訳書情報 「人はどこまで合理的か」

  
 
以前私が書評したスティーヴン・ピンカーの「Rationality」が邦訳出版された.本書はピンカーがハーバードの学部生向けに行った講義がもとになっており,合理性とは何か,しばしばヒトの行動に合理性が乏しいように感じられるのはなぜか,合理性はなぜ重要かを説くものだ.*1
本書の中心になっているのは最初の「合理性とは何か」という部分になる.そこでは合理性を「どのように思考・行動すべきか」についての規範モデルと捉え,それを追求することに失敗する状況,この規範モデルの正当化が可能か,規範としての優先性をまず論じ,そこから具体的な合理性の中身として,演繹的論理,確率・統計,合理的選択と期待効用,統計的意思決定,ゲーム理論,因果と相関が採り上げられている.このあたりはいかにも学部生向けの講義らしく本質を捉えた充実した内容にまとまっている.
そして最後の2章で,なぜヒトはしばしば合理的に振る舞えないのか(様々な動機やバイアスがまとめられている),しかしそれに打ち勝って合理性を追求することがいかに重要か(合理性は人類社会の繁栄と道徳性の向上をこれまでもたらしてきたし,バイアスに打ち勝って合理性を追求することによりそれを継続できる)が論じられる.
原書出版から1年以内に邦訳出版され,電子版と同時発売となっており*2,この点については出版社の努力を評価したい.深く啓発的な内容でありながらわかりやすく書かれており読みやすい.多くの人に読まれることを期待したい.
 
原書に対する私の書評
shorebird.hatenablog.com


原書

*1:そういう意味では邦題には不満が残るものだ,なぜこのような書物の内容の極く一部を取りだしたような邦題をつけるのだろうか.商業的な理由ということなのだろうが,煽り文句になっているようにも思えないし,煽って売れるような本でもないと思う.

*2:残念ながら上下合本版は出されていない.検索を考えると是非合本版を出してほしいところだ