Enlightenment Now その43

Enlightenment Now: The Case for Reason, Science, Humanism, and Progress (English Edition)

Enlightenment Now: The Case for Reason, Science, Humanism, and Progress (English Edition)

第16章 知識 その3

 
ここまでピンカーは本章で教育と知識水準の向上とその影響を議論してきた.ここでピンカーは一旦人類の幸福の向上についての定量的な議論をまとめている.それは次の2章でやや定性的な議論をするためにここで一旦区切っておきたいからということのようだ.
  

  • 人類にとって良いことが社会科学にとっても好都合だとは限らない.様々な好事象が同じ方向を向いているときに因果を解きほぐすのは簡単ではない.ここではあえてそれを解きほぐそうとはせずに,その共通の方向(あるいは統計学者が言う「一般因子」「主成分」)を考えてみよう.我々は既にそれに名前を付けている.それは「進歩」だ.
  • 国連の開発プログラムで,アマルティア・センたちは平均寿命,一人あたりGDP,教育水準の指標を組み合わせて「人間開発指数(Human Development Index, HDI)」を開発し,提唱した.また過去にさかのぼれる指標として,経済学者のプラドス=デラエスコスラ(Leandro Prados de la Escosura)は人類解放歴史指標(Historical Index of Human Development),同じく経済学者のリプマ(Auke Rijpma)は厚生複合指標(Well-Being Composite)を提唱している.これらは平均寿命,一人あたりGDP,教育水準に加えて,身長(健康の大体指標),民主制.殺人率,所得格差,生命の多様性などを組み入れている.

(世界全体についてのHistorical Index of Human DevelopmentとWell-Being Compositeの1820年から2015年までの推移グラフが掲載されている.いずれも着実に右肩上がりに上昇している.ソースはプラドス=デラエスコスラ2015,リプマ2014)

  • このグラフを見ると人類の進歩が一目でわかる.そしてなお世界には地域格差があるが,すべての地域で向上に向かっていること,最悪の地域ですら,今日の水準は最高地域のそれほど遠くない過去と同じ水準であることがわかる.(西洋以外の地域の2007年の水準は西洋の1950年と同水準になる)
  • もう1つ,すべての人の幸福の指標は富と相関するが,このグラフのラインは単に富を反映しているわけではないこともわかる.寿命,健康,知識は富が伸びていない地域でも伸びているのだ.すべての人類の繁栄の側面が長期間にわたって伸び続け,それが必ずしも完全にシンクロしていないことは,「進歩」というものの存在を根拠づけていると言えるだろう.

このHuman Development IndexとHistorical Index of Human DevelopmentはOur World in Dataサイトに掲載されている.ここでは国別のグラフを取ってみた.
Human Development Indexは過去さかのぼる系列データがないので,1980年からのグラフになる.この25年ほどの間でもそれぞれの国で上昇していることがわかる.
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Historical Index of Human Developmentは1870年までさかのぼったデータになる,このグラフの中では韓国が第二次世界大戦後中進国の水準から世界最高水準に急上昇している.
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