　「歴史は実験できるのか」 - shorebird　進化心理学中心の書評など

作者: ジャレド・ダイアモンド,Jared Diamond,ジェイムズ・A・ロビンソン,James A. Robinson,小坂恵理
出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会
発売日: 2018/06/06
メディア: 単行本
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以前私が書評した進化生物学者ジャレド・ダイアモンドと政治経済学者ジェイムズ・ロビンソンが編者となっている歴史における自然実験をテーマにしたアンソロジー「Natural Experiments of History」が「歴史は実験できるのか」という邦題で邦訳出版された．
実験可能なテーマであれば統制した実験で因果を解明していくことができる．だが，歴史を扱う科学（進化生物学，古生物学，疫学，歴史学，地質学，天文学など）においては統制実験はできない．しかし統制実験ができないとしても，その他の条件ができるだけそろった事例を見つけだして比較するという手法によりそれに迫ることができる．本書はとくに歴史学の自然実験を用いたリサーチについての研究者の寄稿を集めたアンソロジーになっている．
事例としてはポリネシアの島々の比較，植民地の経済成長の比較，銀行システムの発展の各国比較，アフリカにおける奴隷貿易の影響，インドの植民地の徴税制度が経済成長に与えた影響，フランス革命が欧州に与えた影響などのリサーチが並んでいる．歴史の中でも政治経済史，特に近代以降の話題が多いのも特徴だ．
私としては，銀行システムの発展比較や地域ごとのフランス革命の影響比較のリサーチが大変興味深かった．また奴隷貿易の現在にまで及ぶ負の影響の大きさにも改めて驚かされた本だ．政治経済史に興味がある人には大変面白いだろう，

また本書のテーマは，アセモグルとロビンソンによって一般書「Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty」に結実し，それは「国家はなぜ衰退するのか：権力・繁栄・貧困の起源」として邦訳されている．この本を興味深く読んだ読者がより深く知りたいと思うなら本書はうってつけだと思う．

原書　私の原書書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20101228