書評 「繁殖干渉」

繁殖干渉―理論と実態―

繁殖干渉―理論と実態―


繁殖干渉とは異種間で繁殖にかかるプロセスにおいて負の影響を与えること,およびそれにより引き起こされる現象を指す.それだけではごく単純な話のようだが,これが実にいろいろな生態学的な現象に関わってくることが明らかになってきている.これまで様々なところで,いろいろ解説記事は出ているようだが,主なトピックの総説や具体例が読めるようなまとまった専門書は出版されていなかった.本書は第一線の研究者5人により分担執筆されたもので,繁殖干渉についての初めての解説本ということになる.
 

第1部 繁殖干渉の理論

 
まずは理論編.興味深いところなので少し詳しく紹介しよう.第1章で生態学の大きな流れの中での位置づけが分かり易く解説された後に第2章で理論モデルが詳しく紹介されていて充実している.
 

第1章 繁殖干渉とは 高倉耕一

第1章では基本概念とその生態学に与えるインパクト,インプリケーションが説明される.

  • 繁殖干渉の本質は,本来あるべき繁殖能力が,他種からの干渉により目に見えない形で喪失させられるところにある.基本的にはメスの繁殖能力が他種のオスからのハラスメントや交雑により奪われる形で現れる.干渉は対称な場合も非対称な場合もある.
  • 繁殖干渉の最も重要な特徴はその作用が頻度依存的(メスの繁殖成功の低下が2種の頻度に依存する)であることだ.しばしば対立仮説となる資源競争は密度依存的に働くので,これを利用して検証することができる.
  • メスの繁殖成功を低下させるコストには時間,エネルギー,交尾器損傷,精液の生理的作用,胚の死亡,交雑個体の繁殖能力低下など様々なものがある.これは求愛,交尾,受精,交雑個体まで様々な段階で生じうる.(詳しく解説されている)

 

  • 以上のような現象は個体において生じることは理解されていたが,個体群や群集に与える影響についてはそもそもほとんど考察されてこなかった.
  • 1980年代後半より理論的に考察されるようになり,種間配偶が繁殖能力を低下させるなら容易に側所的分布が生じること,その効果は資源競争より遙かに大きいことが示された.しかしその理解が広がるのは実証研究がなされるようになった2000年代以降だった.
  • 繁殖干渉は頻度依存的に働くので,強い正のフィードバックがかかる.これは負のフィードバックがかかる資源競争との根本的な違いになる.
  • 重要な理論的予測には「共存している2種は繁殖干渉を与え合っていない」「侵入成功種は繁殖干渉を受けない*1」「資源分割が,繁殖干渉によって生じうる*2」というものがある.

 
ここで実証研究が1つ示されている.それは西日本における外来オナモミ種群の側所的分布を繁殖干渉で説明するもので,交雑実験で実際に繁殖干渉があることを示している.
ここから繁殖干渉を巡る誤解が取り上げられている.いろいろ論争があったことを偲ばせる部分だ.

  • 「繁殖干渉は交雑だ」:繁殖干渉はより広いもので,交雑だけではなく,求愛段階からある.
  • 「繁殖干渉には精液の移送が必要だ」:同じく繁殖干渉はより広いものであり,求愛段階からある.
  • 「野外で見られないから繁殖干渉はない」:繁殖干渉は正のフィードバックを受けてすぐに片方が排除されてしまうので,野外で実際に観察するのは難しい.しかしそれは繁殖干渉がないことを意味しない.
  • 「メスが多回交尾する種では繁殖干渉は生じない」:それだけでは繁殖干渉を受けないということにはならない.多回交尾種でも,時間やエネルギーコスト含めて全くコストを受けないということはごく稀だろう.
  • 「オスは他種への配偶をしなくなるように進化するはずだ」:一定のエラーがあっても配偶に積極的なオスの方が有利になるなら,オスは配偶エラーを許容するように進化する.

 
最後に繁殖干渉の実証リサーチの手引きがおかれ,対象種の選び方,検証すべき現象(重要なのは頻度依存性),個体群・群集への影響の検証(適応度成分への影響と個体群成長への影響を区別することが重要)などが解説されている.
 

第2章 繁殖干渉と種間競争 岸茂樹

第2章では繁殖干渉の学説史と理論的な背景が掘り下げられる.
 
<種間競争に関するこれまでの研究>
まず種間競争全般の学説史が語られている.

  • 野外の種間競争は外来種の侵入の際などに観察されており,種の置換,資源分割の原因と考えられてきた.資源分割については同所的種分化の結果とする説もあったが,その後,同所的種分化は条件が厳しいことがわかってきている.
  • 生態学における理論的研究は1920年代のロトカ-ヴォルテラ競争方程式に始まる(詳しく解説されている).このモデルは当時の生態学者に絶賛され,多くの検証が試みられた.これらの実験結果(特にゾウリムシの実験結果)を受けて,ガウゼは1930年代に「同じニッチを占める2種は共存できない」とする「競争排除則」を提唱した.これは支持者と批判者の大論争に発展した.支持者のラックやエルトンやヴァーレーたちは実証(ラックのガラパゴスフィンチのものは特に有名)を積み重ね,第二次世界大戦後にはガウゼの競争排除則は広く認められるようになった.
  • 進化生物学においては,種間競争の問題はダーウィン自身の考察から始まる.ダーウィンは競争は種間競争より種内競争の方が重要だと考え,競争排除は生態的というより進化的に生じると考えた.ダーウィンの死後20世紀初頭には,近縁種間の棲み分けについて「環境条件」の違いによるという主張も見られるようになった.これはガウゼの主張に近いものだが,(現在の理解から見ると不正確な)「進化的に優れた種が劣った種を駆逐する」という考え方の反映でもあった.
  • 第二次世界大戦後多くの実験生態学の知見が積み重なり,競争排除則の致命的な欠点が認識されるようになる.検証において「排除が起きればニッチが等しかった,起きなければニッチが異なっていた」と解釈してしまうので実質的に反証不能になっているのだ.これに対してハッチンソンたちはニッチを多元的な概念とすることでこの問題を乗り越えたとされる.(ただし岸はどのような2つのニッチも次元を無限に増やしていくと等しくないことになってしまうので,もはや「ニッチ」概念が科学的に耐えられなくなっているのではないかと疑義を呈している)
  • 種間競争に議論が絶えないのは,野外では種の置換が頻繁に生じているように見えるのにそれを統一的に説明できる理論がないからだ.また共存する2種が,もともと競争なく共存しているのか,より小さなスケールで競争しながらモザイク状に棲み分けているのか,あるいは競争を避けるように進化したのかを区別する方法がないということもある.これを確かめようとする実証研究も膨大に行われたが,はっきりした結論は出ていない.
  • ダーウィンは種内競争の方が種間競争より強いと考えた.これは種の共存を予測する.しかし実際には種の置換が生じている.ダーウィンは個体数が多くより同所的な生物との相互作用の多い種がより進化して,そうでない種を駆逐すると考えた.(今日的に考えると)この説の重要なところは「個体数が多い方が勝ちやすい」というところだ.(ここでロトカ-ヴォルテラ方程式のアイソクラインを用いた解釈が説明されている)

 
<繁殖干渉の数理モデル>
ここではまず最初にここまで何度か指摘されている「繁殖干渉は頻度依存」で「資源競争は密度依存」であることの意味が,数値例も交えて丁寧に解説される.その上で久野による数理モデルが詳しく解説されている.久野モデルは(そのアイソクラインをロトカ-ヴォルテラの資源競争モデルのものと比べると)正のフィードバックによって強力な先住効果が生じ,片方の種の排除が生じやすいことがわかりやすく説明されている..

<繁殖干渉+資源競争の効果>
次に繁殖干渉と資源競争が同時に生じているとどうなるかの数理モデルが提示される.定性的には繁殖干渉に似たダイナミズムになり,しかもこの2つの要素は安定平衡点を消す方向に相乗的に働くためにより片方の種の排除が起こりやすく,勝敗は資源競争の勝ち負けよりも繁殖干渉の勝ち負けにより強く決まることがわかる.またここではいくつかの資源競争のみでは説明しにくい実例をこのモデルに当てはめて解釈してみせている.面白いポイントはこの両過程が働くモデルにおいては(一方的排除ではなく)資源分割が生じる場合に,(単独過程の場合必要になる)トレードオフを仮定する必要がなく,資源に応じて資源競争と繁殖関係の関係が少しでも異なればいいというところだ.またこのモデルの限界についてもコメントされている.
最後に,繁殖干渉が生じるのは繁殖期,繁殖場所に限られることから,移動能力が高い鳥類の場合には越冬場所では容易に近縁種が共存できるであろうこと,逆に繁殖干渉の問題のないはずの越冬場所がなぜこれほど限られているのかが新しい謎になることが指摘されていて興味深い.
 
<繁殖干渉の理論研究>
ここでは先ほどの久野モデル以外の理論研究が概説されている.繁殖干渉から側所的分布の説明の説明を行う学説,久野モデル以外の数理モデル.空間構造や餌資源を入れ込んだシミュレーションモデル,実際のデータから繁殖干渉の頻度依存性を検証したリサーチなどが紹介されている.続いて進化的な形質置換が,繁殖形質,生態形質についてどう生じるか,種認識にどう影響を与えるかについての学説史が解説されている.
 
<繁殖干渉が生物群集に与える影響>
ここまでは2種間の相互作用の話だった.ここからは生物群集に与える影響が取り扱われる.これは群集生態学と呼ばれる分野になる.まずアプローチ法としては群集内における2種関係と1つずつ解析していくというキャスティング型,もう1つは群集を構成する種数とそれぞれの種の個体数に注目するアバンダンス型になる.ここではそれぞれのアプローチの長所短所が解説される.また最近ではネットワークに注目するネットワーク型のアプローチもあるそうだ.
まずキャスティング型をとり,久野の繁殖干渉モデルを3種関係に拡張したモデルが解説される.捕食者2と被食者1の系と捕食者1と被食者2の系がモデル化されるが,振る舞いはかなり異なっている.なかなか複雑で難しい.
次にアバンダンス型を採用した場合の説明がある,基本的には繁殖干渉が種-個体数分布にどういう影響を与えるかを考えることになる.すると繁殖干渉がある群集では近縁種間で排除が生じやすいから,属あたりの種数は減少すると予測されるが,より大きなスケールでは先住効果を通じて側所的分布を促進するので,小さいスケールでは多様性を減少させ,大きなスケールでは多様性を増加させることになると説明されている.
 

第2部 繁殖干渉の実態

 
第2部では個別の研究例が並んでいる.具体的で読んでいて楽しいところだ.
 

第3章 繁殖干渉と外来種問題:タンポポを例に 西田佐知子

 
野外で生じている繁殖干渉は,正のフィードバック効果で早々に決着がつくためなかなか観察できない.しかし侵入外来種なら今ここで観察できる.また外来種による在来近縁種の駆逐がなぜ生じるかについて,これまで一貫した説明がない.資源競争では一方的な駆逐は生じにくいはずだし,天敵の問題は在来種天敵側の外来種に向けた適応を軽視しているように思われ*3,また外来種に無性生殖種が多いことはこれらでは説明が難しい.繁殖干渉は有力な要因であり得るだろう.ということで著者はタンポポに着目する.
これまで植物の種間競争については送粉者を巡る資源競争のリサーチが圧倒的に多く,繁殖干渉はほとんど注目されていない.著者はまず植物における繁殖干渉の検証方法から解説する.頻度依存的負の相互作用,花粉のやりとり,異種花粉の効果の検出ということになる.
 
ここからタンポポの話になる*4.在来のタンポポには2倍体有性生殖種であるカンサイタンポポ,トウカイタンポポ,カントウタンポポがあり*5,外来種としてはセイヨウタンポポの3倍体のものが定着している.
著者は既に置き換わりが生じていると認識されているカンサイタンポポとセイヨウタンポポについて繁殖干渉の存在を調べる.先ほどの3つの検証に成功し,さらに繁殖干渉の有効距離を測定し(外来種花粉を受け取る確率が50%になる距離は1.5~5メートル程度と小さい),在来種駆逐シミュレーションを行う(これによると外来種を根こそぎにしなくても花を摘むだけでかなり保全効果があることが示されている).
しかし名古屋に在住している著者は違和感を持つ.トウカイタンポポはセイヨウタンポポに駆逐されているようには見えないからだ.そこでトウカイタンポポとセイヨウタンポポの繁殖干渉も調べる.調査するとトウカイタンポポは周りにセイヨウタンポポがいてもほとんど結実率が低下しない.近縁種でも繁殖干渉の受け方が大きく異なるのだ.なぜこの違いが生まれるのか.著者は具体的なメカニズムを調べようと,めしべの中の花粉管伸長の様子を非常な苦心の末に観察し,めしべ内で外来種花粉の花粉管伸長を止めるメカニズムの有無がこの繁殖干渉の感受性の違いを生んでいることを突きとめる.
また最近ではカンサイタンポポの中にもあまり繁殖干渉を受けない個体群が見つかっているそうだ.実際に関西地区では外来タンポポ比率は2005年をピークに頭打ちになり,その後徐々に低下している.これはカンサイタンポポ内で急速に繁殖干渉耐性の淘汰が進んでいるためかもしれないとコメントされている.
著者は最後に検証における頻度依存効果の確認の重要性,シミュレーションの意義,空間スケールと分布情報の重要性を指摘して本章を終えている.
 

第4章 個体群レベルでの繁殖干渉:イヌノフグリ類を例に 高倉耕一

繁殖干渉は個体レベルと個体群レベルでは局面が異なる.著者は個体レベルで繁殖干渉があっても,個体群レベルでも生じるのかどうかは調べる必要があると主張し,その具体例としてイヌノフグリを取り上げる.
イヌノフグリは在来種で,明治期まではその辺のどこにでも生えていた雑草(牧野富太郎の記述による)だったが,外来種のオオイヌノフグリに駆逐され,日本全国のほとんどの地域でわずかに石垣に見られる希少種になっている.これは明治大正期以降に起こったはずだが,(ありふれた雑草ということで)ほとんど記載もなく素速く進んだようだ.著者はこの過程には繁殖干渉が大きくかかわっていると考えまず個体レベルで繁殖干渉の存在を確かめる(具体的な人工授粉,移植実験の詳細が書かれている).さらに侵入が遅く,まだ全面的な駆逐が生じていない瀬戸内の島(新居大島)で個体レベルの繁殖干渉(残存在来種のパッチの中に一株だけ外来種が入り込んだ状況のその後の推移)を観察する.
次にこの瀬戸内の島嶼群で個体群レベルでの調査を行うことにする.様々な侵入段階にある64の島嶼で,島嶼の様々な生態環境と両種の頻度を調査し統計的に解析した.その結果.イヌノフグリが希少になったのはオオイヌノフグリの侵入のせいであることが示された.またオオイヌノフグリ頻度と相関を持つ環境要因として寄港した船のトン数が大きく効いていた.これはフェリー便の有無(そして自動車の頻繁な乗り入れ)が侵入に寄与していることを強く示唆している.
なおオオイヌノフグリ側もわずかではあるが繁殖干渉を受ける.このため1株飛び込み型の分布拡大は難しく,自種パッチ拡大型による駆逐が基本になっており,これがオオイヌノフグリの侵入速度が,タチイヌノフグリやオランダミナミグサに比較してやや遅い理由ではないかと著者は推測している.
 
続いて著者はイヌノフグリの生態の変化を考察している.かつてどこにでも生えていた雑草であったイヌノフグリはなぜ現在主に石垣にのみ見られる岩隙植物となったのか.オオイヌノフグリの侵入がまだ大きくない島嶼ではイヌノフグリは地面にも見られる.なぜイヌノフグリは生態を変えたのか.ここから著者はティンバーゲンの4つのなぜにすべて答えようとする.

  • 適応:オオイヌノフグリは石垣上には生息できず,繁殖干渉の有効距離は1メートル程度と短いので石垣はイヌノフグリにとって安全地帯だった.そのため石垣に生育場所を移し岩隙植物となったのだろう.*6
  • 系統:ISSR-PCR解析で調べたところ,地面生息の島のイヌノフグリと岩隙植物となった本土のイヌノフグリが別系統に分かれているということはなかった.本州ではそれぞれの地域で岩隙化したと思われる.
  • 至近メカニズム&個体発生:岩隙化すると重力のために種子散布が問題になる.イヌノフグリはアリ散布なので,地面に落ちる前にアリに運んでもらう必要が生じる.本土のイヌノフグリは果実が(島のイヌノフグリのように)下向きではなく,上向きについていることが多い.これは花柄が下向きに転じるという発達過程の省略により可能になっている*7

さらに著者は.アリとの関係(種子散布アリは本州の方が多様),本州地域ではアブラムシを寄せ餌に使うようになった可能性,未解明な問題(送粉者相の全貌,個体レベルの繁殖干渉のメカニズム,他の外来種との関係ほか)を指摘し,さらにこの研究で見えてきたこととして「影響が大きいほど見逃されやすい」という外来種問題のパラドクスを指摘して本章を終えている.
 

第5章 「種間競争」再考:マメゾウムシを例に 岸茂樹

 
ここまでの2章が植物だったが,次の2章は動物(昆虫)になる.まず第5章は最も研究が進んでいるマメゾウムシが登場.
まずマメゾウムシ類についての概説がある.ゾウムシとは遠縁でハムシの仲間であること,世界で約1300種,日本には約30種が生息し,マメ科植物の種子を食べて成長する.食用の豆を食べるものは害虫とされ,日本には5種存在し,アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシはこれに含まれる*8.5種とも利用する豆と共に世界中に広がっていて,本来の自然分布域がどこだったかはもはや判然としないそうだ.植物防疫の資料からはこれら5種以外にも多くのマメゾウムシが豆と共に日本に入ってきていることが推測されるが,それらは日本に定着していない.著者はこれは繁殖干渉によるものだと考えている.

ここからアズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシの相互作用の話になる.まずこれまでの知見や飼育方法などが詳しく解説され,続いて両種の種間競争についてのこれまでの研究が説明される.それによると両種を共存させたときにどちらが勝つかの結果が分かれている.これまでは幼虫の豆の中の競争における局所的な条件差によるものだと解釈されてきた.著者はこれには繁殖干渉が関与しているのではないかと考えてリサーチを始める.
一連のリサーチによると,両種のオスは共に異種メスにも区別なく求婚すること,異種と交配したときにヨツモンのメスの産卵数は減少するが,アズキのメスの産卵数はわずかしか減少しないこと,また豆の中の幼虫の資源競争ではヨツモンが有利であること(資源競争だけが問題なら常にヨツモンが勝つはずということになる)もわかった.著者は,ここでは非対称な繁殖干渉が生じており,共存実験の結果が分かれるのは初期頻度の問題ではないかと考え,検証実験を行いそれを確かめる.またこの実験の動態を解析し,繁殖干渉と資源競争が同時に効いていることを示唆する結果を得ている.著者はさらに繁殖干渉の至近的メカニズムの考察(交尾拒否行動,交尾器の損傷,行動的産卵数の減少)を行い,これまでの様々な研究例の結果を再解釈し,アズキゾウムシの系統間で繁殖干渉への感度が異なる問題(累代飼育の方法の差による可能性がある)を取り上げる.
次に著者はマメゾウムシの資源分割の実験を行い,異種オスによる繁殖干渉で資源分割が生じうることを示す.これは野外でも資源競争能力のみによって利用資源が決まらない可能性を示唆するものだ.
また本章の最後では,ショウジョウバエ系とコクヌストモドキ系の種間競争においても,これまで資源競争のみで考察されてきたが,繁殖干渉が重要な要因になっていることが明らかになってきていることが指摘されている.
 

第6章 ニッチ分割と食性幅:テントウムシを例に 鈴木紀之

 
ここではニッチ分割における繁殖干渉の役割が議論されている.まず繁殖干渉以外の仮説をまとめている.

  • 植食性昆虫の食草利用を説明する仮説としては敵対的な共進化(防御毒物とその解毒)が重要ではないかと考えられてきた.
  • この仮説に基づく実証研究が膨大になされたが,その結果は必ずしも共進化仮説を支持するものではなかった.実験的に様々な植物を幼虫に与えてみると問題なく成長する例が数多く見つかったのだ.また成虫の産卵場所選択が,幼虫の成長適合性と一致していない例も数多く見つかった.これについては近縁種間で一貫した傾向がないこともわかった.
  • 共進化仮説は,ニッチ利用については何らかのトレードオフ(解毒能力のコストとメリットなど)があることが前提になるが,植物の相互移植実験をメタ解析すると移植先でも相対適応度が低下しない実例が多く見つかった.これはトレードオフの普遍性が思っていたより小さいことを意味する.
  • もう1つの有力仮説は天敵の効果が実現ニッチの幅を狭めているというものだった.確かにこれで説明できるものも一部にはあるが,一般的に天敵は餌生物より広い範囲を移動できるので餌に応じた特異的な効果が考えにいこと,近縁の餌種同士なら防衛能力も似ているであろうこと,上位捕食者には(有力な天敵がいないため)当てはまらないことから普遍的な説明能力には限界がある.
  • 資源を巡る消費型の種間競争仮説もあるが,通常環境中には資源が過剰にあるので競争は起こりにくいこと,均質な環境の複数種が共存している例も多いことからこれも問題含みだと考えられる(詳しい議論は第2章に譲るとしている)

 
ここで登場するのが繁殖干渉によるニッチ分割仮説ということになるが,詳しく解説する前に「同所的種分化」との比較を解説している.しばしば議論が混乱するからということだろう.

  • 繁殖干渉によるニッチ分割では,(異所的に種分化した)2種が二次的に接触した後の相互作用を想定している.これに対して同所的種分化のプロセスは,ある集団の中でそれぞれ異なる資源に適応した複数の分集団が現れて,やがて地理的隔離なしに種分化が進むことを想定している.
  • 同所的種分化が実現するには,同じ分集団個体との繁殖(同類交配)が繰り返される必要があり,「繁殖が資源の周りで行われること」が前提となる.これは「資源の分布がメスの分布を規定し,メスの分布がオスの分布を規定する」という生態学の理論と関連する.この「繁殖が資源の周りで行われること」が前提になることは繁殖干渉と共通する.このため同所的種分化リサーチで得られた多くの知見を繁殖干渉リサーチに応用することが可能になる.
  • この2つのプロセスは「系統的な近縁な種のニッチ分割」という同じパターンを予測するので,その区別には注意が必要になる.
  • 同所的種分化の場合には移動分散により分集団間の遺伝子流動が完全になくなることは難しく,これがこのプロセスの実現可能性を低くしている.繁殖干渉の場合には両種に移動分散が生じていても問題はない.
  • また繁殖干渉の理論(その中のオスの求愛のエラーマネジメント理論)からは,オスの求愛行動のエラーは最適化によっても残ることが予測され,同所的種分化や隔離強化のモデルへの取り入れが期待される.
  • 同種的種分化と繁殖干渉は,ニッチ分割を駆動する要因としては互いに背反なプロセスであると考えられる.前者は同類交配や隔離の強化を想定しているが,後者はそれが厳しくなりすぎないことを前提としているからだ.
  • 同所的種分化の実証的な証拠は少ないとされている.これまで同所的種分化によるニッチ分割とされていた系を再検討する際には,繁殖干渉は有力な代替仮説になるだろう.

 
続いて繁殖干渉によるニッチ分割の理論の紹介がある.基本的には西田による個体ベースモデルを元にした二次元の格子空間モデルが解説されている.シミュレーションの結果は繁殖干渉の強さ,そして餌への適合性の差に応じて,「局所共存」「側所的分布」「ニッチ分割(食草分割)」という3パターンが得られるものになっている.
また餌への適合性の部分について食性幅の大小があるという前提を組み込むと,ジェネラリストとスペシャリストの共存が生じうることを示されている.ここで面白いのは,ジェネラリストとスペシャリストが共存する場合に,最適採餌理論は質の高い餌で共存が生じることを予測するが,繁殖干渉モデルでは質の低い餌での共存(野外でもいくつも観察されている)が生じることだ.
 
ここから著者自身のテントウムシの研究が紹介される.基本的には「すごい進化」で解説されていたナミテントウとクリサキテントウの物語になる.ナミテントウからの非対称的な繁殖干渉のために,クリサキテントウは松林にのみ生息しより捉えにくいマツオオアブラムシを餌とするようになっていることを説得的に示したというものだ*9.これは先ほどのモデルの予測とも整合的だ.また他の系との比較として,ヒメシロチョウの食性幅の進化やタバココナジラミのバイオタイプ間の繁殖干渉と薬剤散布耐性との関係なども論じられていて面白い.
 
また最後には,この食草ニッチ分割に関連する,産卵選好性,ハビタット選択などの問題も簡単に論じられている.
 
 

第3部 繁殖干渉研究の現在と未来

第3部は最新の研究同等と今後の課題が整理されている.
 

第7章 最新の研究の動向 岸茂樹

 
これまでの先行研究が主な生物群ごと(原生生物,昆虫,それ以外の節足動物,その他無脊椎動物,脊椎動物,植物)に整理されて紹介されている.単に紹介するだけでなくところどころ著者のコメントが入っていて味わい深い.(また最後には否定的な研究についての考え方*10があって面白い)ここでは興味深いコメントをいくつか紹介しよう.

  • ゾウリムシの種間競争についてはガウゼの古典的研究があるが,これは資源競争で説明しようとしている.ゾウリムシは通常は分裂によって増えるが,有性段階もあるので繁殖干渉の生じる余地がある.種間の接合の際に不和合が生じるという報告もある.
  • ブラジルのサシアシグモ科の2種の繁殖干渉においては,片方の種でメスよりもオスの方が種を厳しく識別することが見つかっている.婚姻贈呈とメスからの捕食リスクのためにオスの方が種識別エラーのコストが大きいためだと考えられる.逆にメス側には異種のオスから求愛されることにより利益が生じている可能性がある.
  • カエルの繁殖干渉には,異種オスに抱接されることによる直接コストだけでなく,異種オスの求愛コールにより同種オスの求愛コールがかき消されてしまうというものもある.
  • ヤモリの研究に見られるように近縁の単為生殖種と有性生殖種との間で繁殖干渉が生じる場合には,オスの存在する有性生殖種からオスの存在しない単為生殖種に一方的に干渉が生じる.このためそういう場合には単為生殖種が絶滅しやすいと予測される.これはなぜ2倍のコストにもかかわらずに単位生殖種が少ないのかという問いに関する部分的な解答になるかも知れない.

 
続いて繁殖干渉が存在する場合に,どのような形質的な影響が期待されるかがまとめられている.ここも詳細が興味深い.

  • まず繁殖干渉は繁殖に関わる形質の分化への淘汰圧になる.しかし急速に片方が排除されるために影響は限定的かも知れない.
  • 繁殖干渉により閉鎖花が進化する可能性がある.
  • 資源利用に関すると考えられる形質についても繁殖干渉も作用している可能性がある.分布パターンだけからこれらを見分けるのは難しいだろう.
  • ニッチ分化に関する形質については,繁殖干渉が多くの形質について大きな影響を与えると考えられる.
  • 色彩や模様などの遺伝的多型頻度,(繁殖季節,配偶選好などの)表現型可塑性による多型頻度は配偶行動において重要なので,繁殖干渉が影響を与えるだろう.
  • 警告色などのミュラー型擬態は本来種間で収束に向かうはずだが,繁殖干渉があると近縁種での収束を妨げる方向に働くだろう.また不完全な擬態についても,繁殖干渉と擬態の妥協として捉えることができる.

 

第8章 未解決の課題と展望 西田隆義

 
最後に未解決課題がまとめられている.

<繁殖干渉が生みだす諸現象>

  • 生物の空間分布と繁殖干渉:生態学においては相互作用から空間分布を考えるアプローチと空間分布から相互作用を考えるアプローチがある.日本の生態学は後者が主流だった.昆虫生態学においては成虫期の移動・分散を通じた密度調整を重視してきた.しかし繁殖干渉を視野に入れると(近縁種間の)空間分布は結果的に決まることになる.また資源競争と繁殖干渉では空間スケールが異なっていることにも注目すべきだ.
  • 時間的棲み分けの可能性:繁殖干渉からは空間だけでなく繁殖の時間的な分離という結果も生じうる.しかし実際の観察例は少ない.なぜなのか理論的な研究が進むことが期待される(西田自身の定性的な議論のフレームワークが簡単に解説されている)
  • 繁殖干渉から見た遺存種・狭域分布種:繁殖干渉に弱い種は,劣悪な環境に逃げ込む形の分布をとることが予想される.これまで劣悪環境分布種は資源競争能力が弱いためとされてきたが,それは繁殖干渉の結果そういう分布域に追いやられ,その後その環境に適応した結果である可能性がある.
  • 体サイズへの影響:これまで生態学では資源競争を通じて体サイズが分化するという生態的形質置換のモデルが主流だった.しかし繁殖形質としての体サイズに繁殖干渉が影響を与えて繁殖的形態置換を起こし,その後体サイズに応じて食性などの生態が変化している可能性がある.グラント夫妻によるガラパゴスフィンチのリサーチは見事だが,生態的形質置換だけではなぜ様々なクチバシのフィンチが共存しているのかを説明できない.

 
ここで今西錦司の棲み分け論との関係が論じられている.今西説(特にその自然淘汰の否定部分)は,今日まともな科学的仮説として扱われることはまず無いが,著者の世代にとっては影響が大きく(きちんと学問的に総括されていないということもあって)著者なりの整理をしておきたいということなのだろう.
 
<棲み分け論との関係>

  • 今西の棲み分け論は繁殖干渉と正反対の関係にある.
  • 今西の棲み分け論の欠点は(1)種認識機構が前提になっていて論点先取になっていること(2)相互作用について種間を想定しているが,実際の相互作用は個体間個体群間で生じるものであること,の2つである.
  • 種認識機構が最初からあるという(1)の前提については,繁殖干渉の存在そのものがまさに反証になる.種識別が進化しうるかというのはダーウィンとウォレスの論争以来の問題だが,オスの最適行動を考えると繁殖干渉はなくならないと考えられる.
  • 私は繁殖干渉を媒体として棲み分け論を換骨奪胎できるのではないかと考えている.「繁殖干渉があると繁殖ステージの個体群間で小さい空間スケールでの棲み分けが極めて短時間に成立する.種分化が十分進んだあとで2種が出合ったとき繁殖干渉がなければ共存し,あれば空間的分離が成立する.近縁種が近接する際に浸透交雑が生じない場合も交雑を伴わない繁殖干渉で説明できる」と考えればいいのではないか.

 
<無性生殖種の問題>

  • これまで侵入種に無性生殖種が多い理由についてはアリー効果(低密度の有性生殖種は配偶相手を見つけにくい)で説明されてきた.しかしこれは繁殖干渉でも説明可能だ.
  • 無性生殖種が極地や乾燥地といった周辺的環境に多いことは,熱帯のような生物的相互作用が多い環境では有性生殖による遺伝子の混ぜあわせが有利だとして説明されてきた.しかし(オスの存在する)有性生殖種から(オスの存在しない)単為生殖種に一方的に繁殖干渉があるとすると,単為生殖種は有性生殖種の周辺に側所的に分布するしかないことになり,これでも説明可能だ.さらにこの説明は有性生殖の2倍のコストの謎の一部を説明できる.
  • 単為生殖種が繁殖干渉のために非常に不利な場合に,交雑種が親種より相対的に有利になる状況が生じる可能性がある.これはこれまで雑種強勢として説明されてきた現象の真の姿かも知れない.こういう場合には通常の適応度成分と繁殖干渉による適応度成分を分けて分籍する必要があるだろう.

 
<配偶様式・配偶場所の影響>

  • 配偶干渉は配偶場所で生じる.これは昆虫などの場合幼虫の食草場所とは異なることがあり得る.その場合には繁殖干渉仮説と資源競争仮説を明確に分けて検証可能になる.(著者はそのような適切な昆虫種はまだ見いだせていないとしている)
  • 繁殖干渉を重視する立場にとっては,複数の近縁種が問題なく共存している状況には説明が必要になる.日本におけるスズメバチやアリの共存について,なぜ繁殖干渉が生じないかは調べていく必要がある.
  • 渡りと繁殖干渉の関係も興味深い.なぜ多くの鳥類が渡りをするのかの理由の1つが繁殖干渉(渡りによって配偶場所を変えることで繁殖干渉のコストを下げる)である可能性がある.
  • 繁殖干渉には先住効果があるので,履歴効果があることになる.これは様々な現象を引き起こすはずだ.安定した環境ではより先住効果が高く,攪乱環境では繁殖干渉に強い方が(侵入順序にかかわらず)勝ちやすくなるだろう.また繁殖干渉の強さに非対称があると,3種以上の種間で入れ子状の分布が生じやすくなるだろう.分布を説明するには繁殖干渉の強さと侵入順序のデータが必要になる.これらにとって外来種は良いデータ収集機会をもたらすだろう.
  • さらに応用的な用途もあるだろう.保全や害虫駆除などに役立つアイデアがいろいろあるだろう.

 
この将来の課題の章は大変力のこもったもので,著者の思い入れが強く感じられるものになっている.
 

おわりに 西田隆義

 
西田はさらに「おわりに」でいろいろ個人的な感慨を語っていて読みどころになっている.本書の中で最も面白い部分かも知れない.

  • 生態学における標準的な見解では,生物群集の形成する中心的な概念は資源競争だった.競争排除則の理論モデルが提示され,それが実証研究を呼び込んだ.そして20世紀中頃からは群集を競争平衡と捉えるマッカーサーの考え方が興隆した.しかし彼の早すぎる死のあと,非平衡群集説,中立群集説,共生重視説などが現れ,混乱の時代となった.
  • 冷静に考えてみると,棲み分けやニッチ分割が観察される以上,資源競争説が失敗だったとしても何らかの負の相互作用はあるに違いない.しかしそれらしい相互作用は見当たらない.なぜそれを目のあたりにできないのだろうというのが長年の疑問だった.
  • そのころ物理学者田崎晴明の普遍性についてのエッセイに感銘を受けた.彼は普遍性とは系のマクロの振る舞いの本質がミクロの詳細に依存しないという経験事実を指すもので,それが物理学を営む不可欠な前提だと解説していた.
  • 生物学にも普遍性への確信が必要なのだ.しかしその形而上性が強すぎると今西説のような論点先取の観念論になってしまうし,形而上性がないと群集をすべて個別の相互作用から見るしかなくなってしまう.そして一度ダーウィンにまで立ち返って資源競争説を見直そうと考えた.普遍性を信じて,消えた相互作用の中にこそ聖杯があるのだと心に刻んだ.
  • 繁殖干渉の重要性に気づいた最初のきっかけは数学者バロウズの個人が少数派になることの不利益についてのエッセイだった.それを読んで考えたのは,少数派が集まって暮らせば相互作用は少数派間で多くなるのではということだった.しかしほとんどの生物には社会生活がなく重要な社会的な相互作用もない.この時は繁殖干渉に気づくまでには至らなかった.
  • そして繁殖干渉のアイデアを初めて聞いたのは,1990年代の京大昆虫研のセミナーだった.久野英二先生が自ら作った繁殖干渉の微分方程式モデルを紹介してくれたのだ.そのときには(多くの昆虫のメスは多数回交尾をし同種精子が優先されることが精子競争の研究からわかっていたため)繁殖干渉が過大評価されているのではないかと思った.
  • しかし十数年後には私の考えは大きく変わった.1回交尾種では繁殖干渉が重要だという仮説を立てて理論モデルを検討していくと,多数回交尾も同種精子優先も繁殖干渉のコストを大して減らせるわけではないことがわかったからだ.
  • この理論研究の結果を考え巡らせていた2004年のある日突然頭の中の霧が晴れた.広範な生態現象が繁殖干渉で統一的に説明できることが理解できた瞬間だった.
  • しかし同時に長年生態学者を悩ませてきた多くの問題がそんなに簡単に説明できていいのかという疑問が湧いてきた.そこで院生たちと,そして行動生態学の高倉耕一,同じ研究室の大崎直太と議論を戦わした.それからしばらくは研究室は梁山泊のような雰囲気になった.研究者として最も楽しい時期だった.
  • その当時立てた目標(理論の創設,資源競争説のエビデンスとされた実験結果を見直す,研究対象を昆虫から広げる,外来種による在来種の駆逐を調べる,在来種同士の繁殖干渉を調べる)についてはある程度進展できたと思う.しかし生態学の中での「繁殖干渉が生物群集の形成の鍵要因である」という見方への大転換はまだそれほど進んでいない.本書が何らかのきっかけになることを願っている.

 
 
本書は繁殖干渉の理論,その広範囲な影響,具体的な検証リサーチを総説する書物であると同時に,その学説的な意義にも触れていて非常に充実した一冊になっている.理論や実証研究を読んでいくと,繁殖干渉の姿が実感できる.それは頻度依存的に働き強い正のフィードバック効果を持つために,種間競争において互いを排除しようとする特異的なドライブフォースを作り出し,そして排他的な分布やニッチを実現することができるのだ.
そして学説史として振り返ってみたときの状況もよくわかる.近縁種の側所的分布,ニッチ分割は何らかの負の相互作用があるからこそ見られるはずで,生態学はそれを資源競争だと考えて進んできた.しかし実証研究はそれをうまく示せない.ここで繁殖干渉という単純なアイデアはその長年の謎を解決できる.そしてなぜそれが長年気づかれず議論されなかったのか,それはその強い正のフィーバック効果からフィールドではあまり観察されないからだったということになる.そして一旦その理論を手にして世界を眺めると,世界は異なって見えてくる.このことに気づいた研究者たちの興奮はいかほどだっただろうか.その興奮は様々な理論モデルを生み,オオイヌノフグリ,タンポポ,マメゾウムシ,テントウムシのリサーチに結実する.そしてなお未解決の課題がいくつも提示されているのだ.繁殖干渉は基本的には生態学の領域の現象だが,それは適応度に大きく関わる現象である以上当然進化にも大きな影響を与える.今後のリサーチの進展に大いに期待したい.
 
関連書籍
 
一般向けに書かれた鈴木の一冊.テントウムシの繁殖干渉事例が詳しく研究物語として書かれている.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/20170622/1498135500

すごい進化 - 「一見すると不合理」の謎を解く (中公新書)

すごい進化 - 「一見すると不合理」の謎を解く (中公新書)

*1:侵入成功種に単為生殖種が多いことは示唆的だとされている

*2:これまでは暗黙に資源競争が仮定されていたが,そうでないものが多いはずだという予測につながる

*3:とはいえ,タイムスケールの問題もあって,天敵は重要なファクターとして残るような気もするところだ

*4:コラムでタンポポの種識別問題の難しさ(特に雑種の識別は極めて困難)が解説されていて,研究を進めるにはあまり同定に拘泥せずにまず調査に取りかかることが大切だと書かれている.いろいろなことがあったことが推察される.

*5:このほかに倍数体のシロバナタンポポ,エゾタンポポなどもあるそうだ

*6:なおこれが適応なのか,単に一部の生息場所に限定されたのかはこれだけではわからないというべきだろう

*7:これが遺伝的であれば,適応というべきだろう.そこについてはコメントされていない

*8:残りの3種はエンドウマメゾウムシ,ソラマメゾウムシ,インゲンマメゾウムシになる.

*9:なおコラムにおいては別の代替仮説「ギルド内捕食説」を検討し,それも成り立たないことが示されている

*10:方法論が適切かどうか確認しよう,適切な場合にはなぜ繁殖干渉が生じていないのか調べる絶好のチャンスだと考えよう,また近縁種間でなければ繁殖干渉がなくとも驚くべきではないなどとコメントされている