Virtue Signaling その13


Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

  • 作者:Geoffrey Miller
  • 出版社/メーカー: Cambrian Moon
  • 発売日: 2019/09/17
  • メディア: Kindle版
 

第4エッセイ 道徳的徳の性淘汰 その9

 
ミラーはいよいよ本仮説の検証方法つまり代替仮説と異なる予測に話を進める.このコストリーシグナル仮説は何(良い遺伝子,良い親(子育て投資),良いパートナー)をディスプレイしているかによって異なる予測を導くのでこの部分は詳細で複雑だ.
 

道徳的徳の性淘汰モデルの予測

 

  • 様々な道徳的徳の進化モデルをどうやって検証したらいいだろうか.
  • この性淘汰モデルは他のモデルと異なる特異的な予測をする.なぜならコストリーシグナルは他の適応産物とは随分異なった表現型的特徴,および遺伝的特徴を持つからだ.それは特に道徳的徳の個人差に関して現れる.
  • 実際に検証するためにはまず様々な道徳的徳の強度を測定できる方法を開発しなければならないだろう.それには道徳についてより洗練されたアプローチが必要だ.
  • 一般的に性淘汰産物である量的に計測される道徳的徳は次の12の特徴を持つだろう.このリストは血縁淘汰,互恵性,グループ淘汰などの対立仮説と良い遺伝子インディケーター,良い親インディケーター,良いパートナーインディケーター仮説の違いを見ることを念頭においている.単一で性淘汰産物と断定できるわけではないが,組み合わせると良い証左になるだろう.

 

<遺伝的特徴>
特徴1 正の遺伝性

 

  • 道徳的徳が良い遺伝子インディケーターなら正の遺伝性を持つはずだ.これは行動遺伝学的に示すことができるだろう.多くのリサーチが反社会的行動,それと相関するパーソナリティの遺伝性を報告している.利他性や共感性に弱い遺伝性があることを報告しているリサーチもある.
  • これらの形質にかかる遺伝子は,生活史の中の発現パターンについても遺伝性を持値,性成熟後に強く現れるだろう.そうであれば子どもより大人で遺伝性が高くなるだろう.

 

  • もし道徳的徳が良い親インディケーターや良いパートナーインディケーターであるなら遺伝性は低いだろう.それでもやはり(生活史段階ごとのコストとベネフィットに応じた)特異的な生活史発現パターンを見せるだろう.

 

特徴2 近交効果,親の年齢効果

 

  • 道徳的徳が良い遺伝子インディケーターなら,徳は突然変異荷重を反映するだろう.近親交配や父親の年齢が高ければより徳が低くなる傾向があるだろう.

 

特徴3 分子遺伝レベルの解析の難しさ

 

  • 徳を減じるアレルは基本的に突然変異と自然淘汰のバランスで平衡を保つだろう.であれば徳を減じるアレルは進化的には新しいものが多く,また徳を持つ遺伝子の発見は標準的な連鎖解析では難しいだろう.分子解析は悪徳遺伝子を探す方が良いだろう.

 

<表現型的特徴>
特徴4 顕示的な求愛ディスプレイ

 

  • 求愛に置いて,個人は(意識的無意識的に)顕示的に徳を異性にディスプレイするだろう.
  • これは求愛ステージとそうでないときの比較,(女性の場合)排卵サイクルのステージ間の比較,社会的文脈の違いがある場合の比較などで示すことができるだろう.例えばロマンティックな文脈をプライミングされた被験者はそうでない場合より英雄的に振る舞うか,より芸術的創造性を発揮するか,顕示的消費を行うかどうかを調べることができる.
  • 良い遺伝子インディケーターならより短期的,機会的,ペア外配偶選択的な状況でより顕示的にディスプレイするだろう.
  • 良い親,良いパートナーインディケーターなら長期的配偶選択状況でより顕示的になるだろう.

 

特徴5 条件依存的なコストと他の適応度指標との正の相関性

 

  • 徳を作り出すにはエネルギー,時間,リスクなどについての高いコスト(厳密には限界コスト)を持つはずだ.ここに条件依存性の条件があることは重要だ.(そうでなければ徳とコストがトートロジーになってしまう)
  • 条件依存性はより具体的な予測を導く.例えば良い遺伝的適応度,あるいは良い表現的条件を持つものは,顕示的徳ディスプレイにかかるコストにより耐えることができ,より高い頻度でディスプレイするだろう.
  • だとすると,良い遺伝子を示す徳は,他のよく確立された適応度インディケーター(身体的健康,メンタルヘルス,長寿,身体の大きさ,対称性,知性など)と相関するだろう.特に良い遺伝子を示す徳,身体的魅力,社会的地位,カリスマの間には(単なるハロー効果ではない)しっかりした相関があることが予測される.
  • これに対して良い親,良いパートナーを示す徳の長期的信頼性は条件依存性からもたらされるだけではなく,パーソナリティの安定性(そして生活史の後半にその遺伝性が上昇すること),徳の堕落に対する社会的評判リスクおよび離婚リスクの大きさに多くを寄っているだろう.

 

遺伝的特徴の予測リストはなかなか興味深い.
特徴5の条件依存性はハンディキャップモデルの重要な特徴で,グラフェンによる数理解析のキモでもある.良い親やパートナー性についてのコメントもなかなか深い.(遺伝性でない)良い親,良いパートナーであるということを示すために十分なハンディキャップコストは(それがそうする意思と強く絡んでいるために騙しのターゲットになりやすく)おそらく相当高いものにならざるを得ず,このモデルだけでは説明が苦しいということなのかもしれない.