From Darwin to Derrida その114

 
 

第11章 正しき理由のために戦う その8

 

形相因と情報 その3

 
ヘイグによる表現型と遺伝型の再帰的な因果の説明.情報と意味の違い,そして意味は情報の解釈から生まれ,解釈者の目的により意味が異なりうることを指摘した.ここでいったん整理に入る.
 

  • ここでいったん止まろう.ある1つのものは,それがそうであったかもしれないものと何かしら異なるときに,「情報」を持つ.2つのものは,観察者があるものを観察したときに別のものについて何か知ることができるなら,互いに相手の情報を持つことになる(contain mutual information).これは対称的な関係だ. 
  • そして「効果の観察が原因への推論に影響するなら,効果はその原因を表す」というのは非対称的な関係になる.つまり「Yiがそれらの相互的な情報に因果的に関連する範囲で,XiはYiを表す」ということだ.

 
ここは難解だ.あるいは相関関係と因果関係のことをいっているのかもしれない.
ここから「目的」が登場する.
 

  • 「そうであったかもしれないものと何かしら異なる」ことが解釈者によってある目的を達成するために利用されたときに,あるものは解釈者にとって意味を持つ.「解釈」とは解釈者による情報の表現なのだ.
  • 1つの解釈はテキストになり,別の解釈者によりさらに解釈されることもある.その解釈がもとの形式に戻るなら,解釈の連鎖は再帰的になる.XとYがタイプの違いを表すとしてXiがYiを表し,YiがXi-1を表す状況を考えよう.すると複製とは信頼性が高く精度のよい解釈ということになる.複製者のテキストは解釈そのものになる.

 
そして解釈は解釈者の目的により意味を持ち,テキスト化され.別の解釈者の手を経て再帰的になりうる.そしてそれは生物のDNA,RNA,タンパク質に普遍的にみられる.
 

  • 生物は信頼性の高い相互表現に満ちあふれている.二重らせんのそれぞれの鎖は他の鎖を表している.mRNAは転写元のDNAを表し,DNAはmRNAを表している.タンパク質は翻訳元のmRNAを表し,mRNAはタンパク質を表している.DNAはタンパク質を表し,タンパク質はDNAを表す.延長された表現型は遺伝型を表し,遺伝型は延長された表現型を表す.すべては過去の環境下で働いたものを表している.自然淘汰は過去の環境と細胞内のプロセスの間の複雑な因果的依存性を作り出すのだ.

 
というわけで生物界には複雑な階層性の中にある様々な心を持たない解釈者による「意味」があふれていることになる.
 

  • 心を持たない解釈者たちが,他の心を持たない解釈者たちの分子的なメタファーを再解釈することの累積により,生命は意味あるものになる.RNAポリメラーゼはDNAをRNAとして転写する.tRNAはコドンをアミノ酸の配置場所として解釈する.リボソームはRNAの散文をタンパク質の詩文として解釈する.高いレベルの解釈者たちは,無数の下位レベルの解釈者たちの活動に依存している.ランゲルハンス島の細胞は血液内のブドウ糖や他の入力を統合してインシュリンを制御する.脂肪細胞,筋肉細胞,肝臓細胞は,それぞれインシュリンレベルを様々な目的に沿って解釈する.ニューロンは筋肉からの信号に反応し,筋肉はニューロンからの信号に反応する.脳は社会関係を理解する.あなたはこの文章を読む.生命体とは環境文脈の中で遺伝的テキストを扱う自己構築された解釈者なのだ.
  • 環境は表現型を選び,それにより,その選択を表現し,かつ環境の選択基準に関する情報を体現する遺伝子を選ぶ.これらの選択の観察は,どの遺伝子が将来世代に受け継がれるかについての全能の観察者の不確かさを減少させるだろう.環境による選択は意図されたものではない.しかしその効果のために繰り返されるアクションは,意図されたものということになる.環境による選択はそれ自体がメッセージではない.しかしその選択を表現する遺伝子はコピーされ,次世代にメッセージを伝える.生命体,そしてその下位レベルのパーツは,それらのテキストの送信者であり解釈者なのだ.

 
一段ずつ繰り返し説かれることでこのヘイグ解釈はかなり説得的に聞こえる.このあたりはデネットによる意識の説明にも似たところがあるように感じられるところだ.