From Darwin to Derrida その148

 

第12章 意味をなすこと(Making Sense) その13

 
ヘイグによる意味と解釈の話.いかにも興味深いツインメルマン電報の逸話が紹介され,ここからヘイグの解説になる.
 

意図を電信する その2

  

  • ツインメルマン電文は多くのメディア(媒体)に多くのテキストとして流れ,あるメディアから別のメディアに転載されるたびに解釈が生じた.「メッセージ」は時にドイツ語文,時にコード7500暗号文,時にコード13040暗号文,時にモールス信号,時にスペイン語,時に英語だった.ベルリン,コペンハーゲン,ロンドン,ワシントン,メキシコシティの電信局の職員にとってのテキストの意味は,単純に短点と長点の連なりから数字やアルファベットへのメカニカルな置き換えであったり,その逆であったりした.彼等は全てのテキストをメカニカルに扱うために雇われていたのであり,暗号化されたテキストを解読する文脈を持っていなかった.暗号化された電文には多くの情報量が盛り込まれていたが,従業員は解読キーを持っていなかったので彼等に感知しうる意味はなかったのだ.
  • ワシントンのドイツ大使館のスタッフが電文から得た情報量はずっと少ない.なぜならスタッフは(コード7500についての知識があり,どのような内容かについての)期待を多く持っていたからだ.しかし大使館スタッフが得た意味はずっと大きい.それは彼等が7500のコードブックを持ちドイツ語文に復号できるからだ.スタッフはドイツ語ができるので電文の中身についてのメンタル解釈(記憶)を持つことができ,その後暗号電文が傍受解読されたかどうかの吟味に使えることになる.

 
この情報量が少ないというのはシャノンの情報量の定義によるものということになる.大使館スタッフはそれがメキシコへの外交文書であるなら,どのようなメッセージがありうるかについて大きく絞り込むことができ,電文が減らした不確実性はそれほど大きくないから,得られた情報量は少ないということになる.
 

  • ここでカランサメキシコ大統領へのメッセージのコミュニケーションを考えよう.ドイツ大使エッカルトはドイツ語の文書を持参し,スペイン語で大統領と交渉した.エッカルトのインクの染みのドイツ語文への解釈から口語スペイン語音声に至る変換には複雑な複数のレベルの神経的テキスト段階も含まれており,さらにカランサはその音声を脳で解釈して様々な神経的テキストレベルを作り出す.それがインクの染みだろうが,神経活動だろうが空気の振動だろうがその全てのレベルで変わり続ける意味は解釈者による物理的テキスト以上のものではない.

 
神経レベルの電位情報も1つのテキストというのはなかなか面白い解釈だ.決して定着せずに次々に変化していくが,その動的な振る舞いも含めてテキストとみなせるということだろう.
 

  • 情報はものにあるのではなく,解釈者の不確かさの減少にある.すでに知っていることは情報ではないのだ.アメリカ情報当局がワシントンから打たれた外交電文のコピーを持っていたなら,英国情報部からもたらされたメキシコの電文には情報はない.真の情報は英国が解読したドイツ語文,それを翻訳した英文にある.これらが偽情報かもしれないというアメリカの不確かさはツインメルマンが実際にこの電文を打ったこと,解読が正確であることを公式に認めたときに解消された.

 
ヘイグは逸話の部分で語っていないが,アメリカでこのツインメルマン電報が公表された後,ドイツはそれは偽物だと否定することもできた(実際にアメリカの非参戦派はそれを偽電だと非難していた)が,ツインメルマンはそれを真実だと認めることを選んだ.これを認めて,アメリカが非参戦を貫けばメキシコとのトラブルに巻き込まれないことを重要視することを期待したらしい.
 

  • 暗号化されたツインメルマン電文は意図されてない相手に解読されないように意図されていた.だからドイツはそれをアメリカ大使館のルートを使って送信したのだ.コードブックは意図された解読者のみが解読できるためのプライベートキーだった.英国情報部はこのキーなしで解読できる方法を探り当てたのだ.コードグループに存在する意図せざる情報(似たような単語は似たようなコードとなる)が英国情報部に自分自身のコードキーを構築し暗号を解読する端緒となった.英国情報部のタスクは意図せざる違いによって容易になった.ドイツはナンバーコードを利用し,アメリカはアルファベットコードを利用していた.アメリカの外交ルートの電文群の中でドイツの暗号電文ははっきり目立つものだったのだ
  • ここで述べたツインメルマン電報の話はフリードマンとメンデルソン(1994),ガゼン(2006),フリーマン(2006),ボガード(2012)によっている.私の再構成は意図的に隠された情報や意図せずに欠落した歴史によって困難だった.あるいは情報を誤解釈し,意図せずにあなたを誤誘導したかもしれない.それでも,もし私の書いたことのあなたの解釈がおおむね私が私のテキストをあなたに解釈してもらおうとした意図通りであれば,私の言葉は目的を果たすだろう.

 
ヘイグがあげている参考文献のうち2つは書籍で,残り2つが論文になる.これは向こうでは結構興味深い出来事としてポピュラーなものなのかもしれない・

https://cosec.bit.uni-bonn.de/fileadmin/user_upload/publications/pubs/gat07a.pdf
www.yumpu.com