From Darwin to Derrida その164

 
 

第13章 意味の起源について その3

 
意味の起源について.ヘイグは議論の前にRNAが触媒かつ複製子である状況を詳しく解説する.RNA配列の一部(アプタマー)がリガンドの結合するときに,触媒として化学反応を促進する場合はリボザイムと呼ばれ,結合により遺伝子発現を制御する場合にはリボスイッチと呼ばれる.ヘイグによるとリボザイムは単に「行動者」だが,リボスイッチは遺伝子発現の制御を行うために自然淘汰を浮けており,「解釈者」であるということになる.
 

リボザイムとリボスイッチ その2

 

  • 今日のリボスイッチはmRNAのノンコーディング領域にあり,mRNAが酵素として翻訳されるかどうかをコントロールしている.グルコサミン6リン酸(GlcN6P)はバクテリアの細胞膜の構築の基質だ.その合成はGlmS酵素により触媒され,この酵素はglmS mRNAによりコーディングされる.glmS mRNAの上流の翻訳されない領域にはGlcN6Pと結合するアプタマーがある.このアプタマーは,GlcN6Pと結合するとそのmRNAを近隣サイトで切断し,GlmS酵素ヘの翻訳を阻害する.つまりglmSリボスイッチはネガティブフィードバック型のコントロールを行っているのだ.GlmS酵素はGlcN6Pがなければ翻訳され,あれば翻訳されない.

 
なかなか細かな分子生物学の記述だが,要するにmRNAのノンコーディング領域にそのRNAがコードする遺伝子の生成物を感知して翻訳を抑制させる機能があると,それにより生成物の生産についてネガティブフィードバックがかかるということになる.これは確かに自然淘汰の対象となるだろう.
 

  • このglmSリボスイッチの単純な概念化によると,1ビットの分子情報の違いが,活性の自由を1つ上げることになる.GlcN6Pがあるかないかが酵素GlmSが生産されるかどうかを決める.しかし実際にBacillus subtilisにあるリボスイッチはより巧妙に働く.そのアプタマーはGlcN6Pかグルコース6リン酸(G6P)のどちらかに結びつくが,翻訳の抑制はGlcN6Pに結びついたときのみ生じる.これはG6PがGlcN6P合成の基質になっていることによる.これによりGlcN6PとG6Pとのアプタマーとの結びつき競争が,リボスイッチ集団を基質の比率に対して敏感にする.GlmSの生産はその生成物が豊富にあり基質があまりないときに抑制される.

 
そしてその詳細は単純ではない.単なるネガティブフィードバックではなく,当該アプタマーは生成物合成の基質とも結びつき,2種類のリガンドのどちらと結合するかの競争が生じる.これよりネガティブフィードバックに「ただし基質が豊富にある場合には抑制する必要がない」というロジックを組み込むことが可能になっているというわけだ.これもまさに自然淘汰産物と呼ぶにふさわしい.なおこれに関する論文が2つ参照されている.
 
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
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