Risk Intelligence: How to Live with Uncertainty (English Edition)
- 作者: Dylan Evans
- 出版社/メーカー: Free Press
- 発売日: 2012/04/17
- メディア: Kindle版
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リスクのマネジメントにおいて対処が難しい問題が「自分が知らないこと」についての無知だ.エヴァンズは最終章でこの問題を扱っている.
エヴァンズはまずこれについて2つの逸話を紹介している.
- 19世紀末,ケルビン卿は「物理学はほぼ完成の域に近づいた.地平にはわずかに2つの雲が見えるだけだ」と語った.2つの雲とは「エーテルが観測できないこと」「黒体放射のスペクトルが説明できないこと」だったが,その2つの雲は20世紀に古典物理学の根底を揺るがす相対性理論と量子論を生むことになった.
- ラムズフェルトは2002年にイラク政府と大量破壊兵器の関係を聞かれて,「世の中には,知っていることを知っていること(known knowns),無知であることを知っていること(known unknowns),がある.しかしさらに無知であること自体を知らないこと(unknown unknowns)もあるのだ」とコメントした.これは一部のメディアからは言語の濫用だと批判され,その年の「失言大賞」を受賞した.しかし一部の人々はこれには深い哲学的な含意があると評価され,本人も「Known and Unknown」を自伝のタイトルに使っている.
<Unknown Unknowns>
実際に自分が無知であること自体に気づいていなければ,それらの問題は「不意打ち」として現れることになる.エーテルの観測に失敗したマイケルソンは,そもそも問いかけるべき問い自体を知らなかったのだ.
ではどうすればいいのだろうか.エヴァンズは当然ながら.確実な方法はないとコメントしている.そしてそれは避けられないことなので,確率の見積もりをするときには常に胸に刻んでおかなければならないと指摘する.
- 多くの人は知っていることと知らない(ということを知っている)ことだけから確率を見積もる.
- しかし実際には「知らないことを知らないこともある」ということも考慮しなければ確率を正確には見積もれない.それは考慮すべき要因を見過ごしているという状態だとも言える.
- このような見過ごしは自信過剰に結びつきやすい
エヴァンズはまたいくつか具体例を挙げている.
- イアン・バンクスのSF 「Excession」における文明の文脈外の問題:宇宙そのものより古いと思われ,かつあらゆる探索を拒む謎の黒体が現れる.それは文明がただ一度のみ遭遇し,遭遇すればその文明は終わるものだった.(バンクスは,順調に発展した島の文明がある日ヨーロッパから来た黒船に遭遇するという例で「文明の文脈害」というコンセプトを説明している)
- ナシム・タリブのブラックスワンに書かれた「コクチョウの発見」例
- アントン・バビンスキー症候群(自分が盲目であることに気づいていない)
- ダニング・クルーガー効果:自分の弱点に気づかないために二重に不利になること(例:自分に社会性がないことに気づかない,そもそも社会性がないという評価自体ができない)
<Known Unknowns>
自分の無知を自覚するとKnown Unknownsになる.自分の弱点に気づいていると言っても良い,これはやり手のギャンブラーの共通点だとエヴァンズは指摘し,プロのギャンブラーへインタビューしたときの経験を語っている.
- 成功したプロのギャンブラーは皆自分の弱点についてよく自覚している.
- 彼等は賭けるべきでないときには賭けないのだ.(あるギャンブラーはバックギャモンにおいて,最初にわざとミスをして相手がそれにつけ込めるかどうかを見る.そしてつけこめる相手とはそれ以上勝負しないことにしているそうだ.)
- 彼等の多くは自分の勝ち負けを詳細に記録している.そして折に触れてそれをレビューするのだ.
無知の自覚より弱点の自覚の方が広い概念のような気もするところだが,いずれも勝負事に際しては重要なポイントだろう.
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