Language, Cognition, and Human Nature 第7論文 「ヒトの概念の性質」 その9

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles

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ここまでピンカーはヒトの概念の性質について,英語の動詞を例にとって分析してきた.そして不規則動詞はファミリー類似カテゴリーであり,規則動詞は古典的カテゴリーであると結論づけた.ここからはこのインプリケーションになる.

心理学的インプリケーション

  • カテゴリーについての標準的な基準に従うと,不規則動詞サブクラスはファミリー類似カテゴリーであり,規則動詞クラスは古典的カテゴリーだ.もしこの結論を受け入れるなら,いくつかのインプリケーションが導かれる

心理学的現実

  • まず第1に,ファミリー類似カテゴリーも古典的カテゴリーも心理学的にリアルであり自然であるということになる.
  • 古典的カテゴリーを理解するのに,明示的なインストラクションや学校教育が必要なわけではない.規則動詞の変形は誰に教えられなくとも可能で,子供は3歳で身につける.子供が規則変形を,comeやgoなどの既に不規則過去形を使っていたようなかなり頻度の高い不規則動詞にまで過剰適用するという事実は,子供は規則型ルールが本質的にユニバーサルであることを認めていることを示唆する.
  • そして大人と同様に,規則動詞には他の規則動詞との類似性と関係なく規則型ルールを適用し,不規則動詞と同音の動詞でも名詞や形容詞のルートを持つ動詞には規則型ルールを適用する.
  • そして3歳児は,明示的黙示的な教示なしに,名詞の規則型複数形と不規則型複数型を,文法の中での役割に関して質的に区別することを見つけた.
  • 派生形を通じた規則化(flied outなど)は,古典的カテゴリーが明示的に定式化されて丁寧に伝えられなけらばならないようなルールの産物である必要がないことを示す特に説得的な証拠だ.
  • 規則化ルールがデフォルトの操作であること,そしてそのルールは,(動詞以外のルートからの)派生形の動詞であればどのような音韻を持つものにも適用可能であることは,まさに草の根的な現象であり,その精妙さは,記述された定式ルールを教え込まれた人よりも,ごく普通の人による無意識のレベルで良く理解されている.実際に高卒学歴以下の人々はこのような精妙な操作をより強く行うことが観察されているし,英語や他言語の歴史は,エディターや記述文法家たちの反対にもかかわらず,このような規則化が生じた例がよくみられるのだ.名詞のjoy-rideから派生した動詞の過去形としてjoy-ridedが現れたことは1920年代に記録がある.
  • 片方で,ファミリー類似カテゴリーは(フォーダーやアームストロングが主張するように)反応時間研究やレイティング研究による人為効果として現れるわけではない.子供は,発話において,不規則動詞のファミリー類似パターンを,規則動詞にも不規則動詞にも間違って一般化する.そしてその一般化は出現頻度とファミリー類似構造に大きく影響される.
  • また不規則サブクラス構造は方言バリエーションや歴史的変化にも影響を与える.そこでは既存の不規則動詞ファミリーに似ている規則動詞からうまれる新しい不規則型が時に加わるのだ.

心理学的機能

  • さらなる帰結としては,古典的カテゴリーとファミリー類似カテゴリーには別の心理学的機能(注意深い理由付けといい加減な理由付け,あるいは推論と分類など)がなければならないというわけではないということがある.
  • 規則動詞と不規則動詞の対比において最も衝撃的なことは,2つの種類のエンティティがヒトの頭の中で共存し,文法の中で全く同じ機能を持っているということだ.規則動詞の過去形と不規則動詞の過去形は,統語論においても意味論においても同じだ.規則型のみがとれる構文とか不規則型のみがとれる構文というものはない.意味論においてもその過去時制に区別はない,
  • そして「ファミリー類似カテゴリーというのは,実例をより古典的構造とともにあるコアカテゴリーに属するかどうか分類するために使われる識別過程のセットの産物だ:family resemblance categories are the product of a set of identification procedures used to classify exemplars as belonging to core categories with a more classical structure.」という主張が意味あるものだとすることは難しい.また「不規則型は規則クラスのメンバーを知覚的にカテゴライズするために使われる:irregulars are used in perceptually categorizing members of the regular class」という示唆は解釈不能だ.不規則型はある種のカテゴリー構造を示す語のクラスであり,規則型はそれを示さないのだ.


本論文はそもそもヒトがどのようなカテゴリーを用いているかというところから始まり,それを調べるための例として英語の動詞を使ってみたものだ.そしてここまで調べてきたことは,要するにこの2つのカテゴリーはいずれもヒトの心理においてリアルだということを示しているということになる.この最後の2つの引用は,おそらく論争の中で論敵が用いた表現そのままなのだろう.一応訳してみたが,(少なくとも私の英語能力では)意味不明としかいいようがない.あまりに茫洋として無意味な言説なのでピンカーも頭にきていたというところだろうか.