第2章 「利己的な遺伝子」の定義と洗練化 その24
概念整理を行う第2章.第2章最後のテーマ「自然淘汰の定式化」.
2-5 自然淘汰による進化の一般的な定式化 その6
階層の進化的起源,メイナード=スミスたちの進化の主要な移行がテーマとなり,オーグレンはまずメイナード=スミスとサトマーリの議論を紹介した.続いて学説史的な紹介がある.
2-5-2 主要な移行と淘汰のレベル論争 その2
- 「進化する階層」の出版以前にも似たようなアイデアがあった.1974年にジョン・ボナーは真核生物,多細胞生物,社会グループの誕生をまとめて,独立体が集まって複雑性を持つ全く新しい全体を生む例だとしている.
ジョン・ボナーはアメリカの発生生物学者で,形態の形成プロセスを進化的な視点も交えて考察した.また粘菌の研究でも有名な学者であるようだ.ここでは彼の1974年の著書「On Development: The Biology of Form」が参照されている.
- 次にバスは「個体性の進化」を1987年に書いた.それは現代の階層的視点を一冊の本として扱った最初の試みであり,特に多細胞性の進化にフォーカスしていた.バスの貢献は,新しい個体性のレベルが起源し,それが保たれるためのコンフリクトの抑制にフォーカスを当てたことだ.多細胞性の進化についてバスは,体細胞系列と生殖細胞系列の分化に注目し,それを癌細胞のような利己的な細胞を次世代に伝達しないための適応だと考えた.内部コンフリクトの抑制の強調は階層の問題を協力の問題に置き換え,それを社会進化の問題とした.
- 概念的レベルにおいて,バスは自身の階層的マルチレベル淘汰アプローチとドーキンスとウィリアムズの遺伝子視点アプローチを対比した.バスは明らかに階層アプローチの側に立っていたが,しかしそれはある意味趣味の問題だと強調した.「遺伝子視点を採用することが間違いであるわけではない.それは単に我々の科学の中心的ジレンマをほどくには役立たないというだけだ」
バスというのは進化発生学者のレオ・バスを指していて,ここでは彼の著書「The Evolution of Individuality」が参照されている.彼の議論は単細胞生物から多細胞生物が進化する過程において,個々の細胞の利益と多細胞個体の利益のコンフリクトが起こり得ることに注目したもので,淘汰の単位の議論の萌芽的な議論と見ることも出来るだろう.
- メイナード=スミスとサトマーリは(階層アプローチと対比して)遺伝子中心アプローチを支持した.彼らはこの点に関して明確だった.「我々はウィリアムズによって示され,ドーキンスによって明確にされた遺伝子中心アプローチにコミットする」
というわけで,ここに階層的アプローチと遺伝子視点アプローチが対比される下地が整ったということになる.ここから論争が始まるわけだ.


