第1章 歴史的起源 その8
オーグレンの遺伝子視点の起源の解説.その基礎の1つ適応主義の説明.ペイリーの自然神学が英国の生物学者に与えた影響.ダーウィン,フィッシャー,ウィン=エドワーズに続いてメイナード=スミス,ドーキンスが解説された.
1.2 適応主義と自然神学の遺産 その6
1-2-2 英国におけるネオペイリアン生物学 その5
- ルーウェンスが指摘するように,ペイリーのレトリックは今日の英国進化生物学にも残っている.最も良い例は理論家のアンディ・ガードナーとアラン・グラフェンだ.
ルーウェンスは「ネオペイリアン」という語の発案者としてちらっと登場した哲学者.ここで参照されている指摘とは科学哲学者テイム・ルーウェンスによる「Neo-Paleyan biology」という論文のことになる.ここではダーウィンから始まり,現代に至るまで英国の進化生物学者がペイリーの影響を受けていることが主張されているようだ.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31324581/
- ガードナーは2009年の論文「生物デザインとしての適応」において,ペイリーの貢献を認めた上でこう書いている:「適応の問題は,生物にみられる明らかなデザインを説明することだ.ダーウィンはこの問題を自然淘汰の理論を使って解決した」.同様にグラフェンは「適応は生物学の中心だ.適応はデザインだ.そして生物は適応度を最大化するようにデザインされている」と書いている.両者とも「デザイン」という言葉を躊躇なく使い,適応とは何かを知るために不可欠なものだと扱っている.(この「デザイン原理が進化生物学に必要か」という問題は包括適応度をめぐる現在の論争とも関連する.これは第4章で扱う)
アンディ・ガードナーはハミルトンの流れを汲む包括適応度理論家の1人.ここで参照されているのは適応主義のところでも引用されていた「Adaptation as organism design」という論文になる
pmc.ncbi.nlm.nih.gov
グラフェンもハミルトンの流れを汲む包括適応度理論家の1人.ここで参照されているのは「The formal Darwinism project:」という論文だ.この論文では,進化理論の定式化プロジェクトの推進について説明されており,自然淘汰理論を数学的に定式化し,生物学者と数学者の溝を埋め,デザインと適応的設計,適応的複雑さの問題を取り扱うことが重要だと主張されているようだ
The formal Darwinism project: a mid‐term report - GRAFEN - 2007 - Journal of Evolutionary Biology - Wiley Online Library
- ここまで述べた(英国vs大陸欧州とアメリカの)一般化には明確な例外が存在する.それはアメリカ人であるジョージ・ウィリアムズだ.著書「適応と自然淘汰」において,彼は適応を「特別で難しい概念であり,不必要な場合に使用すべきではなく,明確にデザインによるもので偶然の結果でないことがはっきりしてなければその効果を機能と呼ぶべきでない」と主張し,この本を「適応概念をいい加減に使うことへの攻撃」のための本だとしている.
- ウィリアムズは,メイナード=スミスやドーキンスと同じく,適応を特別な問題だと考えていた.彼はこの本や後の「自然淘汰:ドメイン,レベル,チャレンジ」においてペイリーについて何度も言及している(詳しく紹介がある).
ウィリアムズの「適応と自然淘汰」は最近ようやく訳出されたが.「自然淘汰:ドメイン,レベル,チャレンジ」は(私の知る限り)邦訳はない.
確かにこれまでの英国適応主義と,大陸欧州の定向性への傾向,アメリカの偶然主義という括りからは,ウィリアムズは注目すべき例外ということになる.もっともそれ以降のアメリカの進化生物学者には適応主義的である人も多いので,1970年代までの期間においてはという印象ではある.
- まとめると,遺伝子視点は,自然神学,特にペイリー,その適応的複雑さ,生物世界におけるデザインの存在が解決すべき問題だという見方に多くを負っているのだ.
遺伝子視点の基礎としての適応主義,それについての自然神学の影響についてはここまでとなる.次に取り扱われるのは集団遺伝学だ.



