Language, Cognition, and Human Nature 第5論文 「自然言語と自然淘汰」 その16

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles


進化が漸進的に進む事が言語進化を否定する理由となるか.2番目の議論のポイントは「言語のルールは離散的なものであり,それは漸進的な進化では不可能ではないか」という批判に対するものだ.

5.2.2 カテゴリカルルール
  • 多くの言語法則はカテゴリカルルール(1か0かのどちらかになるような離散的なルール)だ.そのようなルールは,どのようにすれば漸進的な進化過程から生じることができるのだろうか.
  • ベイツたち(1989)はグールドの「5%だけ完成された眼に何の意味があるのか」という議論を踏まえてこう書いている.

それが埋め込まれた句から名詞句を引き出すことについての制限が生じるための前駆体的フォームを私たちが想像できるだろうか.生物にとって半分だけシンボルだとか3/4だけのルールだとかに意味があるだろうか.・・・モナド(単一体)的シンボル,絶対ルール,モジュラーシステムは一気に獲得されるしかない.それは創造論的なプロセスを強く求めさせる.

  • しかしながら,2つの問題がここで見逃されている.文法システム全体は漸進的継続的なプロセスで進化しなければならないということが正当化されるとしても,それはすべてのルールのすべての様相が漸進的で継続的なプロセスを経なければならないということを意味するわけではない.ショウジョウバエの突然変異には触角が前肢の形態に一気に変わるものがあるし,ある生物群がそのようなホメオティックな変異を経て分岐することもある.
  • 単一の突然変異ですべてのユニバーサル文法が一気に実装されるということはありそうにない.しかしそれは,例えばn種類のルールからn+1種類のルールを持つ文法に,m種類のシンボルを持つ文法からm+1種類のシンボルを持つ文法に変化を生じさせうるだろう.それはまた機械的な連合のみで全く何の文法ルールもない祖先システムから単一ルールを持つ子孫システムへの移行も起こせるだろう.
  • 文法ルールは多くのほかのメンタルシステムと骨格を共通するシンボル操作だ.実際に,記憶ケースの類似性に基づく連続的なものとは無縁の離散的なシンボル操作は,認知の多くの領域,特に社会的な共有情報に関する部分で非常に有用だ.
  • もしある遺伝的変異が,非言語的シンボル置換操作の一般的なコピーをコミュニケーションの基礎となる神経システム内にポップアップすることをひきおこすなら,そのようなプロトタイプルールは,エンコードやデコードのスキームに使うことができ,言語の具体的な要求に対応できるような淘汰圧がかかるだろう.ロージン(1976)とシェパード(1986)は知性の進化はそのような過程で可能になったのだろうと論じている.


離散的な性質を持つものが一切進化できないなら,眼が二つあることも,手足に指があることも,体節や,脊椎の存在も進化で説明できないことになってしまう.なんだか創造論者とのやりとりに近いような印象で,ピンカーたちの苦労がしのばれるところだ.