本書は進化心理学者である中西大輔による進化心理学の教科書になる.大学の授業用の講義ノートに加筆修正を加えて書き上げられたもので,1章が1回分(90分)の講義に相当する(全15コマのうち復習・総括分の2コマを除いて13章となっている)形になっている.これまで日本語で出版された進化心理学の入門書,教科書の中では最もボリュームがあり,内容的にも充実している.
第1章 進化心理学とは何か?
第1章は導入章.ここは進化心理学の特徴として,(ほかの心理学分野とは異なり)自然淘汰による進化理論を基盤(メタ理論)として持つことが強調されている.そして他の心理学と共通な特徴として機能主義(特定の心理状態を規定するのはその内部構造ではなく機能であると考える),行動主義(測定可能な対象のみを研究する*1.行動主義をとる場合,ヒトもヒト以外の動物も機械も区別できないことになる)があることが指摘される*2.
次に進化心理学の誕生の経緯と意義が説明される.意義としては,進化理論をメタ理論として持つことにより,他の心理学分野では説明が循環論*3になりがちだが,進化心理学ではそうならないことが指摘されている.進化心理学ではヒトの行動をヒト以外の動物のそれと連続体として捉え,より単純で節約された低次の尺度の説明を試みる.そして進化心理学は,自然淘汰というメタ理論から,ヒトの行動を適応とという観点からリバースエンジニアリングし,適応上の課題を解決する機能を解明するという特徴を持つことになる.ここでは,適応課題,領域固有性,トレードオフについても解説がある.
続いてティンバーゲンの4つのなぜが解説され*4,進化心理学ではこのうち生存価値(究極因)と系統進化要因に着目することが指摘される.また進化心理学に対立するものとして,キリスト教のローマ教皇の回勅(進化論を単なる仮説以上のものと認めるが,人間の魂については神の創造によるものとする),トゥービイとコスミデスが指摘した標準社会科学モデル(その代表としての文化相対主義*5)が挙げられて解説されている.また関連して,進化心理学も研究の進展に伴って文化の重要性を認めてより統合的に扱うようになっていることにも触れられている.
第2章 進化及び遺伝子の概念
第2章は初学者に向けての進化や遺伝子についての概説章.
進化とは何か,自然淘汰のしくみ,自然淘汰が働いていることの証拠,表現型と遺伝子型,遺伝についての学説史*6,適応度*7,ハーディ=ワインベルグ平衡,分子進化の中立説,進化についてのよくある誤解,至近要因と究極要因の違い,自然主義的誤謬と道徳主義的誤謬が解説されている.
第3章 利己的遺伝子
第3章は行動生態学の基本概念の概説章.
ドーキンスの利己的な遺伝子概念とレプリケータとヴィークルの区別,遺伝子の実体としてのDNA配列と継承のしくみ,戦略と利益,トレードオフ,個体はレプリケータでなくヴィークルであること,グループがヴィークルたりうるかという問題と(ナイーブ)グループ淘汰の誤謬,マルチレベル淘汰,ゲーム理論とナッシュ均衡,進化ゲーム理論とESS,ナッシュ均衡とESSの関係*8,進化ゲームの例としてのタカハトゲームが解説されている.
第4章 ヒトの進化
第4章はヒトの進化の概説章
「チンパンジーが進化したらヒトになる」という誤解および進化の梯子型モデルと分岐型モデルなどを扱ったあと,ホモ・サピエンスの多地域起源説とアフリカ起源説,霊長類の特徴,生活史戦略*9,類人猿の特徴と系統樹,ホモ属以前の人類,ホモ属人類*10が簡単に解説されている.
第5章 性と進化(1):性淘汰の理論
第5章は基本的に性淘汰の概説章だが,ところどころにヒトについてのトピックが扱われている.
ここはまず学説史が詳しく,ダーウィンの考察,メスの選り好みについてのマイヴァートの批判が解説されている.そこから父性の不確実性,性的二型,ランナウェイ仮説,優良遺伝子仮説とコストリーシグナル,ハンディキャップ理論,性的対立が解説される*11.ここで一旦トリヴァースの親の投資理論が挟まれ,最後にヒトの潜在的繁殖率*12,排卵隠蔽*13,精子競争が扱われている.
第6章 性と進化(2):人間の性行動
第6章以降は進化心理学のトピックが解説の中心となっている(第8章では利他性の進化についての基礎的な解説もある).第6章はヒトの性行動の解説章.
まずヒトの配偶システム(一夫多妻が認められる社会が多いが,そのような社会でも実体的には一夫一妻が中心であること.経済条件との関連,なぜ一妻多夫が稀なのか,男女がそれぞれどのようなシステムを望む傾向があるのか,データから見るとヒトの配偶システムは一夫一妻と一夫多妻の間ぐらいと推定できることなどが解説されている)が取り扱われ,続いて性差が解説される.
まずヒトの配偶システムが完全な一夫一妻でないことから男性間の方が配偶相手をめぐる競争が激しいことになり,そこから類人猿とヒトで見られる相対的な精巣の大きさの種間差の議論がまずあり,次にヒトのペニスの形状についての議論が紹介される*14.またエラーマネジメント理論からは男性の方が相手の好意を勘違いしやすい傾向をもつことが予想されること,それを確かめた実験が紹介される.
続いてバスによる配偶者選好の性差についての議論,およびその検証結果,さらに議論をまとめた「性戦略理論」が詳しく紹介される.またここではその後の追試の状況も詳しく解説がある*15.バスの議論は基本的におおむね追試が成功しており,進化心理学における成功例の1つと考えられると指摘がある.
次にシンによる有名なWHR研究が,この研究に対する批判(特に文化の影響の扱いが雑かもしれない点,理論的になぜWHR0.7が選好されるかが明らかではない点が指摘されている)があることも含めて詳しく説明されている.ここではボヴェによるレビュー論文の結論「この仮説についてはそれを支持する理論的実証的な裏付けはあるが,論文の多くは理論的枠組みを適切に展開していない.いくつかの興味深い代替仮説が見落とされている一方,人気のある仮説についてはより強力な理論的経験的な支持証拠が必要だ」が引かれ,これは進化心理学の仮説の脆さを批判する内容として読むことが出来るとコメントされている.
第7章 感情の進化
第7章のテーマは感情.
冒頭で本書では,主観的情感(feeling),情動(emotion),気分(mood),アフェクト(affect)すべてを含む概念として「感情」を扱うと断りがある.そこからそもそも感情をどう捉えるかという問題に入り,「心理学における感情研究の4つの視点」としてダーウィン説(進化産物で.他の哺乳類との類似があるだろうと考える),ジェームズ説(身体的変化の体験と捉える),認知説(認知的思考が感情の世紀に必要と考える),社会的構築主義説(文化の所産と考える)があり,本書ではダーウィン説に立って説明すると宣言される.
ここからダーウィンの「ヒトと動物の感情表出について」の議論がまず紹介され*16,続いて有名なエクマンの感情のユニバーサル性についての研究*17,また日本における先駆的な業績として戸田正直のアージ理論が紹介されている*18.
ここから感情は適応的か,そして生得的かという問題が取り上げられる.セリグマンの準備性学習仮説,ジョンストンの快不快がそれをもたらした出来事の適応性と関連しているという主張がまず紹介され,そこからネガティブ感情の適応性の議論が解説される.ネシーの感情の進化的説明,特に不安症についての説明,ロバート・フランクの感情のコミットメントとしての機能の説明,配偶者防衛という観点からの嫉妬の説明とバスの浮気研究が紹介されている.
第8章 利他性の進化(1):血縁淘汰と互恵的利他主義
第8章と第9章で利他性の進化が扱われる.第8章は2者間の利他行動が扱われ,血縁淘汰と互恵性利他がテーマとなる.
冒頭でウエストたちによる利益と損失の観点からの利他性の定義が説明され,そこから双方損失となる「意地悪行動(spite)の進化が解説されるのがちょっと面白い*19.
ここから利他性の進化が解説される.まず血縁淘汰.血縁度,ハミルトン則,包括適応度理論が簡単に概説され,血縁認識とウェスターマーク効果*20,表現型マッチング*21が解説されている.
続いて直接互恵性.直接互恵性の成立条件,アクセルロッドたちによる繰り返し囚人ジレンマゲームを使った戦略選手権*22とそれが互恵性成立の進化シミュレーションと解釈できることが解説されている.
第9章 利他性の進化(2):大規模集団での利他行動
第9章は大規模集団での利他行動がテーマ.まず共有地の悲劇と社会的ジレンマが解説される.
ここから直接互恵性を念頭に置いた議論がかなり詳しく解説されている.相互作用が2者間で行われない場合,繰り返し囚人ジレンマで有効だったしっぺ返し戦略が(裏切り者に直接応報ができないため)機能しないこと,外側から直接応報することはそれ自体が利他行為となる(罰や報酬は公共財であることになる)ことが指摘される.中西は大規模社会での協力にとって重要なのは匿名性をどう処理するか(匿名性の高い相手は互恵的に振る舞うことが期待できない)ということであり,人類は様々な制度により匿名性と対峙してきたともいえるが,制度がいかに構築されてきたかを考えないとこれも問題の先送りになるとコメントしている.
そして確かに匿名性の高い相手からのお返しは期待できないのだが,それでも私たちは時に匿名の相手に親切に振る舞うことがある*23.では実際に私たちは匿名性の高い社会でどのようにこの問題に対処しているのだろうかが次の論点になり,大規模集団での利他性を説明する議論が次々に紹介される.
紹介される議論には,ナイーブグループ淘汰理論,社会心理学の社会的アイデンティティ理論*24,現実的葛藤理論,偏狭な互恵性理論,トリガー戦略理論,マルチレベル淘汰理論,マルチレベル淘汰理論で必要な条件を満たすことを説明する文化的グループ淘汰理論および強い互恵性の主張,などがあり,それぞれその問題点(ナイーブ淘汰の論理的誤謬,その他の理論の前提条件の不在,実証的証拠との不一致など)が指摘される.
そして最後に間接互恵性が解説される.パンチャネイサンとボイドによる社会的ジレンマと別の相互援助ゲームと連結させれば評判を利用した条件付き利他戦略により問題解決可能であることを示した数理モデルがまず紹介され,評判を利用するということはある程度閉鎖的な社会が前提になることが指摘され,山岸の安心社会と信頼社会の議論が解説され,開かれた社会での問題解決のためには相手を見極める能力と,最初にまず取引してみようとする一般的信頼が重要だとコメントされている.
第9章の叙述は一般的な利他性の進化の解説本とはかなり構成が異なっており,本書独自の視点からの議論が数多く展開されて,なかなか興味深いものになっている.
第10章 文化の成立基盤としての社会的学習
第10章と第11章で文化の問題が扱われる.第10章のテーマは文化進化になる.
まず文化の定義*25を扱い,そこからメスーディの文化進化の議論が紹介される.ポイントは「文化の内容それ自体ではなく,それが社会的に伝達されることの適応的な価値や進化的基盤を明らかにすることが重要である」という主張(これが文化進化研究と文化人類学研究の違いになる),文化伝達には情報の伝達能力と受信能力が必要になること,進化的に考える際にはコストも重要になることあたりになる.
そして具体的な文化伝達研究の4つの問い「何がコピーされやすいか」「誰がコピーされやすいか」「いつコピーされやすいか」「どのようなコピーされるか」,これらはミーム概念,伝達バイアス,環境変動や学習や教育のコストが伝達に与える影響と関連することが指摘される.続いて研究方法として伝達チェーン法,交代法,クローズドグループ法が解説されている.
ここから「不確実にしか情報を獲得できない環境における社会的学習の有利性」という問題が詳しく扱われる.まず文化的伝達(社会的学習)と遺伝的伝達の違い,文化の適応価についての注意点*26が紹介され,そこから環境変動が文化的伝達の有利性に与える影響*27についてのヘンリックとボイドのシミュレーションの結果(環境変動が非常に激しい場合には社会的学習より個人的学習が有利になる,そこまで激しくない場合には社会的学習が合理的になる.この場合頻度依存バイアスはかなり環境変動が激しくても高い値を保つ),これに個人的学習のコストの要素(社会的学習はフリーライドしていると扱う)を加味すればどうなるかについての亀田と中西のシミュレーションンの結果(コストをかけて個人学習するものとしないものが一定比率で均衡する.コストが高くなると個人学習の比率が下がり,得られる情報の価値が下がる)とその実験による検証が解説されている.
第11章 ヒトとヒト以外の動物の文化
第11章の前半は第10章の続き.前章で議論された頻度依存バイアス(多数派の判断を重視すること)の合理性(個人的学習によるエラーが低減される*28)についての説明がまずなされる.そしてこれまで社会心理学では多数派同調の非合理的な側面が強調されてきた(アッシュの実験が紹介されている)が,それは生態的な妥当性には注意を払っていなかった*29ことが指摘される*30.
続いて社会的学習が出来る社会と出来ない社会ではどちらが平均的適応度が高くなるかという問題に関するロジャーズのモデルの結論(出来る社会における社会的学習者と個人的学習者の平衡頻度は,個人的学習と同じ適応度が得られるところになる.つまり両方の社会の適応度に違いはない)が紹介され,これはヒトは文化を持ったから繁栄したのだという議論を否定するように見えることが指摘される.中西はこの点について,自らの研究を示し,ロジャーズモデルの前提「社会的学習可能社会の社会的学習者は社会的学習のみを行う」を「同社会の参加者は社会的学習も個人的学習も行ってみて両者を比較してどちらにするかを選ぶ」に変更すると社会的学習可能社会の方が平均適応度が高くなることを解説している.
第11章後半はヒト以外の動物の文化が取り扱われる.
まず文化の定義によっては動物にも文化があることになることが指摘され,そこからこれまで報告された様々な「動物の文化」の報告が紹介される.まずチンパンジー(グドールのシロアリ釣りの親子間の伝達観察,地域による文化の多様性),続いて宮崎県幸島のニホンザルのイモ洗い行動が取り上げられ*31,さらにハンドウイルカのカイメンを使った狩り,ザトウクジラのバブル・フィーディング,ラットの食物選好の社会的伝播,英国のカラ類の牛乳瓶の蓋開け行動などが解説されている.いずれもかなり詳しく扱っていて読んでいて面白い.
次に「動物にも文化があるか」についての様々な議論が解説されている.真の社会的学習と局所強調(他の個体の行動により,局所的な注意が促され,そこから個別学習が生じる)や社会的促進(他の個体の存在そのものにより個別学習が促進される)の区別の難しさが指摘され,主張者の学問的背景も影響すること*32がコメントされている.
最後にヒトにのみ累積的な文化進化現象があること,累積的文化進化にはイミテーション能力が必要でイミテーションとエミュレーションの区別が重要という主張,過剰模倣や教育の存在が重要という主張があるが,まだまだ研究の蓄積がなく今後の展開に期待すべきことが簡単に解説されている.
第10章,第11章の文化の議論は,中西自身の研究や興味のあるテーマが中心的に取り扱われ,あまり類書にないポイントが強調されていて,なかなか読みどころになっている.
第12章 脳の進化
第12章のテーマは脳の進化.
冒頭では脳の研究史が概説されている.ヒポクラテス,プラトン,アリストテレスから始まり,19世紀の骨相学*33,骨相学自体は否定されているが,その基本的な考え方である脳機能局在説はブロードマンの脳地図に受け継がれていることが解説されている.
続いて脳の解剖学的構造が解説され,マクリーンの三位一体説(脳はその進化的発達の段階ごとに爬虫類脳(反射),哺乳類脳(情動),新哺乳類脳(理性)という3層の構造を持っており,それが三位一体となって機能しているという考え方)は直感的には理解しやすいが,現在の進化学的理解とは整合的ではないことが指摘される.
ここから現在の進化学的理解から脳の進化が解説される.ゲアリー・マーカスの脳のバイアスについてのクルージ説,脳の大きな進化とカンブリア爆発との関係をめぐる諸説*34に触れたあと,ヒトの脳の巨大化と脳のエネルギーコストの問題が扱われる.大脳化指数(EQ*35)から見るとエレクトゥス段階から大きく増大していることが解説されている.
ここで話は心理学の行動主義に転じる.機能だけに注目する行動主義を貫くと,ヒトと動物,そして機械の間に本質的な違いがないことになることがまず指摘され,最新のAIはチューリングテストをクリアしていると思われる*36が,これは行動主義の勝利なのかをめぐる哲学的な議論が紹介される.ここでは,いずれにしても心理学が基本的に機能主義をとる以上,心理学者はこの問題を常に考え続ける必要があるとコメントされている.
その後話は脳の増大化のコストをどう説明するかという論点に戻り,ダンバーの社会脳仮説,それに対する懐疑論が紹介されている.
第13章 知能の進化
最終第13章は,第12章の議論(脳の増大化にはコストがかかるが,それに対する説明の1つが社会脳仮説になる)を受け継ぎ,そのように進化した脳がどのように機能しているのか,意思決定はどのように適応的なのかということがテーマになる.
冒頭でこれまでの意思決定の研究領域は「ヒトの認知や行動の非合理的側面」を強調してきたこと,しかし脳の増大が自然淘汰の結果ならそれは不思議であることがまず提示される.そしてこれに対する進化心理的説明が解説される.
まずヒトが確率判断がうまくできないこと(例として飛行機墜落のリスクを過大に見積もる傾向,ベイズ確率判断がうまくできないこと(事前確率の無視)が取り上げられている*37)について,頻度表現を用いればよりうまく推論でき,それはヒトは(進化環境では現在のような大量のデータは周りに無く,自分や一緒に暮らす者の観察という限られたデータしかなかったため)頻度情報を扱うように認知メカニズムを進化させてきたからだというコスミデスとトゥービイの議論が紹介される.
続いて行動経済学のプロスペクト理論とフレーミング効果が紹介され,行動経済学では観察された事実を記述しているだけで,なぜそうなっているかの説明にはなっていないことが指摘されたのち,「アジアの致死的伝染病ヘの対処問題」において,6000人や600人ではフレーミング効果が出るが,60人では消失することをダンバー数程度の集団で進化した社会脳から説明する王暁田の議論が紹介される.
さらに行動経済学で報告された様々なバイアスとヒューリスティックス*38が説明され,これについてのギガレンツァーたちの限定合理性の議論(進化環境ではすべての情報を入手したり.すべての代替選択肢を考慮できるわけではないので現実的には今ある手がかりから判断することに合理性がある場合が多い*39*40)が解説され,進化心理学は様々なヒューリスティックスを生態学的妥当性の観点から捉える学問だともいえるとコメントしている.
最後に4枚カード問題と裏切り者検知メカニズムについてのコスミデスとトゥービイの研究とその後の論争,心の理論とサリー・アン課題,ヒヒにおける戦術的騙しと複雑な群れという環境が簡単に解説されている.
以上が本書の概要になる.講義用の進化心理学の教科書として丁寧に書かれており,充実した一冊だ.私の感想をまとめておこう.
- 進化心理学は,その他の心理学の諸分野と異なり,基盤たるメタ理論(進化理論)を持っており,現象の説明が循環論にならないということが全体のテーマの1つになっており,冒頭で宣言されるとともにそれに沿った説明が各所にちりばめられていて,著述スタンスが一貫している.
- また心理学の機能主義と行動主義についてもこだわりがあり,各所で関連のトピックとともに解説されている.これも類書にはあまりない特徴になる.
- 講義が念頭にあるため,ところどころ著者の「ここはぜひ詳しく解説したい」というこだわりが深く現れている部分(学生を飽きさせないための工夫でもあるのだろう)があり,読み物としても大変面白いところがある.それは純粋に中西の興味本位の部分もあるだろうし,中西自身がいろいろ引っかかった部分(おそらく初学者も引っかかりやすいと思われる部分)もあるだろう.前者は読み物として興味深いものになっているし,後者は学習者にはありがたい部分になっている.
- リサーチ結果の紹介については,そのデータや検証手法について詳しい説明をおいていることが多い.これは再現性の危機を踏まえてという趣旨だろうが,中西の細部へのこだわりが生かされていて,読み物としても楽しい部分になる.再現性の危機に関しては,当初の報告だけでなく,その後の追試やメタ解析の結果などが各所で紹介されている.これも学習者にはありがたいところだ.
- 本書が持つ,他の日本語の教科書と大きく異なる特徴は,(中西が社会心理学出身ということもあり)心理学者目線の記述が多いところだ*41.私的には大変新鮮な部分が多く,勉強になった.これまでの教科書だけでよしとせずに,もう一冊読むに値するものだと思う.
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