「Sex Allocation」 第10章 コンフリクト2:性比歪曲者たち その13

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


性比歪曲者によるホストへの影響の4番目のトピックは種分化への影響だ.繁殖隔離がポイントになる.


10.4.4 種分化とホールデン効果


細胞質不和合性(CI)を引き起こすバクテリアは種間の繁殖隔離を引き起こし,種分化の要因になると示唆されている.(Werren 1997; Hurst and Werren 2001)

  • 2つの個体群が別のCIバクテリアに感染すると,これはこの個体群間の遺伝子フローを双方向から制限する.
  • これが実際に生じていると思われる例はNasonia属のコバチだ.このコバチの3つの種は,それぞれ別のウォルバキアに感染しているのだ.このウォルバキアの感染はよくある繁殖隔離メカニズムである雑種不妊より前に生じているという事実もウォルバキアが種分化の要因になっているという考え方を支持している.
  • これに対して,片方の個体群があるCIバクテリアに感染しただけでは繁殖隔離は生じないと考えられる.なぜなら片方向の遺伝子フローは制限されず,このバクテリアはいずれ両個体群に拡散し,急速に固定するからだ.


この部分の説明はわかりにくい.そもそもこれが半倍数体にかかるものか倍数体にかかるものかが説明されていない.また遺伝子フローとバクテリアの感染は別の現象だから本来分けて考えるべきに思われる.
まず半倍数体では未感染個体群から感染個体群への遺伝子フローは制限されなさそうだ(未感染オスが感染個体群に移入する場合にはなんの問題も無くその遺伝子は流入するだろう.未感染メスが感染個体群に移入した場合でも,その移入メスは感染オスと交尾しても,自分の遺伝子を未感染オスとして個体群に残せる).そして感染個体群から未感染個体群への遺伝子フローはオス経由のものは制限されるが,メス経由のものは制限を受けないように思われる.つまり感染個体群から未感染個体方向でフローが半分になる.バクテリアはメス経由で感染するので感染個体群から未感染個体群に広がるだろう.
倍数体では未感染個体群から感染個体群へのメス経由の遺伝子フローも制限される.この場合双方向で半分になるように思われる.オス分散かメス分散かで方向性が生じるのだろう.バクテリアが感染個体群から未感染個体群にメス経由で広がるのは半倍数体と同じだ.

  • しかしある種の菌類を食べるショウジョウバエにおいては1種のCIバクテリアが繁殖隔離に関与しているようだ.逆方向の遺伝子フローの制限が別のメカニズム(配偶選択など)で可能であれば繁殖隔離が完成するからのようだ.別の個体群のメスが未感染オスのみと配偶するような行動による繁殖隔離が,Drosophila recensD. subquinariaの分布域が重なった地域で見つかっている.
  • CIバクテリアが野外で繁殖隔離のどの程度重要な要因になっているかについてはなおよくわかっていない.


異種間で交雑させるとしばしば偏った性比になる.「稀な,あるいは不妊の性は異型配偶子性側である」という現象は「ホールデンの法則」として知られる.(Haldane 1922)

  • これについてのよくなされる説明は,マイオティックドライブの固定具合とその抑制遺伝子が種間で異なっているからだというものだ.(Frank 1991;Hurst and Pomiankowski 1991)
  • しかしこれが一般的ではないのではないかという懐疑が,理論,実証両面から主張されている.(reviewed by Coyne et al. 1991;Charlesworth et al. 1993;Coyne and Orr 1993, 2004;Burt and Trivers 2006)
  • 確かに双翅目では何らかの要因になっているかもしれないが,他のマイオティックドライブがそれほど頻度が高くない系統群における説明にはなりそうにない.(Jiggins et al. 1999;Burt and Trivers 2006)
  • それにもかかわらず,マイオティックドライブが種分化には一定の要因になっているということはありうるだろう.((Frank 1991;Hurst and Pomiankowski 1991;Henikoff et al. 2001;Tao et al. 2001;Tao and Hartl 2003)アメリカのあるショウジョウバエにおいては交雑個体の不妊性がX染色体のマイオティックドライブによるものであることの証拠がある.また早期の否定的な実験結果は系統群の選択と実験方法による不運な結果であることが指摘されている.


ホールデンのルールは一部の学者の間では熱い議論になっている様子がこの引用文献の多さから窺い知れる.何故このように激しく争われるかの解説も欲しいところだ.