Virtue Signaling その26


Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

  • 作者:Geoffrey Miller
  • 出版社/メーカー: Cambrian Moon
  • 発売日: 2019/09/17
  • メディア: Kindle版
 

第6エッセイ 言論の自由に関するニューロダイバーシティの擁護 その7

 
ミラーはここからこのニューロティピカルによるニューロティピカルのためのスピーチコードが連邦法上の「差別」にあたるのではないかという議論を展開する.
 

システム志向 vs 共感志向(承前)

 

  • 私のこの仮説(ニューロダイバージェントたちはスピーチコードの遵守に困難を感じるだろう)を検証するために,私は私のツイッターフォロワーたちについて非公式の世論調査を行った.
  • 質問「すべてのオフェンシブ,ディスリスペクトフルな言辞を禁じる大学のスピーチコードの遵守が難しいのは,どのような状態の人々か」回答は655票だった.54%はアスペルガー,19%は統合失調,14%は双極性障害,13%はADHDと答えた.この結果をシリアスな科学的なリサーチとして扱うべきではないだろう.しかし私のように感じるのが私だけでないことは示してくれている.

 

  • 実際,多くのSTEM学生にとって,共感志向者はこのスピーチコードをアスピー侮辱の武器として使っているように見える.マーク・ザッカーバーグやイーロン・マスクのようなオタクが最強のイノベーターである世界ではスピーチコードは反オタクたちの復讐のようなものだ.
  • それはニューロマイノリティに対して(ニューロティピカルに対しての場合と)全く異なる負担を課すものだ.ある政策が表面上はニュートラルだが,特定の法的に保護されたグループに対してそうでないグループに対してより不利に働くなら,それは「全く異なる効果(disparate impact)」と呼ばれ,違法な政策になる.メンタル障害と診断されたものは1990年の障害者法(ADA)で定義された「障害者」に該当する.だから公立の大学でニューロマイノリティに「全く異なる効果」を課すスピーチコードは連邦法上違法なものになるはずだ.
  • ここでの「全く異なる効果」とは具体的には何か.ニューロダイバージェントたちは,この抑制的なスピーチコードとスピーチ規範の前では自分がルール違反をしてしまう可能性が常にあることを知っている.それは追放,解雇,テニュアの否定につながる.つまり彼等は恐怖の中で生きていかなければならない.彼等は言動や行動に重大な制限を課される.そして自己検閲する.
  • スピーチコードがニューロダイバージェントたちにいかに酷く差別的であるのか考えてみよう.(いくつか具体例が挙げられている)

 

  • このような恐怖の結果,ニューロダイバージェントたちは大学の社会生活や知的生活をあきらめたり,撤退していくこともある.彼等は研究室のグループミーティング,懇親会.パーティを避けるようになる.くだけた会話を誰かに聞かれてトラブルに巻き込まれるのをおそれるのだ.私はここ20年でこのようなオタクの撤退がどんどん増えているのを感じている.1980年頃にはオタクっぽく,奇矯なアカデミアの人々は,懇親の場でしゃべりまくり愉快だったが,今日では彼等は警戒的に振る舞い,怯えている.
  • この撤退はニューロダイバージェントな人々にとってはとりわけ悲劇になる.彼等は社交的な会話になじめず,真の社会的コネクションは自分と同じように賢い人との危険なアイデアについての活気あふれる議論を通じてのものに限られる.スピーチコードは彼等の言行を検閲するだけではない.彼等の社会的関係性を抹殺するのだ.
  • スピーチ抑制的効果はアスピーの社会生活を殺伐たるものに変えてしまう.その結果の疎外は,自己検閲→孤独→絶望という下向きスパイラルを通じて多くのメンタル障害の症状を悪化させる.
  • 政治学者のウィル・ムーアの例を考えてみよう.彼は高機能アスペルガーであり,自分が意図せずに同僚にオフェンシブになってしまうことに悩んでいた.そして自殺したのだ.彼の遺書は読む価値がある.

 

  • ニューロ多様性とイデオロギー多様性の間にはアナロジーが成立する.大学のスピーチコードはここ20年でこの両方の多様性を減少させてきた.
  • (イデオロギー多様性の面では)アメリカの大学は今やプログレシブ左翼,民主党支持者,社会正義運動家が圧倒的に優越するようになった.彼等は中道派,リバタリアン,保守,宗教的な学生,教師たちに対して敵対的であり,差別的だ.実際にアカデミアである種の政治的見解を持つことには(それが多くのアメリカ人と共有されているようなものであっても)コストがあるのだ.
  • このイデオロギー多様性問題は既に異説アカデミー,教育人権基金,Quilletteなどの多くの団体や,アリス・グレガー,ジョナサン・ハイト,サム・ハリスなどの言論の自由の擁護者から指摘されている.
  • これに対してニューロ多様性問題はまだあまり議論されていない.しかしこれは反差別法に基づく訴訟による解決が(イデオロギー多様性問題より)容易かもしれない.原理的に特定のイデオロギーに対して差別的なスピーチコードは「全く異なる効果」を含むだろう.しかし現在「共和党支持者」や「新反動主義(暗黒啓蒙主義)」は連邦法上で「保護クラス」として認められていない.しかしメンタル障害は「保護クラス」として認められているのだ.