
Inside Jokes: Using Humor to Reverse-Engineer the Mind (The MIT Press)
- 作者: Matthew M. Hurley,Daniel C. Dennett,Reginald B. Adams Jr.
- 出版社/メーカー: The MIT Press
- 発売日: 2011/03/04
- メディア: ハードカバー
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第8章 ユーモアと喜び
参照ジョーク
- 理髪店で「旦那,どんな風にいたしやしょう」と聞かれた客「静かにな」
本章ではハーレーたちは,自らのユーモアの究極因にかかる仮説,アクティブ信念の誤り検知・報酬メカニズムから直接導かれるプロトタイプのユーモアを概観する.このプロトタイプのユーモアに対し,個人的才能や文化進化が深さと洗練をもたらしたというのがユーモアの全体像ということになる.その前に自分たちのユーモア理論をさらに細かく解説する.
A メンタルスペースの汚染
実時間内での世界に理解のためのヒューリスティックサーチは大量のエラーのリスクを持っている.
そこでこの誤りを検知することが問題になる.
ハーレーたちの議論の面白いところは,この検知は無意識の自動的な作業ではできないと考えるところだ.それはバグ探しはメンタルスペース内でアクティブ信念の形にして行う必要があるからだ.そしてこれはリソースと時間を使う掃除仕事であり,報酬が必要だということになる.だからユーモアは楽しいのだ.
さらにこの仮説によると「何らかの無意識にコミットされたアクティブ信念について誤りであることが発見された」ことがユーモアの喜びの必要条件になるはずだということになる.
B 認識感情の中の喜び:マイクロダイナミズム
ハーレーたちはここで「ユーモアの喜び」と似ている「洞察の喜び」について触れている.
ハーレーたちはこの「洞察の喜び」は発見の喜びであり,パズルの解の発見などで得られるものだとし,別々の喜びは別々の行動への報酬であるだろうとしている.(例として砂糖への好みと塩味への好みがあげられていて面白い)
ハーレーたちの整理
- ユーモアの喜び:無意識に入り込みコミットしたことが誤りだと発見
- 洞察の喜び:意味内容が新しい概念を生み出す,何かを理解(なぞなぞ,パズル,新しい情報の獲得)
そしてよいジョークには両方が含まれる場合があるとしている.例えばなぞなぞの形式をとるものや隠れた前提がキーになっているジョークなどだ.
またハーレーたちはここで何故ヒトだけがユーモアを持つのかという問題も扱っている.突然現れる話題で唐突感もあるが,ここしかないということなのだろうか.
ハーレーたちの議論は,最近の知見によるとヒトとチンパンジーの脳は従前考えられていたよりも構造的に異なっているのだが,これはハードの違いとみることができる.そしてハードとソフトは共進化するはずで,ヒトとチンパンジーの脳は,再帰的な心の理論と言語によりかなり異なるソフトを持つようになったのだろうというものだ.この2つが,現実と反したり仮想的な数多くの短期的メンタルスペースを作りあげることを必要とし,そのための誤りチェックのための報酬がヒトだけに進化したというシナリオだ.そして脳の構造的な差よりもソフトの差の方が大きいのだろうと指摘し,これをシボレーの脳にマセラッティのソフトが乗っていると表現している.
C 汚れ仕事の報酬
ここではこれまでの議論の復習を行っている.
そして本来は脳神経的なメカニズムと,ユーモアの現象学の統一的な説明が望ましいのだが,現段階ではそこまではできないとコメントしている.ユーモアだけでなく,脳神経的なメカニズムと認知的な現象の結びつきは,まだまだわからないことの多い遙かなる課題ということだろう.