From Darwin to Derrida その103

 

第10章 同じと違い その12

 
モジュール性と進化容易性についてのヘイグの考察.ソフトウエアデザインとしてみると,モジュール性にはソフトウエア作成効率という現在のゴールと,将来的な修正改善の効率とという将来のゴールがある.進化は分業を行わないので現在のゴール当てはまらない.では将来のゴールはどうか.進化には将来予見性はないのでここは特に問題になる.
 

モジュール性(Modularity)と進化容易性(Evolvability) その2

 
ヘイグはこのようなモジュール性(そしてそれがもたらす進化容易性)が淘汰産物として進化したがどうかについて,やや異なる視点からそれぞれ否定的な見解を提示する2つの論文を紹介している.
  

  • モジュール性と進化容易性はソフトウェアのデザイン的特徴だ.しかしそれは遺伝システムの進化した特徴なのだろうか? プログラマーは将来の問題を予想できるが,自然淘汰は予見性を持たない.
  • リンチは(「非適応的過程による遺伝ネットワークの進化」という論文で)「遺伝的回路の複雑性や冗長性やその他の特徴が自然淘汰によって促進されたということについては実証的証拠も理論的な根拠もない」と主張している.

 
www.nature.com

  

  • 一方カルコットは「それが進化したのであれエンジニアリングされたのであれ,複雑な統合システムには振る舞いを変えることがどれほど容易かにかかる構造的特徴を共有している」と主張する.

 
https://www.ieu.uzh.ch/wagner/papers/Calcott_BiologicalTheory_2015.pdf

 
リンチは証拠がないと真っ正面から否定している.カルコットはこの構造的特徴には適応とは異なる説明が必要だという趣旨のようだが,その議論はわかりにくい.ここからがヘイグによる考察になる.そしてまず概念の整理が重要だと指摘する.
 

  • リンチは進化容易性が進化したという適応主義者の主張を言い過ぎだと考えており,カルコットは進化容易性を適応とは異なるものと見ている.進化容易性にかかる進化的議論はしばしば意味論的に泥沼化するのだ.(ここでこの泥沼の様相にかかるニゴウスキーとマーフィの論文が参照されている)

 
https://www.researchgate.net/publication/346200170_Evolvabilitywww.researchgate.net
 

  • アルゴリズムがあるタスクを解決するために,デザインされたのではなく,進化したのであれば,その進化したアルゴリズムは「自然淘汰はモジュラー性を好む」というアイデアへの支持と不支持をともに示すだろう.単一のタスクであればモジュール性を持たないアルゴリズムの方が高性能だろう.モジュール性を持つと壊れる可能性のある連結部分が生じるからだ.片方で,複数のタスクが規則的に入れ替わるようならモジュール性を持つアルゴリズムが進化するだろう.(ここでカシュタンとアロンの論文が参照されている)

 
www.semanticscholar.org

 
つまりモジュール性(そして進化容易性)が進化するかどうかはどのようなタスクが有利な淘汰環境にあるかに依存するということだ.そしてある種の淘汰環境ではモジュール性が適応として進化しうるというのがヘイグの立場になる.