Animal Behavior 11th edition Chapter 14 その17

Animal Behavior

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第14章 ヒトの行動 その17

 
ヒトについての行動生態学の実践的応用としての進化医学.肥満に続いてもう一つの例として自閉症が取り上げられている.

 

自閉症
  • 進化的なアプローチが多大な利益をもたらしているもう1つの分野に自閉症の研究がある.自閉症,あるいは自閉症スペクトラム障害は,様々な社会的スキルや言語的非言語的コミュニケーションの不全で特徴付けられる.CDCのレポートによるとアメリカでは子どもの1/45が自閉症の症状を持つ.
  • 自閉症のコアは互恵的な社会的相互作用を行う能力の欠如にある.
  • 毎年自閉症のリサーチに何百万ドルも使われているのにもかかわらず科学者たちはこの障害について理解できていない.一部の学者は似たような行動を見せる他の動物との比較をゲノミックアプローチを用いて調べている.例えばジーン・ロビンソンのチームはミツバチとの比較を行っている.彼等はミツバチの他個体との相互作用における個体差をゲノム的に分析し,ミツバチの社会的な反応性と関連する遺伝子とヒトの自閉症に関連する遺伝子にオーバーラップがあることを見つけ,これらの関連遺伝子は非常に古くから保存されているのではないかと示唆している.このリサーチは社会的反応性が自閉症と関わりのある重要な特徴であることを示唆している.そして重要なことは,この仕事が他の動物との比較がヒトの疾病や障害の医学的理解に役立つことがあることを示していることだろう.

 
ここでは自閉症の原因である可能性をもつ遺伝子群が古くからある社会的反応性にかかるものだということのみ述べられており,そのような不利になりそうなアレル群がなぜ淘汰されてなくならないのかという最も興味深い話題は取り上げられていない.また自閉症についてはなぜ男性の方がなりやすいのかという興味深い問題もある.
自閉症がなぜ淘汰されてなくならないのかについてはなお議論が続いていて,ゲノミックインプリンティングによる父由来遺伝子と母由来遺伝子のコンフリクトのなかで父由来遺伝子の発現が優勢になる場合に生じるという説,何らかのメリット(自閉症の場合には認知能力の向上が示唆されている)とつり合っているという説,進化は最適形質と分散最小化に向かっているがどうしても一定の分散が生じるために外れの1〜2%は症状を発現させてしまうという説などがあるようだ.
 
関連書籍
 
進化医学についての一般向け書籍としては古典.しかしいまだにこれが最も良い入門書だと思う.

 
同邦訳 
邦書として新しいのはこれ.より遺伝学的な視点が採られている.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/20140103/1388733722
  
より新しく,充実した本としてはこれ.残念ながら邦訳はない.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/20140806/1407278176
Evolution and Medicine

Evolution and Medicine

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進化精神医学についてはこれが詳しい.やはり邦訳はない.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/2019/06/16/083813
 
感染症について進化的解説の古典ともいうべきものはイーワルドのこの本になる.
Evolution of Infectious Disease

Evolution of Infectious Disease

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邦訳 
さらに慢性病と感染の関連を扱ったイーワルドの本