Language, Cognition, and Human Nature 第5論文 「自然言語と自然淘汰」 その19

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles

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言語の適応度.ピンカーは小さなアドバンテージでも進化が生じることをまず押さえた上で,次にプレマックの批判に真正面から答える.

5.3.2 文法的複雑性とテクノロジー
  • 私たちの種が二つの点で特徴的だとはよく指摘される.一つはテクノロジーでもう一つは非血縁者との社会的関係であり,これらは動物界ではかつてなかったレベルでの複雑性を可能にしている.
  • 道具作りは最もよく引き合いに出される能力だが,これにかかる知識はヒトの技術的なコンピテンスの一部でしかない.
  • 現代の狩猟採集民(彼等は私たちの祖先のライフスタイルがどのようなものだったかの最も良い証拠となる)は,野生動植物の生活史,生態,行動の詳細な知識(フォルクバイオロジー)を持っていて,その知識は広くかつ詳細でプロの植物学者や動物学者を驚かせ,その情報源になるに十分だとされている.
  • 例えば,この能力は現代のクンサン族に,私たちの目には不毛の砂漠地帯にしか見えない場所で一日数時間の労力により,栄養学的に完全な食事を取ることを可能にしている.またアイザックス(1983)は,ホームベースにある化石的な証拠から,ホモ・ハビリスが2百万年前から.獲得知識に大きく依存するライフスタイルを採っていたと主張している.
  • よく主張されるのはヒトにおいてはそのような知識は世代を超えて累積していくということだ.プリマック(1985)は,教育はヒトのユニバーサルな特徴で,教育に当たっての言語の有用性は疑い得ないとしている.ブランドンとホーンシュタイン(1986)が強調するように,特殊な刺激なしに知識を獲得できることには大きな淘汰的なアドバンテージがあっただろう.子供たちは親から,この食べ物には毒があると過去の動物は危険だとかを学べただろう.それを自分自身で試したり,観察する必要はないのだ.
  • コナー(1982)は,大人間での教育についてこう言っている.「クン族は食物のありかから捕食獣の行動,獲物の移動パターンまで何でも話し合う.たき火の周りでは,物語が語られるだけではなく,あらゆる知識が交換される.そして生存に特に重要な事柄については脚色が加えられる.このような知識なしに生き抜くことは非常に難しいだろう.」
  • 時間,場所,主述の関係,モダリティの正確な情報のコミュニケーションのためのデバイスはそのような努力の中で無駄になることはなかっただろう.
  • 再帰性は特に有用だったと思われる.プリマックは再帰性の有用性を議論するときに特に複雑なフレーズの有用性を問題にするという間違いを繰り返している.しかし実際には,再帰性なしには「この男の帽子」とか「彼は帰ったと思うよ」とかの語句すら不可能になるのだ.再帰性のために必要なのは,名詞句に別の名詞句を埋め込む,あるいは文節に別の文節を埋め込むことだけだ.これができるようになると,ある対象について好きなだけその詳細を説明できるのだ.
  • これは大きな違いを生む.例えば,それは獲物のいる場所にたどりつくためにたどっていく足跡が大きな樹の手前にあるのか,足跡の手前に大きな樹があるのかを区別できる.食べることができる動物がいるのか,(自分を)食べる動物がいるのを,そして熟している果物なのか,熟していた果物なのか,これから熟す果物なのかを,さらにそこに行くのが2日間の道のりなのか,3日間の道のりなのかを区別できるのだ.


これはプレマックによるマストドン狩りの場面を使った皮肉に直接応えようとするものだ.込み入った内容を伝えるのに再帰性を含む文法は有用だということはある意味当たり前だと思われるところだ.
このような議論の最初に狩猟を持ってくるのは時代を感じさせる.今ならまずゴシップや性淘汰形質的な魅力の話が来るだろう.とはいえさすがにピンカーは社会性の話をちゃんと押さえている.この社会性については次節で扱われる.



なお所用あり,ブログの更新は1週間ほど停止します.