーブルはややトリッキーだ.ピンカーのここからの説明に注目しよう.