Language, Cognition, and Human Nature 第7論文 「ヒトの概念の性質」 その2

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles

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エッセイに引き続いて導入部分が置かれている.

導入

  • この論文は言語と認知に広い平行現象があること,そしてこれが偶然でない可能性についてのものだ.
  • 平行現象には「古典的カテゴリーとプロトタイプカテゴリー(あるいはファミリー類似カテゴリー)の違い」が含まれている.これは長年認知心理学,哲学,言語学,AIの分野で論争されてきたものだ.
  • 「古典的カテゴリー」とは必要条件と十分条件で定義されるものであり,あるメンバーがそれに含まれるかどうかは0か1で,明確に決まる.「正方形」「祖母」「偶数」などがその例になる.生物分類「Aves:鳥類」などもそうだ.
  • 「ファミリー類似カテゴリー」は,「古典的カテゴリー」と多くの点で異なっている.
  1. これらには必要条件や十分条件がない.「椅子」というカテゴリーに属するメンバーは脚を持っていたり持っていなかったりするし,その上で座れるものも座れないものもある.
  2. そのメンバーシップは段階的だ.ヨーロッパコマドリイヌワシにくらべて「bird:鳥」の良いメンバーだ.ペンギンはあまり良くないメンバーになる.
  3. そのカテゴリーは時に「理想的メンバー」あるいは「プロトタイプ」によって要約することができるが,プロトタイプは常に実在の典型的なメンバーであるとは限らない.他のメンバーはこのプロトタイプに似ているほど良いメンバーとなる.辞書の「bird:鳥」のエントリーにはよくイエスズメの図が載せられているが,おそらくそれは良いプロトタイプなのだろう.
  4. メンバーシップがはっきりしないことがある.1つの例は「始祖鳥」だ.ある古生物学者は「全然いけてない爬虫類であり,あまり良い鳥類でもない」と書いている.「ニンニク」は「vegitable:野菜」カテゴリーに対するメンバーシップが不確かな例だ.これは「ケチャップ」についても言える.ケチャップの野菜性の問題はレーガン政権の「ケチャップは学校のランチメニューの栄養ガイドライン上では野菜と分類されるべきだ」という提案に引き続く論争で有名になった.
  5. このカテゴリーでは,しばしば「ファミリー類似」構造がみられる.ある家族に属するメンバーは単一の特徴を全員で共有するわけではない.そうではなく髪の色,口の形,鼻の形などのいくつもの特徴が部分的に共有されるのだ.
  6. 良いメンバーはしばしば独特な非限定的な特徴を持つ.例えば白髪で伝統的なライフスタイルは多くの「おばあさん」が持つ特徴だ.しかしエリザベス・テイラーのようにそうでないメンバーも「おばあさん」になれる.


ファミリー類似カテゴリーは文化圏によって少しずつ異なり,歴史的にも変わってくることがわかって面白い.英語のbirdには小鳥のイメージが強いのだろう.日本語の「鳥」だとスズメとワシでメンバー性に変わりがあるとは思えない.また日本では「ニンニク」はかなり明確に「野菜」であり,「ケチャップ」は明確に異なると思うがどうだろうか.
「始祖鳥」は1980年代では古生物学者にとってもこういう認識だったというのも時代性を感じるところだ.今だと少なくとも古生物学者にとっては古典的カテゴリーできちんと処理(「爬虫類」は則系統群であり単系統群カテゴリーではない.始祖鳥は「主竜類」であり,その中の「恐竜類」であり,さらにその中の「鳥類」*1に属する)できる問題だろう.

*1:厳密にはさらに細かく議論できる.ファストフスキーとウェイシャンベルの「恐竜学入門」ではAvesには含めずに,始祖鳥とAvesを含む単系統群をAvelaeとしている.