Enlightenment Wars: Some Reflections on ‘Enlightenment Now,’ One Year Later その8

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最後に扱われるの「一体ピンカーはこの本を書いて何をしようとしているのか,どのみち(トランプ支持者のような)馬鹿どもには届かないのではないか」という反応だ.ピンカーは本書を誰に向けて書いたのかを説明し,本書が基本的にはポジティブに受け取られていることを強調し,最後に実際に送られてきた一読者からの嬉しい手紙を紹介している.
 

Enlightenment Now: The Case for Reason, Science, Humanism, and Progress (English Edition)

Enlightenment Now: The Case for Reason, Science, Humanism, and Progress (English Edition)

 

<批判 その11>
  • 人々は不合理だ.彼等は事実が何かを気にしないし,議論しようともしない.だとするとあなたは「Enlightenment Now」で一体何をしようとしているのか.

 

<応答>
  • トーマス・ペインが書いているように「理性の使用を放棄している人と議論するのは死人に薬を与えるようなもの」だろう.私は「Enlightenment Now」を理性と議論を放棄している人向けに書いたわけではない.私はこれをあなたに向けて書いたのだ.実際に多くの人は事実が何かを気にするし,事実の提示によって(モラル的アイデンティティによって神聖な事柄以外の)意見を変えることがあるのだ.特に事実がグラフによって示されたならばそうだ.(グラフの有効性につてのリサーチが引用されている)

 

  • 「Enlightenment Now」を書いたときの望みが果たされたのかという点に関して言えば,ここで示している批判や私の反論にかかわらず,望みは予想を超えて果たされたと言うべきだ.「Enlightenment Now」に対する反応は私の最大の期待を越えて嬉しいものだった.「Enlightenment Now」は気むずかしい書評家たちからいくつもの激賞を受け,ペーパーバックの “Praise for Enlightenment Now” ページへの材料に事欠かない.1500通を越える手紙の大半はポジティブで建設的なものだった,その中でも特に嬉しかったのは次の3つの反応だ.

 

  • 最初の反応は現国家指導者,指導者・アドバイザー経験者7人との会談への招待だった.彼等は政治的なアドバイスを欲しがっていたわけではない.彼等は現在のリベラル民主統治の望みについて考察する機会を得たかったのだ.単に反ポピュリズムや反社会主義や現状維持主義では十分ではない.効果的な民主政治のリーダーであるためにはその使命の高貴さと価値についての信念が必要なのだ.そして啓蒙運動の理想は良いスターティングポイントになる.「すべての人間は生命,自由,幸福追求についての奪われることのできない権利を持つ.政府は人々によってそれらの権利を守るために統治する権限を与えられて創られる.」
  • 75のグラフが生命,自由,幸福追求についての進歩を示していることは,民主制の実験は,政府が常に改革を重ね問題を新しい知識によって解決する限り,成功しつつあることを示唆しているのだ.

 

  • 次の勇気づけられる反応は,自分たちの職業文化に破壊的な否定性が埋め込まれていることに気づき始めたジャーナリストたちからのものだった.
  • その否定性は読者を遠ざける:最近の国際的なリサーチでは1/3の回答者がニュースを見ないようにしていると答えている.そしてその態度は世界情勢についての誤解を生みだす.多くの人は世界の貧困や健康や暴力についての3択質問に対してチンパンジー以下の正答率しか示せない.
  • またその否定性は世界は改善できるという信念を腐食する:人類の進歩を信じない人ほど世界の将来に対してシニカルになる.そしてそのシニカルな態度はテロリストや乱射事件犯やツイートする政治家やその他の激情の暴発者たちのインセンティブを作り出しているのだ.
  • 世界の危険や不正義を報道すること(それはジャーナリストとして当然の行いだ)と,「良いニュースは大衆への迎合か企業PRか政府のプロバガンダに違いない」という奇妙な信念の元に進歩を覆い隠すことは違うのだ.
  • 私はジャーナリズムをより建設的でデータを基礎にしたものにするためのいくつかのプロジェクトに参加している.そのようなプロジェクトには以下に挙げるようなものがある.

www.solutionsjournalism.org

constructiveinstitute.org

futurecrun.ch

www.jodiejackson.com

thecorrespondent.com

www.blog.google

www.wbur.org

 

  • 3番目の心温まる反応は,多くの読者が「Enlightenment Now」を読んだことで人生が変わったと報告してくれたことだ.「心理学者」と呼ばれるようになってから,私はいつも「心理学者は人々のメンタルヘルスを改善してくれるはずだ」と考える人々の期待を裏切ってきた,そして人生で初めてその期待に添うことができたようなのだ.多くの心温まる手紙の中でこれが一番嬉しいものだ.それは「進歩を学ぶことの究極の効果は,単なる満足ではなく(進歩への)結びつきにある」という私の信念を裏付けてくれるものだからだ.

毎週私は自分のクラスに最近の出来事を教えています.そして教えることの効果は私にも跳ね返ってきます.多くの若い人は情報源をソーシャルメディアとニュースヘッドラインに頼っているので,私は一日中コンスタントにウルトラネガティブで恐ろしいニュースに襲撃され続けることになります.このプロセスは私を疲弊させるもので,私は時に鬱状態に陥っていました.
しかしあなたの本は私の人生を変えました.今では私は生徒たちに対峙し,生徒たちが議論したがっている恐ろしいヘッドラインを巡るコンテキストを提供できるようになりました.そして私は世界がより良い方向に向かっていることを知り,夜ぐっすり眠れるようになったのです.
現在の社会問題について黙示録的に採り上げず「問題は解決できる」と教えることが重要だと言うことについて,若い人々と接触しながら働いているものの一人としてあなたに全面的に賛成です.若い人に問題は解決できるのだと理解させることは特に重要です.なぜなら彼等は信じられないぐらいエネルギーにあふれているからです(私は毎日それを目のあたりにしています).私たちは,彼等を脅すのではなく(それはほとんどすべての研究でうまくいかないことがわかっています),彼等のエネルギーをうまく導くようにしなければなりません.
恐怖をあおり立てる文化の中で真に必要なコンテキストを提供してくれたことに深く感謝します.それにより私はより幸福な人間に,そしてより幸福な教師になることができました.

 
以上が「Enlightenment Now」を出して1年経った際のピンカーの批判に対する反論だ.基本的には浅い批判が多く,本書内で説明されていることで十分反論できるものばかりだ.ピンカーは本書の趣旨に整合的な多くの解説や記事を引用して自分の議論を補強している.向こうで出版されてからの議論の状況もよくわかるものになっていると思う.

<完>