From Darwin to Derrida その93

 

第10章 同じと違い その2

 
ヘイグによる「相同とは何か」.オーウェンによる相同と相似の区別,そしていかにも難解な一般相同,特殊相同,連続相同という概念の区別に続き,オーウェンの思考の基礎にある「原型」が扱われる.
 

  • オーウェンの原型的プランは外形的形態と機能を支える.オーウェンは「On the Nature of Limbs」において「目的因は私たちが手に入れようとする果物だが,それは不毛で非生産的であり,私たちが真に求める調和の法則の理解には役立たない」と書いている.
  • 動物の身体の部分の「Bedeutung」,あるいは重要性は,その部分の本質的性質から説明されるものかもしれない.その本質的性質とは,どのようなサイズや形態の変化や機能の変化があろうとも本質として残るものだ.そしてそれは前もって方向づけられたパターンとの関係において存在し,プラトンの宇宙論にある原型世界(Archetypal World)のイデアに対応するものだ.そしてその原型世界では原型的根源的パターンがすべてのある器官を保持する動物における特定の力や行動のためのその器官の変形を支える.

Richard Owen On the Nature of Limbs(1849)

 
オーウェンの目的因をさげすむ態度は後のダーウィンの進化理論の否定にもつながるところだろう.ヘイグはオーウェンの「原型」はプラトンのイデアの直系の子孫であると指摘する.
 

  • オーウェンの原型は,アリストテレス的な形相因と質料因の組み合わせではなく,プラトンのイデアの末裔なのだ.そしてその器官形態の詳細は2次的な原因により形成される.
  • 脊椎動物の理想的体型の認識は,ヒトについての知識がヒトが現れるより前に存在していたということを証明している.原型をプランした神の意思はそのすべての修正を前もって知っているのだ.原型的イデアはさまざまな修正とともに地球上の動物身体に表現されており,そのような具体的表現のはるか昔に存在していた.そのような器官的表現の継承と修正の自然法則について,我々は無知だ.しかしもし,神の権威をおとしめることなく,我々がそのようなしもべの存在を知り,それを「自然」と名付けるなら,我々は過去の歴史から,地球がゆっくりと着実に進歩し,原型的光に導かれ,古い魚的な基礎から脊椎動物のイデアが具現化し,それがヒトの栄光に結びついているということを学ぶことができるだろう.

Richard Owen On the Nature of Limbs(1849)

 
このあたりはいかにも19世紀の議論であり,全知の神によるプラン,そして動物身体のイデアとしての「原型」が讚えられる.最後のフレーズは何となくダーウィンの「種の起源」の最終段落を想い起こさせる.あるいはダーウィンがあそこの部分を書いていたときにこのオーウェンの文章が意識の片隅にあったのだろうか.
 

  • ジェイムズ・マコッシュとジョージ・ディッキーは「創造の典型的形態と特別な目的(Typical Forms and Special Ends in Creation 1856)」のなかで,相同を目的因教義と結びつけた修正された自然神学のもとでtypos(タイプ)とtelos(目的)を和解させようと試みた.彼等は特殊適応についてだけでなく,秩序の細部や装飾についての神を認めた.
  • 我々は,機能的には不要だがシンメトリーのために必要な器官が,間違いなく植物に,そしておそらく動物にもあると認めたいと考えている.とはいえ我々は目的因の原則を弱めるものではない.そして我々が「より高い目的因」と呼ぶものについては,人類にインストラクションを与え,神の喜びのためにあるものだと認める.

 

  • (彼等のいう)秩序の目的因は,世界が知覚可能になっていることについてそれは人類が自然を利用するためだと説明する.同じく装飾の目的因は私たちの美的感覚を楽しませるためということになる.

 
何か(その時点で)解釈が難しい自然の有り様について,全知全能の神の意図をヒトへのインストラクションとして解釈するというのもいかにもダーウィン以前の神学的な議論だ.
 

  • マイルズ・バークレーは「植物に隠された暗号入門(Introduction to Cryptogamic Botany 1857)」において,ダーウィン以前に相似と相同がどう理解されていたかを描き出している.
  • 相似は不注意だったり無知だったりする観察者を偽りの関係性に誘惑する.しかし相同は非常に重要だ.それが真の相同であるとき,それは構造の深い知識を与え,至近的あるいは遠隔的な関係性を示す.
  • 相似は機能の類似であり,相同は構造あるいは起源の対応性だ.
  • 相同的な構造は本質と起源を示す.

 

  • ここで起源といっているのは個体発生的な起源のことだろう.

 
ここまでがダーウィン以前の相同の議論ということになる.ここからダーウィンが登場することになる.