
Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles
- 作者: Steven Pinker
- 出版社/メーカー: Oxford University Press
- 発売日: 2013/09/27
- メディア: Kindle版
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Natural Language and Natural Selection with Paul Bloom 1990 Behavioral and Brain Sciences 13 (4):707-27
ピンカーを一躍有名にしたのは「The Language Instinct(邦題:言語を生みだす本能)」だが,その元になった1990年の論文だ.この自撰論文集でも中核になるべき初期論文の金字塔ということになるだろう.
エッセイ
ピンカーは最初に本論文が最も引用回数の多いものであることを説明した後,なぜそれほど注目が集まったかについて書いている.
- 1つの理由はそれが1世紀以上続いた言語の進化を議論することというタブーを打ち破るものだったことだろう.私たちの異説は,それが,その反進化的な見解で有名なかのノーム・チョムスキーのお膝元であるMIT(マサチューセッツ工科大学)から発しているということで,さらに注目を集めるものになった.
- 論文刊行と一緒に公開された30以上のコメントの1つは「解放!(Liberation!)」とタイトルがつけられていたし,私たちの論文は実際に1990年代と21世紀の初頭に巻き起こった言語進化の研究の復活に貢献した*1.私にとってはこの論文は(やはりその当時ほぼタブーに近かった)認知と感情の進化への興味の始まりだったし,それはその後の私の仕事を大きく色づけるものになっている.
- もう1つの理由がある.それはその時代の3人のアルファメイルとの闘争を始めるものだったということだ.
- 1人目はチョムスキーだ.私は彼との論争を10年後に再開させることになる(これは第10論文で扱う).
- 2人目は誰からも愛されていた進化生物学者であるスティーヴン・ジェイ・グールドだ.当時グールドは,ナチュラルヒストリー誌への連載と数多くのベストセラーの書き手として,進化についての無謬の預言者と見做されていた.
- 3人目はグールドの同僚,リチャード・ルウォンティンだ.ルウォンティンは輝くばかりに素晴らしい集団遺伝学者で,多作の左翼の書き手で,決して侮ってかかってはいけない人物としてはまるでスーパーマンやローン・レンジャー*2やジム・クローチェの歌に出てくるジム*3のような人物だった.
ここからはこの論文を書くきっかけになった討論会について書かれている.討論会がどういう具合に進んだのかが書かれていないのはちょっと残念だ.
- この論文はMITの認知科学センターで開かれた公開討論会がきっかけになった.このセンターではそれまでの20年間に多くの立席のみの討論セミナーをホストしていて,そこでは通常とは順序を変えて,まず論文の批判者2人が論文に対して徹底的に批判し,その後論文著者が反論するというフォーマットをとっていた.その日のターゲット論文はグールドのヒトの認知や言語の進化に対するアイデアを発展させた認知科学者のマッシモ・ピアテリ=パルマリーニの論文で,私とブルームが批判者となり,グールドとピアテリ=パルマリーニと対決したのだ.
- その日のオーディエンスの中にはダニエル・デネットも顔を見せていた.デネットは後にその夜のことを彼が「ダーウィンの危険な思想」を書くきっかけになったと述懐している.デネットは討論を聞いてピンカーとブルームの勝ちだと確信したが,多くの参加者はグールドとピアテリ=パルマリーニの勝ちだと考えていたことを知ってショックを受けた.彼は,進化理論とそのヒトについてのインプリケーションについての大衆の間に広く流布している誤解についての本を書くことになったのだ.
ピンカーは割とあっさりと済ませているが,このあたりの経緯はケニーリーによる「The First Word」に詳しい.最初のきっかけはブルームがリーダ・コスミデスと会話したことであり,ブルームはグールドのような言語副産物説には説得力がないことに気づく.そしてピンカーを引き釣り込むと,ピンカーは進化生物学を猛勉強し,実は進化生物学者の間では(特に進化理論について)グールドの信憑性には大きな疑問が突きつけられているということを知る.そしてグールドとチョムスキーと対峙していくことになるのだ.
関連書籍
ピンカーの初めての一般向けの本.言語が進化的な適応産物であることを極めて説得的に論じている.

The Language Instinct: How the Mind Creates Language (Penguin Science)
- 作者: Steven Pinker
- 出版社/メーカー: Penguin
- 発売日: 2003/02/27
- メディア: Kindle版
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同邦訳.「心の仕組み」と異なってまだ文庫化されていない.

- 作者: スティーブンピンカー,Steven Pinker,椋田直子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 1995/06/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 作者: スティーブンピンカー,Steven Pinker,椋田直子
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本論文に至る経緯が詳しく書かれている.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20140613

The First Word: The Search for the Origins of Language
- 作者: Christine Kenneally
- 出版社/メーカー: Penguin Books
- 発売日: 2007/07/19
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デネットによる進化と自然淘汰のブリリアントな解説.これも最初に読んだときには感銘を受けたものだ.

Darwin's Dangerous Idea: Evolution and the Meaning of Life (English Edition)
- 作者: Daniel C. Dennett
- 出版社/メーカー: Simon & Schuster
- 発売日: 2014/07/01
- メディア: Kindle版
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同邦訳

- 作者: ダニエル・C.デネット,Daniel C. Dennett,山口泰司,大崎博,斎藤孝,石川幹人,久保田俊彦
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2000/12/01
- メディア: 単行本
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*1:ピンカーは括弧書きで「あるいはあなたの立場によってはこれは非難されるべきことかもしれないが」と付け加えている
*2:西部劇の代表的ヒーロー
*3:アメリカのシンガーソングライターJim Croceの「You Don't Mess Around With Jim」という歌のことだと思われる.その歌詞には「You don't tug on superman's cape / You don't spit into the wind / You don't pull the mask off that old lone ranger / And you don't mess around with Jim」とある