From Darwin to Derrida その74

第8章 自身とは何か その14

 

反射された1人称「sympathy」 その2

 
自分についてのセルフイメージは相手が持つ自分のイメージに影響される.そしてそれは他者にとって操作や搾取の機会になる.だからそのような再帰的反響作用にはネガティブなフィードバックがかかるだろうとヘイグは説明した.しかしこの作用は再帰的に複雑なものになる.ここからヘイグはさらに深く思索する.デネットのいう高次の志向性の限界が試されるような文章が続く.
  

  • 自分自身についての私のイメージは次のような質問への回答を与えてくれる:私はあなたが私を信頼できると感じていると感じているか? あるいは容易に搾取できるやつだと感じていると感じているか? 原理的には私のあなたについての2人称イメージには,あなたの私の2人称イメージについてのシミュレーションについての私のシミュレーションが含まれている(第3レベル再帰).
  • このあなたのイメージはさらに深い次のような質問への回答を与えてくれる:私はあなたが私があなたを信頼できると感じていると感じていると感じているか? このような高次の質問を考察することが困難になってくるということは,私がこのような再帰性について認知的な限界を持っていることを示唆している.そしてそれは深い内省的な自分自身への自覚が大した適応価を与えていないことからくるのだろう.あるいはあなたはこのような認知が簡単にできるのかもしれない.しかしそれは私があなたを部分的に理解できないことを意味するのだ.

 
ヒトの高次の志向性が5次か6次ぐらいの制約付き(個人差があるといわれている)であることはよく知られている.たとえば小説家や脚本家が読者の一歩先を行くためにはより高次の志向性があるほうが有利ということは考えられるだろう.何れにせよ進化環境では5次以上のややこしい心の読み合いはそれ程適応度を高めなかったというのがヘイグの考えになる.これは再帰的反響にネガティブフィードバックがかかっていることも背景にあるのだろう.
 

  • あなたが私の2人称イメージを持ち,それが私たちの相互作用に影響するという事実は,私にそのようなイメージをマネージするインセンティブを与える.その結果私の1人称セルフイメージは,あなたに知らせたい投影セルフイメージとあなたに知られたくないプライベートセルフイメージに分けて管理されるべきことになる.さらにその結果,私のあなたについての2人称イメージには,あなたが隠そうとしているあなたについてのプライベートイメージの推測が含まれることになる.おそらく私は,あなたに知られないために,ある種の考えや感情を自分自身にも隠してプライベートセルフに含まれないようにしようとしている.(トリヴァースの引用)そしておそらく,ある種の状況下では,私たちは相互に動機を隠し合い,それが相互の利益になっているのだ.

 
そして単なる再帰的反響だけでなく,相手ごとに異なるセルフイメージを持ったほうが有利であるという事情はさらに複雑性を付与するということになる.しかし異なるセルフイメージを上手に運用する認知的な能力のコストはきわめて大きく,そこにはトレードオフがあるだろう.
 

  • 私たちは異なる相手には異なるプライベートセルフを投影している.母には母向けの,配偶者には配偶者向けの,そして潜在的にはすべての人に対してそれぞれ向けのセルフを投影するのが望ましい.実際にはその他大勢向けの公開セルフを作って相互作用するほとんどの人に対して呈示する.これは異なるプライベートセルフを作ってそれをうまく運営するという認知負荷やそのような操作が第3者にばれるリスクを軽減する.プライベートセルフと公開セルフの差が大きいほど露見リスクは高まり,反射セルフから得るメリットは減る.誠実性は慎重さから来るのだ.

 
このような有利に立ち回るのは認知的なコストだけではなく,露見リスク(それによりあなたの名声は地に落ちる)もかかってくる.そしてコストやリスクを避けるには正直で誠実であることが重要になるというわけだ.しかし全くの正直が一番有利かどうかは状況によるだろう.そこにはメリットとリスクのトレードオフがあり,誠実であることと,真実でなく美化されたセルフイメージを公開し,自己欺瞞的にそれを信じる(そしてもしかしたらそのセルフイメージにそって自分自身が変わっていけるかもしれない)ことの中間のどこか(そしておそらく多くの場合には誠実に近いところ)に状況に応じた最適点があるのだろう.