日本鳥学会100周年記念企画展 「鳥類の多様性」



日本鳥学会100周年記念の企画展が上野の国立科学博物館で10月6日から12月9日まで開かれている.展覧会名は「鳥類の多様性:日本の鳥類研究の歴史と成果」(Japanese Ornithology History and Current Perspectives)
というわけで早速行ってきた.場所は日本館の左ウィング.全体では5つのテーマに仕分けられ,そのほかにトピック展示があるという構成.大変残念なことに企画展内部は撮影禁止だ.


 



1.日本における鳥類研究の歴史


まず正面には絶滅鳥カンムリツクシガモの剥製標本がオスメス2体展示されている.これは日本鳥学会のもっとも誇らしい業績ということなのだろう.メスについてはタイプ標本ということだ.
次に堀田正敦の禽譜の実物が展示されていて目を引く.開かれている絵は当然というかカンムリツクシガモであり,標本と見比べることができる.次に島津氏所蔵の図譜からルリカケスとシマフクロウの絵が展示されている.いずれも見事な出来映えだ.
その後シーボルト,ブラキストンの業績がトキなどの標本と一緒に解説されている.
そこからは日本鳥学会に関わるもので,飯島魁,黒田長禮,蜂須賀正氏,山階芳麿たちの業績が解説される.このあたりは「鳥学の100年」を読んでいるとなかなか楽しいところだ.ここで目を引くのはまず絶滅鳥ミヤコショウビンのタイプ標本,そして蜂須賀のところにあるフィリピンオオワシの標本,ドードーの復元模型あたりだろう.蜂須賀が集めたドードーの骨も展示されていて興味深い.


2.分類と種多様性の研究


ここではかつての形態による系統分類と分子系統樹(ここではHackett 2008によるものが使われている)が鳥類においては大きく異なっていることを説明し,新しい系統樹に従って世界の様々な鳥の剥製と骨格標本が展示されている.剥製標本の中ではヨーロッパオオライチョウ,オオハナインコあたりが印象深い.
このほかDNAバーコーディングと亜種の関係や,最近新しく出された日本鳥類目録についての説明もある.


3.生態研究


繁殖システム,托卵,渡り,採食についてそれぞれ初歩のところが解説されている.繁殖システムについてはイワヒバリが例として使われてビデオ映像も楽しめるようになっている.托卵のところではジュウイチのヒナの剥製標本があり,翼のところのホストヒナの口の擬態が確認できる.また渡りのところでは発信器やデータロガーの現物も展示されていて面白い.


4.生物多様性と保全研究


トキ,コウノトリの再導入,アホウドリの保全,ヤンバルクイナの危機(マングースの分布拡大が特に深刻であることがジャワマングースの剥製とともに解説されている)が解説されている.剥製標本としてはアホウドリとヤンバルクイナがすばらしい,特にヤンバルクイナのものは親とヒナが一緒に展示され印象深い.


5.その他のトピック


まず卵標本の展示があって楽しい.そのほかには日本の伝統との関係で,茶の湯に使われる羽箒,盆石などが展示されていた.


以上が企画展の全容である.小振りの企画で,特に多様性について焦点が当たっているという風でもないが,やはり山階研究所の貴重なコレクションがいくつか展示されていてありがたみがある.通常の入館料のみで閲覧可能であり,鳥類に関心がある人にとっては見逃せないところだろう.



なお常設展示部分は撮影OKである.これは同じ日本館のフタバスズキリュウとシマフクロウだ.



関連書籍


同じく日本鳥学会100周年記念にかかる出版物.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20120928

鳥学の100年

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