From Darwin to Derrida その39

 

第5章 しなやかなロボットとぎこちない遺伝子 その4

 
遺伝子はタンパク質を使ったロボットに柔軟なプログラムを仕込む.それを赤ちゃんと母親が微笑み会う状況を「タンパク質が光子を捉えることで情報を得てそれを神経系のタンパク質に伝えて柔軟に行動調整する」という視点で説明した後,次の例として寒いときの体温調節の仕組みが語られている.
 

温かい内部の輝き

 

  • 光子の解釈についての話は個体の内部情報についての他の情報ソースについても当てはまる.別の例をあげよう.(寒いときに気温と体温の差を感じて褐色脂肪細胞で熱を発生させる哺乳類の体温調節の仕組みが解説される.この仕組みについても遺伝子の直接介入はない)
  • この例において遺伝子の状態変化は直接的な役割を持たないが,遺伝子の状態変化は長期的な時間軸での反応の調節には関わってくる.(この反応において)β3アドレナリン受容体のシグナルは脱共役タンパク質1(UCP1)だけでなく,UCP1遺伝子にも届き,転写を増進させ,UCP1の生産を増加させる.(さらにノルアドレナリンに対する神経反応から生じる別の遺伝子の状態変化の説明がある)これらの状態変化はUCP1と褐色脂肪細胞を増加させ,その個体の次の寒冷事象への備えを形成する.

 
このあたりは分子レベルの実体を説明することにより遺伝子が動物の行動のどんな部分にどういう影響を与えられるかを読者にはっきりイメージしてもらうというねらいで書かれている.ここからちょっと楽しいコメントがある.
 

  • 本書はある個体レベルの自動機械(私)が別の個体レベルの自動機械(読者つまりあなた)とコミュニケートする目的で書かれている.私たちはどちらも私たちを操ろうとする遺伝子のコントローラーにつながれているが,ほとんどの意思決定は自分自身で行っている.私たちの感じる痛みや喜びは遺伝子が私たちの意思決定を操るために使っている鞭やニンジンにあたる.遺伝子は,私たちのことをかまわず,世界のことを知らず,遺伝子同士で同意することもない.私たちは遺伝子の示唆をリスペクトすべきだが,しすぎてはいけない.
  • 本書の内容が遺伝子の目的に沿っているとしても,それはとても間接的なルートでそうなっているだけだ.私たち自身は遺伝子の目的ではないのだ.

 
このドーキンスの「利己的な遺伝子」は「動物(そして人間)は遺伝子の操り人形に過ぎない」といっているのだという誤解は,これまでヘイグを散々悩ませてきたのだろう.とにかく噛み砕くように丁寧に説明しなければという雰囲気を感じる.


利己的な遺伝子 40周年記念版

利己的な遺伝子 40周年記念版