Enlightenment Wars: Some Reflections on ‘Enlightenment Now,’ One Year Later その3

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次の批判はいかにも感傷的なもの.ピンカーは簡単にかつ辛辣に切って捨てている.その次は前回につながるところで,現在ある懸念についてどう考えるかというもの.こちらはかなり丁寧に答えている.

Enlightenment Now: The Case for Reason, Science, Humanism, and Progress (English Edition)

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<批判 その5>
  • 人類のウエルビーイングの数字を眺めるというのは非倫理的で残酷で無慈悲な行いだ.今苦しんでいる人に一体何と言うつもりか?

 

<応答>
  • ほとんどのジャーナリストは伝統的な興味本位の報道における自らの数音痴振りについてきまり悪く感じている.しかし逆にそれをひけらかす者もいる.その良い例は「ピンカーは人類はうまくいっているとあなたに思わせたいのだ.個別の人については問題にするなというわけだ」というニューヨークタイムズの書評記事だ.

www.nytimes.com

 

  • この告発に対してはそのまま裏返して答えることができる.数字を見ることこそ人の苦しみに対して道徳的,同情的,そしてセンシティブなやり方だ.それは,部族メンバーや写真映えが良いものや近所の出来事を優先したりするよりも,すべての命を同じように慈しむものだ.データをみることこそ,どこで最も人々が苦しんでいるか,それを減らす方法は何かを知るために良い方法なのだ.
  • 7世紀の位取り法の発明の真価がわからない人には「Factfulness」に描かれた貧困とそこからの脱出を何度も繰り返しイメージすることをおすすめする.毎日重労働で同じもの食べ,飢饉の年に飢え,幼い子どもたちが死んでいく家族のイメージから,いつでもチキンと卵を入手でき,ストーブを囲み談笑し,子どもが学校に通う家族のイメージへの転換だ.そしてそれを1000年間休みなく繰り返しイメージするのだ.これを別のやり方で評価するとこうなる「過去25年間に10億人が極貧から抜け出せた」

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

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<批判 その6>
  • ドナルド・トランプをどう説明するのか? ブレクジットは? 権威主義的ポピュリズムは? 彼等は啓蒙運動の終わりと進歩の終焉をもたらしているのではないのか?

 

<応答>
  • 啓蒙運動の理想,すなわち不偏の理性と科学的自然主義とコスモポリタンなヒューマニズムと民主政体は人類に最も良い展望を与えるものだが,それは直感的ではない.人々は容易に動機に動かされた偏った認識,マジカルな思考,部族主義,権威主義,黄金時代へのノスタルジアにスライドバックしてしまう.
  • そして啓蒙運動思想は常に主流であったわけではない.1945年以降影響力を持つようになったが,それでもロマン主義者,民族主義者,軍国主義者,その他の反啓蒙運動主義者たちから攻撃され続けている.2010年代の権威主義的ポピュリズムも単に感情面だけでなく思想面でそれらの流れの中にある.「Enlightenment Now」でも触れたようにトランプ主義の知的ルーツは反啓蒙運動主義にある.これらは経済的文化的人口動態的な変革期に,特に時代に取り残されたように感じる人々の間で流行しやすい.
  • 啓蒙運動と進歩を信じる者たちにとって,トランプ政権の2年目は椅子に縛り付けられて予期できない電気ショックを与えられ続けたようなものに感じられただろう.凶悪な独裁者を持ち上げ,報道の自由と公正な司法の基礎を掘り崩し,外国人を蔑み,環境保護を台無しにし,環境科学を馬鹿にし,国際協力をないがしろにし,核軍拡競争を再開すると脅しているのだから.
  • しかし将来が永遠に泥靴で踏みつけられるようなものだと悲観する前に,権威主義的ポピュリズムについてより広い視野から見直してみよう.ポピュリズムは確かに最近膨張したが,どうも天井を打ったように見える.過半数のアメリカ人はトランプを支持していないし,ヨーロッパでもナショナリスト政党は中央値で13%の得票しか得ていない.ポピュリスム支持のデモグラフィックセクター(田舎,低教育,老人,エスニックマジョリティ)はみな減少している.
  • 2018年のトランプ大統領とブレクジット推進派の労苦は.サポーターたちに実務は理論ほどうまくいかないことを改めて思い知らしめた.彼等の前に立ちふさがったのは,国内の民主政体のチェックとバランス,そして国際的な協調への圧力だ.国際協調こそ,貿易問題,移民問題,環境汚染,新興感染症,サイバーテロ.海賊,ならず者国家,戦争などに対する最も効果的な対処法なのだ.
  • トランプやその他の反動的リーダーたちが世界に害を加えることができ,それに対してしばらくの間は反対して封じ込めを講じなければならないとしても,彼等だけが世界の中で行動しているわけではない.コネクティビティ,モビリティ,科学,人権と人類の幸福という理想を含む現代の力は各国政府と民間セクターと市民社会組織に幅広く行き渡り,情勢を一夜で逆転させないだけの大きなモメンタムを持っている.
  • 政治経済学者のアンガス・ハーベイはポジティブな進展を示すデータセットを報告している.(温暖化ガス放出量の減少,自然保護区の増加など14の例が挙げられている)

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