Language, Cognition, and Human Nature 第7論文 「ヒトの概念の性質」 その10

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles

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ピンカーは英語の動詞を例に取り,古典的カテゴリーとファミリー類似カテゴリーがいずれのヒトの心理的にリアルなものであり,機能においても差が無いことを見た.しかしもちろんこの両者に差はある.それはそれを扱う心理的カニズムにあるのだ.

基礎にある心理メカニズム

  • 過去形において,古典的カテゴリーとファミリー類似カテゴリーは,心理的に同じ機能を果たしているが,(それらが顕現する心理過程という意味において)心理学的な構造は異なる.
  • これまで見てきたように,規則動詞は完璧に定義されたルールに従う.カテゴリーは類例の一般化によって決められてはいない.実際類例の特徴を見ていないのだ.それはヒトが命題をコミュニケートすることを可能にする組み合わせルールから生みだされるのだ.そのルールによって,全体の意味が部分の意味とその組み合わせ方によって決まり,単語,句,文が作られる.
  • これと異なり,ファミリー類似カテゴリーは,記憶された類例のセットの中の相関パターンの一般化によっている.その結果ヒトの記憶に影響を与える要因が,不規則クラスに影響を与える.だから不規則動詞は規則動詞より高頻度であり,頻度が下がると規則化する傾向があるのだ.要するにこれは不規則は基本的に記憶によっているからだ.記憶するには聞かなければならない.その頻度が低いと記憶されず,デフォルトルールである規則型が適用されてしまう.そして不規則型の境界がファジーであるのも同じ理由による.
  • これが不規則動詞がファミリー類似カテゴリーになっていることを説明可能にする.ヒトは不規則動詞のファミリー類似性を持つリストを,類似性についてランダムなパターンを持つリストよりよく記憶する.頻度以外にもその組み合わせパターンが記憶に影響するからだ.現存する不規則クラスは,「各世代において記憶され生き残る」というある種のダーウィニアン過程による淘汰を受けてきた結果としてあるものかもしれない.
  • 結論:英語の動詞の規則クラスと不規則クラスは,古典的カテゴリーとファミリー類似カテゴリーの両方が心理学的にリアルであり,容易にかつ自然に獲得され,機能的に分業を取らない.しかしこの2つはそれを生みだす心理過程において,定式化されたルールシステムと記憶による類似リストという形で異なっている.
  • ここでそれほど明白ではない結論も示しておこう.
  • 古典的カテゴリーとファミリー類似カテゴリーは異なる計算アーキテクチャーに乗っている.そしてこの2つを扱う心理的カニズムはそれぞれ異なる世界のエンティティの表現に向いているのだ.
  • 最後に「鳥」や「お母さん」などの概念の問題に戻ろう.


途中で「ダーウィニアン過程」が出てくるのがちょっと面白い.これはある意味「ミーム」の一種ということになるのかもしれないがピンカーはそういうコメントはしていない.

規則型と不規則型は言語において同じ機能を果たしている.しかし当たり前だが2種類のカテゴリーを扱う脳内の認知プロセスは異なることになる.なぜここである意味当然の計算アーキテクチャーの議論を始めるかというのは,ピンカーの初期の認知科学周りの議論によく出てくる論敵;「認知をすべて連想学習で説明しよう」とするコネクショニズムについての批判につなげるためだということになる.